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一週間経ちました



 別邸で暮らすようになって約一週間が過ぎました。この一週間、私は神経をすり減らしての生活を送っていましたが、少しだけここでの生活に慣れてきました。その中で分かった事がいくつかありました。


 まず、レオナルド様とはあまり顔を合わす事がないという事です。食事は各々別に取りますし、レオナルド様は帰りが遅い事もあり顔を合わす機会が無いのです。一応妻として見送りとお迎えはした方がいいと考えていましたが、本人から拒絶されたのであれから一切していません。もう、絶対してあげませんけどね。

 とまあそんな訳で、レオナルド様との接点は殆どないという有り難い環境にあります。


 そして私はこの一週間で大体の使用人の顔と名前は覚えました。彼らはアンナの言うように一応私に仕えてくれるようです。といっても、物凄く不服そうな表情を隠しもせず渋々といった様子なのですが、そんな彼らを見るのが今私の一番の楽しみでもあります。不遜な態度をしても怒りもせずニヤニヤしている私に逆に戸惑ったり憤りを見せるイケメンというのは、なかなかに面白いです。前世ではイケメンとは無縁でしたが、こうしてイケメンに囲まれて生活出来るのですから楽しまないと損ですよね。


 大半の使用人はこうして私の娯楽に貢献してくれるのですが、中には反抗的な者やよく分からない者達がいます。彼らも特に私に害を及ぼすという事はしないようですが、いささか反抗的だったり挑発的だったりします。


 その内の一人が、執事のブラッドフォード。

 彼はよく分からない人物でした。献身的にレオナルド様を支えているようですが、私に対しては常に不敵な笑みを浮かべてじっと見てくるだけです。ですが、ふと視線を感じて周囲を見渡すと彼の姿を見かけるのが少し気になるところではあります。

 私の身の回りの事はアンナに任せているので、ブラッドフォードとの接点も殆どありません。言葉を交わしたのもまだ数回と殆どないです。

 そんな彼と貴重な会話をしたのは、庭に咲く薔薇を見ていた時でした。



「まあ、とても綺麗な薔薇ね」

「それはありがとうございます」

「ひぃっ!」


 誰もいないはずでしたのに、気づけばブラッドフォードが私の背後に立っていました。足音に気づかないほど見惚れてしまっていたようです。けれど、あまり背後には立って欲しくないですね。心臓に悪いです。


「おや、指から血が出てしまっておりますよ」

「これくらいなんでもないわ」


 薔薇に手を伸ばして触ろうとしていたところに急に声をかけられ驚いてしまい、手を引いた時に棘で引っ掻いてしまったようです。この程度の傷すぐに血だって止まりますし、問題ありません。そう思っていたのですが、ブラッドフォードは私の手をそっと手に取り傷のついた指を口に運んで、何を血迷ったのかペロリと舐めたではありませんか!


「リリアーナ様の血は甘いですね」

「……え、えぇっ!? ちょ、ちょっ」

 

 なんて事してくれてんの!? 傷口からばい菌入ったらどうしてくれんのさ! イケメンだからって何でも許されると思ったら大間違いだからな!


 ブラッドフォードはハンカチを取り出し私の指に巻いてくれました。最初からそうしてくれれば良かったのですが、なぜあんな奇行に走ったのでしょうか。イケメンの血がそうさせるのでしょうか?


「大丈夫ですか? 顔色が優れないようですが」

「……問題ないわ」


 心配そうに伺ってくるのですが、どうして両手で私の頬を包み込んで顔を近づけてくるんですか! 顔色悪いのは貴方のせいですよ! ばい菌を侵入させられて平然としていられる訳がないじゃないですか! それに馴れ馴れしいにも程がありますよ。貴方もしや女性も好きなんですか? まさか……両刀!? さすがレオナルド様の執事、恐れ入ったわ。

 ブラッドフォードはそっと私から離れると、ナイフを取り出し薔薇を一輪切って棘を剃り落とした後、軽く薔薇に口づけをした。


「私の思いを込めた薔薇です。どうぞお受け取下さい」

「……え、えぇ」


 呪いではないですよね? あまりこういった気色悪いことしないで欲しいんですが。


「ああ……やはりこの薔薇はレオナルド様でないと、本来の美しさを発揮しきれないようですね。リリアーナ様の地味なお顔立ちでは折角の美しい薔薇の魅力が半減してしまいます。リリアーナ様がもう少し目が大きく鼻もすっと高く顔ももう少し小さければ良いのですが。瞳の色もありがちな茶色ではなく空のそうな綺麗な青なんていいですね。髪の色は甘栗色も良いですが、やはりレオナルド様と同じ金髪が良いでしょう。そうすれば、少しはこの薔薇に似合うと思いますよ。ああ、誤解しないで下さいね。今のままでも十分素朴で素晴らしいですよ。地味で素朴なのがリリアーナ様の魅力ですから」


 ……ちっ!

 ここまで面と向かって顔にダメ出しされたのは初めてですよ。目も鼻も顔の大きさも変えたらそれもう別人じゃないですか! 私という人間を全否定してくれるとは、なかなかいい性格しているじゃないかブラッドフォード。イケメンだからって調子に乗んなよ! 後で絶対この屈辱を倍にして返してやるからな、覚えてろよブラッドフォード!

 取りあえずそれまでは、脳内でこいつを幾度となく闇に葬ってやろう。それで我慢しなくては。


「では、そろそろ仕事に戻らねばなりませんので。失礼致します」


 ブラッドフォードは不敵な笑みを浮かべながら美しい礼をとり去っていきました。

 とりあえず、ブラッドフォードのお陰で私には1つの使命が出来ました。3年間の間に奴にぎゃふんと言わせて私の前で膝を折らせてみせます。






 そしてもう一人がセシルという少年。彼は私を大層嫌っているようです。顔を合わせる度に睨まれるのです。そこまであからさまに敵視しなくてもいいのにと、ちょっと悲しくなりました。セシルは14歳のこれまた美少年なのですが、少し吊り上がった猫目のせいか生意気そうな印象があります。まだ変声期を迎えていない少し高い声が生意気な口調と相まってなんとも可愛らしくて堪りません。弟と同じ年という事もあり本当は仲良くしたいところですが、顔を合わせれば威嚇してくるので残念です。


「何か?」

「いえ、別に」


 掃除をしていたセシルを見ていると、ギロリと睨みながら問いかけてきました。これでも一応この家の女主人なんですが、と言いたいところですが言ったところで無駄な気がするので止めましょう。それにしても、どうしてそう威嚇してくるのでしょうか。他の方々よりもこの子は私に対して当たりがきつい気がします。正々堂々と真正面から敵意を隠さないからそう思うだけかもしれませんが。


「そうやってデカい顔していられるのも今の内ですよ」

「え?」


 デカい顔? 今の内?


「そうやって無害な振りして旦那様の気を引こうとしているのでしょうが、貴方の策などとうにお見通しです。せいぜい旦那様の気が引けるよう頑張って下さい」

「……は?」

「一体どれだけここに居られるのか、見物(みもの)ですね」


 セシル少年は馬鹿にしたように笑うとこの場を去っていきました。

 何やら好き勝手言ってくれましたが、全くの誤解なんですが。ただ普通に静かに過ごしていることが、レオナルド様の気を引こうとしていると勘違いされているとは。恋は盲目とは言いますが、ここまでとは知りませんでした。いえ、この場合盲目ではなく節穴ですね。一体彼は何を見ているのでしょうか。

 というか、なぜ私がレオナルド様を好きだと思っているのでしょうか。そこから疑問なんですが、もしかしてあれですか。私みたいな平凡な女は美青年であるレオナルド様を好きになるのは当然みたいに思っているのでしょうか。だとしたら、思い上がりも甚だしいですね。


 自慢ではありませんが、私はそう簡単に人を好きになんてなりませんよ。前世ですら初恋未経験なんですから。顔が良いから好きになるなんて思わないで下さいね。そういう感情が欠落してしまった人間には外見なんて何の意味も無いのですから。

 恋愛に興味が無いという訳ではないですが、自分優先な私には恋愛は向いていないと思います。誰かの為に自分を犠牲に出来るような人間ではないのですよ、私は。少女漫画や恋愛小説を読んでは、甘酸っぱい青春やすれ違う恋人達の話にニヤニヤしながら楽しんでいましたが、同時に自分には無理だなと思っていました。

 一度くらい、誰かを好きになってみたいものですが……そんな未来は想像すら出来ません。きっとそんな未来など訪れることなどないでしょう。




 今のところ私に反抗的だったり挑発的なのはこの二人だけですが、きっと他にもいるはずです。その片鱗を見せている者もいるので、今後も注意して動向を見守るとしましょう。




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