#3 赤髪の彼女
どうも私です。マイペースに投稿しています。表現とか変なところがあるかもしれませんが、そこは温かい目で見てくださるか、ご指摘いただけると幸いです。
刹那、意識が戻り、軽い眩暈を起こす。
落ちてきた時と同じ気持ち悪い感覚だ。
ここはさっきと同じ洞窟の中。周りは、相変わらず水晶や鍾乳石みたいなのが光を反射して輝いている。
咄嗟に自分が何を掴んでいるのか気になり左手の先に目を向けた。
「えっと……」
そこには、薄い黒色のローブの様なものを着た、同い年くらいの、綺麗な白い肌の長髪の透き通った赤髪の女性が瑠璃色の目を尖らせ、自分と反対の手を繋ぎ「呆れた」と言わんばかりの態度で出口の光を背景にして、しゃがんでいた。
赤髪の女性はハァ…と短いため息をつき、
「なんなんですか?やっと起きたと思ったら、急にものすごいスピードで私の手を握ってきて」
と言い、眉を顰め軽蔑するような目で俺を見てきた。
「え……なんで?」
おかしい。
この人誰?
俺がぶっ倒れて地面を拝んでる間、レナ王女や周りの人たちは?
そんなに時間がたったってことか。
でもそれなら、さっさと復活魔法的な蘇生術使ってまた生き返らせたはずだ。
じゃあなんだこの女性は?
「なんでって……あのですね。 それはこっちのセリフです」
「たまたま私が通りかかったからよかったですけど、もし居なかったら貴方死んでたかもしれないんですよ?」
繋いだ手を離し、ゆっくりと立ち上がりながら目の前の女性が放った言葉に耳を疑った。
「死……んでた?」
「そうですよ。何回起こそうとしても石みたいに硬くて全ッ然動かないし。それに大体、この嘘影の水晶洞で昼寝って相当度胸ありますね。なんですか?自殺ですか?」
まてまて、なんなんだコイツ。
軽く馬鹿にしてきてないか?
やばい、相手のペースに押されてる。こういうタイプは苦手だ。とりあえず問いかけには応えるようにしておこう。
赤髪の女性は、またため息をついた後、こちらを向き、
「全く……。貴方のせいで服が汚れてしまいました。これは後で弁償してもらいますからね」
と、強気な口調で話してきた。
そういえばよく見ると、黒いローブの横腹の部分が破けていたり赤い液体の後の様なものが付着している。
(まてよ……赤い液体の後……それにうっすら匂うこの臭い……)
血だ。
学校でサッカーボールを顔面に喰らい、鼻血を思いっきり噴出した時と同じ臭いだ。
あの時は痛かった。遊びでキーパーなんてするんじゃなかった。俺は走る方が性にあってる。ってそんなこと思い出してる場合じゃない。
――わかった。そういうことか。
やっと流れが分かったぞ。
つまり、こいつは王都の重要人物が来るという情報を聞きつけ、王女やその周りの奴らを殺した。
要するに、暗殺者だ。
なんで俺を殺さなかったのかは知らないが、とにかくこいつはヤバいやつだ。
とりあえず聞いてみて、確証が持てたら、うまいこと言ってダッシュで逃げる。よし、それで行こう。
「弁償って……。 一体何をすれば、そんなに汚れるんだよ」
言った。
言ったぞ。
これで、さっきの俺の仮説が正しければここで、人を殺した的なことを――
「何って……魔物と戦ってたら大体こうなりますよ」
「え? 魔物?」
「ええ、魔物です。 といってもゴブリン達F級の魔物ですけど。 信じられないなら、後ろを見てみてください。」
振り返ってみると、確かにそこには無残な姿のゴブリンと思われる魔物達が転がっていた。
開いた口が塞がらなかった。
魔物?
そんなはずはない。
俺が倒れる直前まで、レナ王女達はそこに居た。
そこに居て、心配そうな顔をしていたのを覚えている。
倒れて起き上がるまでにそんなに時間はたっていないはずだ。
それに、50人以上は人がいたんだ、魔物相手に全滅なんてありえない。
「――レナ王女たちは……?」
突然の王女発言に、赤髪の女性は戸惑ったような表情を浮かべた。
「レナ……王女……?」
すると赤髪の女性は、何言ってんだコイツ。と、言わんばかりの顔でこちらを見てきた。
そして、人差し指を立て説明するような素振りをしながら話してきた。
「王都の現王女様がこんな辺鄙な場所に来るわけないでしょう? それに、あなたは一人でゴブリン達F級の魔物に囲まれて、ずっと寝ていたんですよ?」
嘘だろ。
意味が分からない。
レナ王女や、沢山の人々がそこにいたんだ。
「一人? いや、そんなはずはない。 俺は復活魔法か何かで復活して、みんなに囲まれながら出口に向かってたんだぞ!?」
ユキヤは強気な口調で事実を述べた。
「ゴブリンなんてどこにもいな――!」
「幻術魔法です」
赤髪の女性は、両手を前に合わせてかしこまり、急に真剣な表情をしてそう言い放った。
ユキヤは時が止まったかのように驚いた。
「私も魔術師の端くれ。 あなたの言い分から察するに、あなたは何者かに幻術魔法――そして催眠呪術をかけられていたんだと思います」
「私の推測では魔術師が魔法を何らかの理由でかけ、そして何故かその場から立ち去り、そこに魔物達が群がってきたんだと思います」
そういえば、頭を打ったはずなのに血も出ていなければ痛みなどない。
コイツの言うことが正しいなら、俺は落ちている間、頭を打つ前にその魔法にかけられていた。
だが何の目的で、かけたんだ。
「俺は、ずっと夢でも見てたってことなのか?」
「まぁそんなところですかね。 でも一体誰が……」
そう言って赤髪の女性は腕組をし、考え始めた。
確かに、いきなりあんな待遇されることなんて普通はない。いい気になってた俺が馬鹿みたいだ。
「――まさか……そんなことないですよね」
暫く考えていた赤髪の女性は小声で何か言い、一区切りついたのか腕組を解いた。
「さてと……あなたには一緒に来てもらいます。まだ弁償してもらってないので」
コイツ意地でも弁償させる気だ。
まぁ命を助けてもらったんだ。金なんてないけど行く当てもない、いろいろ起こったから一息つきたいしな。とりあえずついていくしかないか。
「わかったよ、恩を仇で返すような人間には育てられてないからな」
そう言うと赤髪の女性はフフッと笑みをこぼした。
「話が分かる人で良かったです」
赤髪の女性は笑顔になり、自慢げな表情を浮かべた。
不覚にもその表情に可愛らしさを感じ目を背けてしまった。何考えてんだ俺、コイツ今から俺に金払わせようとしてるからな。
「ここから、町まではそう遠くありません。仕立て屋までついてきてください」
赤髪の女性はユキヤに背を向け、外に向かって歩き始めた。
ユキヤも少し遅れて、その背中を追う。
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外に出ると、心地よい風が吹き抜け、暖かな日差しが降り注いだ。木々が揺れ、草花が香り、雲一つない青空。鳥のさえずりの様な音も聞こえる。RPGゲームで見る綺麗な風景そのものだ。
足元には街道があり、一直線に伸びていて、先の方に分岐点と看板の様なものが見える。幻術の中でレナ王女が言っていたような王都はそこからは見えなかった。
風になびく赤髪を左手で押さえながら、赤髪の女性は振り向く。
「そこの分岐路を左に曲がると目的地です。街道は比較的安全なので、魔物の心配はいりませんよ」
そう言うと赤髪の女性は突然変なものでも見るかのような目をした。
「さっきは薄暗くてよく見えなかったんですけど…あなた変な恰好してますね」
おいおい、待ってくれよ。白いTシャツの上にパーカー着て、ジーンズパンツ履いてる俺、そんなに変か?友人とかと遊びに行くことなんかあんまりないから、服とかのセンスなんてわかんないけど、そんな目をされるほどひどい恰好じゃねーだろおい。
「変な恰好とは失礼だな。それに、そういうお前もどっかの教団みたいなローブ纏ってて変じゃねーか?」
ユキヤの発言に「は?」という表情をした赤髪の女性は口を開いた。
「何を言ってるんです?ローブは魔術師の象徴。それにこのローブには、状態異常を起こす魔法を無効化する力があるんですよ?」
何それすごい。俺も欲しい。
用するにゲームでいう「バフ」とか「パッシブスキル」的な感じか。
それと比べて俺の装備と来たら、んなもん全くない上にこの世界じゃ変な恰好ときた。まぁ初期装備にぴったりっていうところだけが売りだな。
ユキヤはふと何か思い出したのか、口を開いた。
「そういえば、お前魔術師の端くれって言ってたけど何か魔法使えるのか?」
赤髪の女性はその言葉に対し、ムッとした表情でユキヤを睨んだ。
「使えます!馬鹿にしてるんですか!?」
赤髪の女性は続けて話した。
「それに、お前お前って失礼ですね。私にだって名前くらいあります!」
突然怒り出した赤髪の女性に押されながらも、ユキヤは言い返した。
「そんなこと言われたって、名前わかんないからお前っていうしかないだろ!」
当たり前だ。
知らないのにどう呼べっていうんだ。あれか、俺は超能力者か。
「――ルミアスッ!」
「えっ?」
突然の返答にユキヤは一瞬困惑した。
何?なんて言った?
赤髪の女性は何故か少し照れた表情を浮かべた。
「私の名前……ルミアス……」
温かな風が吹き、綺麗な赤髪がなびく、陽の光を精一杯に浴びた彼女はユキヤを真っ直ぐ見ていた。
あーわかった。
そういうキャラか。
コイツはいわゆる「ツンデレ」キャラだ。俗にいう「べ、別にあんたのためじゃないんだからねっ!」を武器にアニメ界を渡り歩く奴らだ。初対面の奴にこれほどまで来るのは正直どうかとは思うがな。
性に合わないけど、ここは俺も自己紹介しておいた方がよさそうだ。
「俺は幸八。梵 幸八だ。」
「ユキ……ヤ……」
ルミアスはユキヤの名前を確かめる様に小声で復唱すると、ユキヤに背を向け再び前を向いた。
「恰好だけじゃなくて、名前まで変なんですね」
そう言うと、ルミアスは振り返らずまた歩き始めた。
(うわーめんどくさいやつと関わっちまったなぁ)
ユキヤは頭をかきながら心の中でそう呟き、彼女の背中を追ってまた歩き始めた。