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エレットの代償




 あれからレオナルド様はずっと深刻そうな顔を浮かべ、すっかり大人しくなってしまいました。

 すぐに嘘だと気づかれると思ったんですが……まぁいっか。

 その後何事もなく無事本邸に辿り着くと、ライズベル様が私達を出迎えてくれました。


「よく来たね。元気そうで何よりだ」

「お久しぶりです。お義父様も変わりなくお元気そうで良かったです」

「お前もちゃんと来たな」

「……ええ。でないとどっかの誰かが煩いですからね」


 ぶすっとした様子のレオナルド様でしたが、ライズベル様はどことなく嬉しそうです。

 その光景がなんだか微笑ましくもあり、羨ましくもあります。

 お父様と弟も元気にしているのでしょうか。

 結婚して家を出てからは、バタバタしっぱなしでろくに連絡もとっていませんでしたし。

 帰ったら手紙を書くとしましょう。


「道中疲れただろう? 夕食まで部屋でゆっくりするといい」

「はい。ありがとうございます」

「お前は少し話があるから残りなさい」

「……分かりました」


 話とはなんでしょうか?

 まぁ、親子ですから積もる話でもあるのでしょう。

 ここは邪魔にならないように、遠慮なく先に休ませて頂きましょう。

 そうして案内された部屋に一人きりになると、いつも通りベッドにダラダラと横になります。


「あぁー、生き返るー」


 長時間馬車に乗ってるというのも結構疲れるんです。

 大の字になりながら、キングサイズのベッドを独り占めする気分は最高です。

 淑女としてあるまじき格好ではあるでしょうが、一人でいる時くらいは許されますよね。

 それにきっと誰も見ていなければ皆こんなだらしない格好になっているはず。


 それにしても、この部屋を使うのは私一人なのにこんな大きなベッドを用意して下さるなんて、なんて太っ腹なんでしょうか。

 さすがはアインシュベット侯爵家です。





 そうして至福の時間に浸っていると、キィと扉が開く音が。


「……?」


 使用人がノックもせずに入ってくる事はないはずです。

 気のせいかと思いながらも扉に顔を向けると、そこには目を大きく見開いて立ち尽くすレオナルド様の姿がありました。


「……う、うおぉおおぉお!」


 予想外な人物の登場に慌ててベッドから飛び退きましたが、状況が呑み込めず頭が混乱してしまいます。

 なんでレオナルド様がここに?

 話はもう終わったの?

 いえ、そんな事よりもどうして私に会いに来たのかが問題ですよね。


「……」

「……」


 お互い気まずさから言葉が出ず沈黙が痛いです。

 これならいっそ何か言われた方がまだマシな気さえしてしまいます。


 それにしても、あんな姿を他人に見られるなんて油断していました。

 うっかり野太い悲鳴を上げてしまったではありませんか、恥ずかしい。

 あまりの醜態にこの場から逃げ出したいところですがそうもいきません。

 まずはこの場を乗り切らなくては。


「あら、レオナルド様。何かご用ですか?」

「……え? あ、いや……」


 何事も無かったように振る舞うと、明らかに動揺を見せるレオナルド様。

 このまま押し通せば本当に無かったことに出来るかもしれません。


「……アンタって……いや、なんでもないわ」

「そうですか」


 え、何ですか。

 途中で止めないで下さいよ!

 気になるじゃないですか。

 まあでも上手く誤魔化せ……てないけど、なんとか切り抜けられた気がするので良しとしましょう。


「ところで、なんでアンタがここにいるのよ。ここは私の部屋なんだけど」

「……え? おかしいですね。私もここに案内されたんですけど……」

「……は?」


 目に見えて青ざめるレオナルド様。

 うわ、物凄く嫌な予感がします。

 まさか……まさかですよね?


 レオナルド様は顔を強ばらせながらテーブルの上にあるベルを鳴らすと、メイドではなく執事がやって来ました。

 にこやかな笑顔を携える執事を見るともう答えが分かってしまいましたが、それでも聞かずにはいられないレオナルド様はこれはどういう事だと尋ねると……。


「夫婦なのですから同室でも問題ございませんでしょう?」

「問題しかないわよ! 今すぐ部屋を用意して!」

「それは出来ません。旦那様からきつく申し付けられておりますので」


 ライズベル様ー!

 なんて事をしてくれたんですか!

 こんな仕打ち、いくらなんでも酷いです。


「くそっ、父上は俺を殺す気か!」


 こっちもこっちで酷い言いようです。

 というかレオナルド様、素が出てますよ。

 この間は気のせいかと思いましたが、どうやら動揺したりすると少しばかり「男」が出てしまうみたいですね。

 前世でも芸能人のオネエがビックリしたり怒ったりすると「男」が出してしまっていたような気がしますし、そういうものなんでしょうね。


「ここにいる間はこの部屋をお使い下さい。いいですね、坊ちゃん」

「……坊ちゃんはやめてくれ」


 手を頭に置き、深い溜息をつくレオナルド様。

 その姿に少しばかり同情してしまいます。


「では、私はこれで失礼致します。どうぞ、ごゆっくり」


 執事が部屋から居なくなり、二人きりになるとしんと静まり返る室内。

 ああ、沈黙が重いです。

 ここにいる間、ずっとこれが続くのかと思うと気が滅入りそうです。

 取り敢えずこの嫌な空気を変えるためにも、まずは水でも飲んで落ち着きましょう。


「坊ちゃん、お水でもいかがですか?」

「……はぁ?」


 ドスの効いた声でギロリと睨みつけてくるレオナルド様。

 ちょっとした冗談なのに、そんな本気で怒らなくてもいいじゃないですか。

 再び重い沈黙が部屋を包み、息苦しさが襲います。



 エレット欲しさで意気揚々と来たものの、こんな息の詰まる生活を3日もしなけらばならないなんて……。


 想像以上にエレットの代償は大きかったようです。




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