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結構危険な代物ですね



「……リリアーナ様。あまりお食事が進んでいませんけど、大丈夫ですか?」


 その後メイン料理が運ばれてきたのですが、あまりのショックに食が進みません。

 いつもは美味しいはずのジールの料理が、今日は味気なく感じます。

 そのせいかなのか、心なしかいつもよりも量が多く感じてしまいます。


「作ってもらったのに、本当に申し訳ないと思うんだけど……今日はもういらないわ」

「なっ!?」


 力なくそう答えるとジールは手に持っていたお皿を床に落とし、ガシャンと派手な音と共に壊れました。

 急にどうしたのかとジールを見ると、そこにはまるで前世で有名な絵画のように絶望に染まったジールがいました。


「ど、どうしたの? 大丈夫? 怪我はしてない?」

「……」

「……ジール?」


 心配でジールの傍に駆け寄りますが、抜け殻のように反応がありません。

 なんで急にこんな状態に?


「……ジール?」

「……んで」

「え?」

「なんでっ! なんでそんな事言うんですか!」


 ふるふると体を震わせながらジールはキッと睨んできました。

 いつもと様子の違うジールに戸惑ってしまいます。


「私はリリアーナ様の美味しそうに食べてくれる姿を見るためだけに、一生懸命料理を作ったんです! なのに、もういらないだなんてっ!」

「ご、ごめんなさい」


 まさかそこまで私の為を思って料理を作ってくれていたなんて知りませんでした。

 床に手を打ち付けて項垂れる姿に罪悪感が込み上げてきます。


「今日のメインはお肉が好きなリリアーナ様の為に特別に仕入れたものなんです。柔らかくて脂ののった一番美味しいところをリリアーナ様にたくさん食べてもらいたかったのに……」

「……そうだったの。でも私は脂身より赤身のほうが好きなんだけど」

「美味しいところは全部リリアーナ様に優先的にお出ししているんですよ? 上質な脂が多くのったところなんかは特に。量だってレオナルド様よりも多くしてるんですから!」


 私の赤身が好きアピールは無視ですか、そうですか。

 まあいいですけど。

 ですが納得しました。

 だから私のお肉はレオナルド様よりも分厚く脂身が多かったんですね。

 今日だけでなく、ここ最近レオナルド様より量が多い気がしていたのは気のせいではなかったようです。


 ジールが私にいっぱい食べてもらいたいと思ってそんなことをしていたなんて、今の今まで知りもしませんでした。

 ジールの料理は美味しいですし残すのも悪いので残さず食べてきましたけど、かなり高カロリーの料理を出してくるジールの料理は結構危険な代物ですね。

 少しお腹が出てきたような気がしていましたが、これは何か対策を練らないとまずいかもしれません。


「……そんなに思ってくれていたなんて気付かなかったわ。ありがとう」

「そこは感謝よりも非難すべき点だと思うけど」


 なんと言っていいか分からず、とりあえず感謝の言葉を述べると、ぼそりと言葉を零すレオナルド様。

 少し復活した食欲も、またエレットのことを思い出してしまい一気に失せてしまいました。


「でも、ごめんなさい。エレットが飲めないことがあまりにもショックで……食事が喉を通らないの」

「そんなっ!」


 そう告げるなりジールは顔を真っ青に染め、力なくその場に崩れ去りました。

 しかしすぐさま立ち上がったジールは、レオナルド様の元に詰め寄ります。


「レオナルド様! あなたのせいでリリアーナ様が元気をなくして食事を残すことになってしまいました! どうしてくれるんですか!」

「……はあ? そんなの知らないわよ」

「どうして分けて差し上げなかったんですか! そんな卑しい大人に育ってしまうなんて、奥様が知ったらさぞがっかりされますよ!」

「卑しいのは向こうであって私は……」

「いいわけは聞きたくありません! どうしてくれるんですか! ようやく私の新しい『子豚』が見つかったのに、これじゃあ計画が台無しです!」

「それについては感謝されるべきだと思うけど」


 意外です。

 ジールは普段レオナルド様に歯向かったりしないのに、こんなに盾突くなんて。

 というか、〝新しい『子豚』″って聞こえたんですけど……どういう意味でしょうか?

 それに計画って……?


 ……まぁ今はこの際なんでもいいです。

 それよりも、このチャンスを生かさない手はないですね。

 これを逃せば本当にもう飲めなくなるかもしれませんし。


「エレットを飲めばきっと食欲も増して、今よりもいっぱい食べれちゃうと思うわ。エレットさえ飲めれば、の話だけど……」

「ほ、本当ですか!? ちょっとレオナルド様聞きましたか! 今すぐエレットの手配をしてください! それも大量に!」

「バカ言うんじゃないわよ。さっきも言ったけど、あれは希少なもので……」

「でも、まだ在庫はあるはずですよね? せめてリリアーナ様の分だけでも手配して下さい! あれの手配ができるのはレオナルド様だけなんですから!」


 どうやらかなり貴重なお酒のようでジールですらもエレットの手配は出来ないようですね。

 もしかして私が想像している以上にかなり高価なお酒なのでしょうか。

 ただ飲みたい一心でジールを煽ってしまいましたが、まずいことをしてしまったのかもしれません。


 とはいえもう済んでしまった事ですし、ここはもう勢いに任せてしまいましょう。

 無理な時はすっぱり諦めればいいだけの事です。


「ちょっとくっつかないでくれる!? なんで私がそんな事しないといけないのよ。第一エレットは希少なだけでなく特別で……」

「分かってます! でも、ちょっとでいいんです! 私の給料から天引きしてくれても構いませんから!」

「……ふーん、本当にいいわけ?」

「はい」


 え、そこまでしてくれるんですか?

 自腹切ってまで私の為に交渉してくれるジールに、感動で胸が震えます。

 ただ飲みたいという欲望のためにそこまでしてくれるなんて、なんていい人なんでしょうか。

 でも逆に言うと、そこまでしてでも私にご飯を食べさせようとするジールの執念も凄まじいですよね。

 ……ちょっと怖いくらいです。


「はぁー……分かったわよ。あまり頼み事はしたくはなかったけど、仕方ないわね」

「ありがとうございます!!」

「ありがとうございます!」


 まさかこんなに上手くいくなんて、正直驚いています。

 ですが、これでエレットがビールと似ているのか確認することが出来ます。

 ああ、今からエレットを飲める日が待ち遠しいです。


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