文化の日
少し人工的な光が、チカチカと輝く。
「よし……」
準備は万端。僕、海堂悠馬は最後の点検をしていた。今日、僕はずっと好きだった彼女に告白する。
受験の日、消しゴムを忘れた僕に声をかけて、まっさらな消しゴムを貸してくれた。お互い志望校に合格したが、運悪く同じクラスにはなれず、一方的に見つめるだけという長く辛かった日々。それも今日で終わりだ。
文化祭の出し物という名目でプラネタリウムを作った。彼女はきっとキラキラしたものが好きだから。二人だけの星空の下、かっこよく想いを伝えるのだ。
「完璧……」
「何が完璧なの?」
「へっ!? は!? え!? ち、千島さん!?」
いつの間にか、その彼女が目の前に立っていた。千島りか。十五歳。隣のクラスの小柄で可愛い女の子で、僕の想い人。
「え、えーと……サイエンス部へようこそ! プラネタリウムの見学でよかったかな?」
「うん。海堂くんが誘ってくれたんじゃない。忘れたの?」
ふふっ、と千島さんが笑う。もう星なんてなくても十分明るい気がする……。本当に可愛い。
「あっ、こ、ここ座って! ええーと用意するね!!」
「うん。……凄いね、これ全部海堂くんが作ったの?」
「う、うん! 一応」
残念ながらサイエンス部は一人なもので。一人でコツコツ作っていた。
褒められたことに照れながらも、プラネタリウムを起動させる。
「わぁ……!!」
千島さんが驚き、そして笑顔になって星空を眺める。
綺麗だった。プラネタリウムの光なんかよりもずっと。ああこの人が好きだ。なんとなく思った。
「千島さん」
「なあに?」
「あの……」
好きです。
言うはずの言葉は発されることはなく。
「あの……す、好きな人とかいる?」
「え?」
おいおい、と自分でも思った。ああなんでこうなるんだ。もしサッカー部のイケメンとか言われたらどうするんだ。ああもうなんで。もうだめだ。変な人だと思われた。ああ……。
悪い予想がグルグルと回る。返事よ来るな。誤魔化せ。早く……!
「や、やっぱり今の無しにーー」
「いるよ」
「あ…………」
「……うん。いるよ」
照れ臭そうに笑う彼女から目をそらした。ああ本当に僕は意気地なしで馬鹿だ。聞きたくない。聞きたくないのに、口は意思に反して言葉を発する。
「……どんな、人?」
「うーんとね」
嫌だ聞きたくない。きっとクラスのあいつや噂のあの先輩のことだ。嫌だ。知りたくない。
「運動が苦手で、イケメンでもないし、全然目立たないの」
「え?」
「それにちょっとロマンチストだし、独り言言ったりするし……。でもね、素敵な人だよ」
そんなの当てはまるのは……。希望を持ってもいいのだろうか。恐々とその答えを求めて口を開く。
「その人って……」
「あ、そろそろ帰らないと! 海堂くん、誘ってくれてありがとう! すごく綺麗だったよ」
「え、あ……」
行ってしまう。今、言わないと、行ってしまう。
「あの!」
「どうしたの?」
「千島さん!」
大きく息を吸う。
「貴女が好きです!!」
「知ってる」
彼女の香りがすぐ近くでする。
「私はねーー私の好きな人はね」
耳元に吐息がかかり、高熱が出た時のようにくらくらする。
「内緒」
ふわりと彼女が離れる。
「またね、海堂くん」
いたずらな微笑みにぐらりと心が揺れる。
ああ、やっぱり僕は貴女がーー
ーー大好きだ。