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怒らせてしまいました



 私は侍女に案内され、私の新たな部屋に来ましたがなんだか豪華過ぎて落ち着きません。とても広い上に置かれている調度品はあれもこれも高価そうなものばかり。気を付けて過ごさないといけないですね。持ってきた荷物も運びこまれており、整理でもしようかと思いましたが止められました。


「リリアーナ様、ご指示くだされば我々で行いますので」

「いえ、でも」

「貴方様はレオナルド様の奥方様です。そのような事させる訳にはまいりません」

「……分かったわ」


 一通り整理が終わる頃には、なんだか疲れてしまいました。指示していただけなんですが、とても疲れました。




 それから間もなく夕食の時間になり、私は侍女に案内されるまま向かうと既にライズベル様とレオナルド様がお座りになって待っておりました。待たせてしまった事に気づき、さーっと血の気が引いていきます。初日からこんな失態、嫁として非常にまずいです。

 ど、どうしましょう。


「あの、お待たせしてしまい誠に申し訳ございません」

「ああ、気にしなくていい。この馬鹿息子と少し話をするために早めに来ていただけなんだ」

「そ、そうですか」

「さあ、君も座りなさい」

「はい」


 笑顔を浮かべるライズベル様とは反対に不機嫌な顔を浮かべるレオナルド様。一体どんな話をされていたのでしょう……レオナルド様の様子を見るにきっと私の事ですよね。一切私には目を向けないレオナルド様に少し悲しくなりました。


「どうだい、うちの料理人の腕は。なかなかに美味いだろう?」

「はい、とっても美味しいです」

「そうか。口に合って良かった」

「この料理食べた事ありませんが、とても美味しいです」


 どれも本当に美味しいです。うちは貧乏貴族だったので、こんな豪華な料理食べた事ありません。それに、この肉が煮込まれたビーフシチューに似た料理。お肉を口に入れるととろけてとっても美味しいです。


「ああ。それ、レオナルドの好物なんだよ、な?」

「……」

「まあ、そうなんですか?」

「……」


 私とライズベル様に見つめられているレオナルド様は、こちらに目を向けず黙々と食べ続けています。静かに食べているレオナルド様の仕草の優雅さに、私は思わず魅入ってしまいました。なんて美しいのでしょうか。ずっとこのまま観察していたいくらいです。


「お前は、またそういう態度を。すまないね、リリアーナ」

「いえ、気にしておりません」

「……へえ。気にしてない、ね」


 初めてレオナルド様と目が合い、私は文字通り固まってしまいました。美しいはずの碧の瞳には憎悪が滲み、冷たく蔑んだ目に睨まれ、私は息をすることすら出来ないほどの威圧感です。


「本当、図太い神経だこと。アンタのその愚鈍そうな顔の下にはどんな卑しく浅ましい女の醜悪さが隠されているのかしらね? 同じ空気を吸っているだけで不愉快で堪らないわ」

「レオナルド! お前はっ!」

「……父上。俺に構わないで頂きたい」


 レオナルド様はそのまま席を立つと出て行ってしまいました。ライズベル様は申し訳なさそうに謝罪をして下さいましたが、私は上の空でなんて言われたのかあまり覚えておりません。その後、気まずい雰囲気の中食事は終わり、私は自室に戻りベッドに横たわりました。



 私は、レオナルド様に何か失礼をしてしまったのでしょうか。気にしていないと、そう告げた言葉が余程気に入らなかったという事でしょうか。とはいえ、他になんて言えば良かったのか。気の利いた言葉が出てこない私はきっとまた同じ事を繰り返してしまいそうですが、こればっかりは仕方ないですね。一応、改善出来るよう努力はしてみますが。

 それにしても、どうしてあれ程までお怒りになったのか分かりません。いえ、怒りというよりも憎しみに近い気がします。あんな目を向けられて、私はこれからレオナルド様と上手くやっていけるのでしょうか?


「……やっぱり、無理です」





 そうして迎えた初夜でしたが当然ながらレオナルド様が訪れる事はなく、私はぐっすりと眠ることが出来ました。さすがは侯爵家のベッドです、ふかふかしててとても寝心地が良い。疲れた体をすっかり癒してくれました。

 翌朝、ドアをノックする音が聞こえ返事をすると、侍女の方が一人入ってきました。彼女は私のお世話をしてくれるアンナという名の可愛らしい侍女です。年は私よりも少し上でしょうか。


「おはようございます、リリアーナ様。もうじき朝食の準備が整います」

「おはようございます、アンナ。分かったわ」


 アンナは手際よく私の着替えを手伝ってくれました。私は一応伯爵家の令嬢ではありますが元々それ程裕福ではなかった上に、多額の借金を背負った為貧乏生活をしていたので使用人を殆ど雇わずに自分でやっておりました。なので、久しぶりに身の回りの世話をしてもらうと思うと少し不思議な感じです。



 はぁ……レオナルド様と顔を合わせるのが少し怖いです。またあの目を向けられるのかと思うと体が畏縮してしまいます。しかし、逃げる訳にもいきません。今度は不愉快な思いをさせないようにもっと気を付けなくては。

 私は席に着き、ライズベル様とレオナルド様がいらっしゃるのを待ちました。


「……おはようございます」

「……」


 朝から麗しいお姿のレオナルド様ですが、私の顔を見るなり顔を顰め不機嫌オーラが出まくりです。

 ……なんか、すみません。あれですね、存在が気に入らないという事なんですね。ええ、知ってましたよ。ですがこればかりはどうしようもないのです。

 朝食はライズベル様は後で取るとの事で、私とレオナルド様の二人きりなのですが……。


「……」

「……」


 ち、沈黙が辛いです。お互いただ黙々と食べているだけのこの空間は、とても寒々としたものでした。昨日の事もあり私もお声をかけるのは気が引けますし、ここは気まずくてもこのまま静かに食事をすることといたしましょう。

 朝食を終えたレオナルド様は私に目もくれず席を立つと自室へと戻っていきました。ようやく一人になれほっと安堵の息を漏らした私に、傍に控えていたアンナは苦笑いを浮かべていました。食事を終え私も自室へ戻り、アンナにふと思い浮かんだ疑問を尋ねてみました。


「あの、アンナ」

「はい」

「その、レオナルド様は……あなた達にも冷たかったりするのかしら?」

「……私達侍女はレオナルド様に近づかないように命じられております」

「……そ、そう」


 予想以上の答えに思わず声が上ずってしまいました。冷たいという以前に、近づくなという命令をされているとは。いやはや、さすがはレオナルド様。

 ですが、昨日の事とアンナの話で一つの結論に至りました。レオナルド様は男色家というだけでなく、女性嫌いなのではないでしょうか? レオナルド様の身の回りのお世話は執事や従僕がされているようですし、アンナ達侍女に近寄るなという命令をするという事から、重度の女性嫌いなのでしょう。これは憶測でしかありませんが、おそらくそう見当違いなものではないと思います。

 であれば、私もレオナルド様に近寄らないように気を付けましょう。私に出来る事などその程度しかありませんし。何より、癖も強い上に面倒臭そうな方なので出来るだけ関わらずにいるのが一番です。





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