#1 真っ白と真っ暗な世界の狭間で
どうも、初めまして私です。初投稿作品で、正直誤字脱字とか、表現の違いとかあるかもしれません。その辺は温かい目で見てくださると嬉しいです。とりあえずで執筆してみたので、人の趣味程度でご覧いただけると幸いです。
「この世界を退屈に感じるなら、夜、ここに来てください。 [白夢館]……か。」
白い紙に、地図と黒い文字とで淡々と書き綴った紙をポケットから開き、呟いた。
ここは、とある町のとある繁華街の路地裏。
繁華街の賑わいとは逆に、ここは人っ子一人いない静かで寂しい場所だ。
俺、梵 幸八[17]はいっつも同じことの繰り返しをするだけのテンプレすぎる生活を送っている、ごく普通の人間だ。
そんなテンプレ生活に嫌気が差し、何か突飛なこと起きないかなーって思ってたら、ある日、自宅のポストに怪しげーな手紙が入っていたんだ。
気になって読んでみると、なんとも胡散臭い内容の手紙だった。
どこの誰だか知らないが、こんな悪戯をして来る奴なんているんだな。って思ったけど、こんなこと中々起こることなんて無いから、折角だし行ってみようって思った。
自宅から繁華街は、そう遠くない位置にあり、走っていけばものの10分程度で着く。
そこからこの路地裏を見つけるのは少々手こずったが、手紙にあった地図のおかげで何とかたどり着けた。
そうして、現在に至る。
「……にしても怪しい外観の館だな。差出人はここにいるのか?」
路地裏の中でも奥のほうにある小さな館。
少し暗いが、入り口と思われる鉄扉の上に木を彫ってできた看板があり、白夢館と書かれている。
ここで間違いはない様だ。
「……お邪魔…します」
右側のポケットに手紙を入れながら、慎重に重厚な扉を開ける。
「すみませーん」
そう言って中に入る。
返答はない。
中は思ったより怪しげな感じはなく、シンプルな造りの殺風景な部屋だった。
大きさは2帖ほどで、冷たいコンクリートの壁と天井にぶら下がる電球が独特の雰囲気を作り出していた。
(狭いな……っていうかこの部屋だけか?人の気配もしないし。一体なんなんだ?まさかマジで悪戯とかっていうパターン?……)
そんなことを考えていると突然。
バタンッ!
後ろにある半開きの扉が不意に閉まり、さっきまでうっすら聞こえていた繁華街のガヤガヤとした音は完全にシャットダウンされた。
うおっ!!と反射的に声を上げると同時に、
「あーびっっくりした!今時流行んないよ!?そんなありきたりなホラー映画みたいな演出ッ!」
と、いつもの癖でつい、ツッコんでしまった。
盛大に人差し指で指さしをして。
扉に。
学校でも何かと突っ込んでしまうことが多いが、誰もいないところで一人で物に向かってにツッコむことなどない。むしろそんな奴いたら、気持ち悪すぎて通報ものだ。
流石に羞恥を感じたが、ここには誰もいない。誰も見ても聞いてもいない。よし。大丈夫だ。もう忘れよう。
大体、こんな手紙信じて来る俺が馬鹿だった。使ってない空き部屋に看板つけて、手紙に地図と文字描いて送れば、こんな簡単なこと誰だってできる。
(……ってあれ?なんで俺ん家の住所知ってんの!?怖ッ!)
そんな推測を巡らせていると突然。
「なんじゃあ若いのッ!部屋に入るなり大声を上げるとは・・・とんだ無礼者じゃな!」
聞いたことのない少女の声が、閉まったはずの扉の方から聞こえた。
一気に緊張感が増す。
扉の先に人がいるのか?いや、この路地裏には人なんていなかったし、気配なんてしなかった。誰かがつけていた可能性は低い。だってこの路地裏一本道だったし。エアコンの室外機みたいのが2,3個あったくらいだ。隠れれるところなんて無かった。
それに、夜中に少女が路地裏に出てきて、扉に向かって流暢にしゃべってくるとかおかしすぎる。
(そういえば、無礼者って言ってたよな……。ってことはこの部屋の住人!?)
推測が推測を呼び、自分の中で様々なシチュエーションが浮かぶ。
そうしていると、扉がゆっくり開きだした。
もう終わりだ。
警察に通報されて、住居侵入罪で即刻アウトのパターンだ。それか、こいつは霊的な奴で何らかの理由で恨みを持ち、俺を殺しに来たとか・・・。うん、それはないか。
「住居侵入罪とかなんとか、五月蠅い奴じゃの。もっと冷静になれんのか?」
「えっ……」
唖然とした。
今考えていたことを当てられた。ということもあったが、それ以上に目の前に映る景色が、俺に特にそう感じさせた。
完全に開ききった扉の向こう。眼前に広がるのは、一面真っ白な世界。
さっきまであった路地裏なんて景色は無くなり、穏やかな風と水面の様な白い地面が空を映し、その空が均等に白く光っていた。
それは、流石に自分でもわかった。ここは、俺がいた現実世界ではないと。
そして、そんな世界の中。真っ白な世界と対比する漆黒のドレスを身に纏い、白髪ツインテールを兎の髪留めで留めた姿の、その少女はそこに立っていた。
ムッとした表情をした、その少女は口を開いた。
「そこの青年。いや、梵 幸八。おぬしは、何用でこの白き最果ての地へと足を踏み入れた?」
「えっ……いや、その、あの、ここは…一体……」
質問に質問で返してしまった。
「はぁ……。わらわの質問は軽く無視と来たか。まぁよい。説明してやろう」
(案外優しいな。)
「案外とはなんじゃ!無礼者が調子に乗るでない!」
しまった、この人は多分相手が何を思っているのかわかる設定のキャラだ。
今まで数々のアニメやゲームをしてきた俺にはわかる。
さっきのあれもそうだ。
絶対違いない。
少女は話を続けた。
「全く……。今回はとんだ間抜け物が来たようじゃな」
「よいか?ここはおぬしの世界とは完全に隔離された場所。世界と世界とをつなぐ境界線じゃ。」
「信じられぬのなら周りを見てみなされ。おぬしが先ほどまでいた部屋などないであろう?」
少女に言われたように周りを見渡してみる。
俺がいた場所がいつの間にか真っ白になっていた。
なるほど、こいつは楽しくなりそうだ。
「わかったか?ここは世界ではなく場所じゃ。場所そのものなのじゃ。」
「この場所は、その神聖さ故に何らかの特別な理由がなければ、ここに訪れることはできないのじゃ。」
「そこで、ここまでたどり着いたおぬしが、何用で来たのかと問うたのじゃ。」
「見る限り、おぬしには何も感じられん。ましてや、特別な理由などというものは皆無じゃ。」
「ひどい言い方だな……。ふむ…特別な理由か……」
特別な理由。
そんなものは言われた通り何もない。
ただ一つだけあるとするなら、
「この手紙が家に……」
右側のポケットの中に手を突っ込む。
だが、その手はポケットの中で空振り続けた。
「あれっ……?」
ない。
ないのだ。
さっきまでポケットに入れていた手紙が跡形もなく消え去っている。
ここまで来た唯一の手掛かりが消えていた。
「さっきまであったのに……」
俺の心が読めたのか、少女は腕を組み考え始める。
「手紙か……。そんなものが来るはずがないのじゃが……。」
暫く考える素振りした後、何か解決したような顔をして、再度こちらを見て再び口を開いた。
「ふむ。興味深い!よいだろう。おぬしをその世界へと案内してくれようぞ!」
そう言い放つと、少女は目を閉じた。
すると、突然足元が真黒になって、徐々に大きくっていった。
それと同時に、自分にかかる重力がだんだん強くなっていく。
動こうとしても、動けない。
体が言うことを聞かないのだ。
「えぇ!?何これ!?」
これはマズイ。
これ、殺されるパターンか?
だったら嫌だ、まだ死にたくない。
こいつ何者なんだ。
なんでこうなったんだよ。
何が何だかわからない幸八は、
「何が興味深いんだ!?何がわかったのか教えてくれよ!」
と、必死の問いかけをするが、少女は目を閉じたまま応答しない。
足元の黒いやつは、より深くなり、どんどん重力が大きくなっていく。
(あ、これ落ちるやつだ)
直感で分かった。
この手のものは、落下していくタイプのやつだ。
それでこいつは、魔法使い的な何かだろう。
現実世界とは違うんだ。
そういう系じゃなきゃ、この状況を説明できない。
そんなことを考えていると少女が口を開いた。
「新たなる旅立ちに向けて、おぬしにも特別な能力が授けられたようじゃな。」
「え!?何!?どんなやつ!強いの!?」
「どんなものかは、わらわにもわからん。」
「そっちに行って確認せい」
「そんな無責任な……」
大体こういうのは、主人公に願いを聞いて、その願いを叶えてくれるやつじゃないのか。
なんだこれ、酷過ぎる。
っていうか重力つらい。なにこれ。
体中が悲鳴を上げ、立っているのがやっとなほどの重力。
こんな体験は初めてだ。
「新たな世界に行く前に何か聞きたいことは?」
聞きたいこと。
今更あの部屋どうなった?とか、なんでこんなに白いのか?とか、何食って生きてんだ?とかはどうでもいい。
またこいつに会う機会ができたらいっぱい話してやる。
ただ、その機会を作るためにも、最低限度知っておく必要のある事項がある。
それは、
「お前の名前は!?」
フッ。と小さく笑みをこぼし、目を閉じた後、こちらを向き直して言った。
「そうじゃの。白黒の巫女とでも言っておこうかの」
「白黒の巫女……覚えとくぜ!」
そう決め台詞を放った瞬間、一気に重力が強まると同時に真下に急速落下していった。
何も見えない真っ暗な世界。
ただ落ちていることはわかる。
子供のころ、泣きながらバンジージャンプをした時の事を思い出した。
あの日もこんな感じだったっけ。
すげー嫌だったな、今もだけど。
物思いに更けていると、突然、
ゴッっと鈍い音が脳内に響き渡った。
頭を打った。
それは、すぐにわかった。
痛てぇ。なんて思う間もなく、俺の意識はどんどん遠退いていった。
うっすら見える血飛沫と、力を失った体が操者のいないマリオネットのようにだらける。
薄れゆく意識の中で、誰かの声がうっすらとだが、聞こえてくる。
「―――人目だ!―――くしろ!」と。