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かつての相棒


 突如現れたブルーノは、すぐ帰らなければならないとの事でレオナルド様を堪能した後はすぐに帰っていってしまいました。

 ほんの僅かしか会えないのにわざわざ遠路はるばる会いに来るなんて、私には理解し難い行動です。

 どうせあと一月も経てば会えるのに。



 レオナルド様は解放された後も暫く顔色が悪く、もしかしたら今日は一緒に夕食は取れないかもしれないと思っていたのですが……。


「アンタ、さっきのあれはなによ!」

「もう着替えてしまったんですか? 折角似合っていたのに」

「アンタ、あまり似合ってないみたいな事言ってたじゃない」

「え、そうでしたっけ?」

「そうよ! 逞しいのはあまり好みじゃない、みたいな事言ってたじゃない! っていうか、話しを逸らすんじゃないわよ!」

「……もう、そんなに怒らなくてもいいじゃないですか」

「アンタが余計な事するから怒ってるのよ! だいたいアンタはーー」


 すっかり元気を取り戻したようです。

 思っていたよりもタフな方のようで安心しました。

 少し心配していたので元気な姿に安心しましたが、いつも以上にガミガミ煩く言ってくるのは困ります。


 確かに顔面蒼白なレオナルド様を見て、ちょっとやり過ぎたかなとも思いましたが、私だってセクハラ紛いの事をされていた訳ですし。

 それに、私はブルーノの背中をほんの少し押しただけですし……私はそんなに悪くない。

 少なくともこんなに責められる程悪いことはしていないはずです。


 そう思ったら、レオナルド様の言葉が右から左へ疾風の如く流れてしまいます。

 しかし、そんな私の態度が気に入らないレオナルド様からは再び怒号が。

 そんなにカッカしてると将来禿げますよ?


「あの、お言葉ですがレオナルド様。これは私だけではなくレオナルド様にだって非はあるんですよ?」

「……そ、れは……アンタが勿体ぶるからでしょ! 減るもんじゃないんだし、あんなに拒む事ないでしょ!」

「何を馬鹿な事を言ってるんですか! 乙女心とか羞恥心とか色々減りますよ!」

「……はっ」


 あ……今、鼻で笑いましたね!

 なんて失礼な人なんでしょうか!

 確かに乙女心は言い過ぎかも知れませんが、恥ずかしかった事に変わりはありません。

 それに女らしさを追求しているオネエともあろう方が乙女心を馬鹿にするなんて、オネエ失格ですよ!


 苛立った私がムスッと黙りこくっていると、レオナルド様は何故かそわそわし始め、こちらの様子を伺ってきます。

 しかし無視してスープを飲んでいると、わざとらしい咳をしてこっちを見ろとアピールしてきます。

 それすらも無視していると、痺れを切らしたレオナルド様が腕を組んで偉そうに言ってきました。


「アンタのした事は許し難いけど……今回は許してあげるわ。感謝しなさいよね!」

「……」


 上から目線なのが癪に障るところではありますが、少し前だったらこんなあっさり許す事はなかったはず。

 これも一緒に夕食を取るようになった効果なのでしょうか?

 それに以前のナイフのような刺々しさがなりを潜めていて妙です。

 裏がありそうで、なんだか怖いですね。


 ついまじまじと見ていると、レオナルド様が気付いて訝しげな目を向けてきました。


「……な、何よ! 許してあげるって言ったでしょ!」

「いえ……その、以前だったらもっと罵倒の言葉を頂いていたのでちょっと意外だなと思って」

「それはアンタが……っ」

「……?」

「……なんでもないわよ」


 ……?

 何か言いたそうな様子でしたが、そのまま黙ってしまいました。

 これはやはり何かあるのでしょうか?


「まぁでも、胸の件はそこまで隠す事はないと思うけどね。ちゃんと後で教えなさいよね」

「ですから、何もしていないと言ってるじゃないですか」

「……アンタも強情ね」


 強情なのはそちらではないですか?

 そう反論しようと思いましたが、またガミガミ言われるのも面倒ですしここはぐっと堪えておきます。



 メインの料理が運ばれてくる前に料理に合わせて飲み物が運ばれてくるのですが、今日は赤ワインのようです。

 グラスに手を伸ばそうとした時、ふと目に入ったレオナルド様のグラスに目が止まりました。

 そのグラスには黄金色に輝く美しい飲み物が注がれており、その上には絹のように白い泡が浮かんでいます。

 ――これって。


「ち、ちょっと待って下さい!」

「……何よ」

「その飲み物はなんですか!」


 これはまさか……!

 ビ、ビール!?


 私は目の前の金色の飲み物から目を離さずに尋ねると、レオナルド様は少し自慢げに教えてくれました。


「これはエレットよ」

「……エレット?」


 なんですかそれは。

 ビールじゃないんですか?


「うちの領地で作っているお酒で、生産が難しくて市場にも出回っていない希少なお酒よ」

「……そう、なんですか」


 どうりで私が知らないわけです。

 まだビールだと確定した訳ではありませんけど、もう見た目は完全にビール!

 これは味の方もビールかどうか確認が必要ですよね。

 いえ、最早確認するのは義務でしょう!


「あ、あの……私も是非そのエレットを頂きたいです」

「……これは癖があるし、アンタにはまだ早いわよ」

「ご心配なく。ベテランの域に達していると思うので」

「……ベテラン?」


 おっと、つい余計な事を言ってしまいました。

 思わぬ出来事に想像以上に動揺してしまっているようです。

 でもそれは無理もないですよね。

 なんたって、目の前にかつての相棒がいるんですから!

 待っていて下さい! 今迎えに行きますからね!


「申し訳ございません。今ここにあるエレットはレオナルド様の分で最後でしたので、リリアーナ様の分はご用意出来ません」

「そんなっ!」


 話を聞いていたジールが申し訳なさそうな顔で告げてきました。


 ビールがない?

 私のビールがない?

 ……嘘でしょ!?


「ま、そういう事だから諦めなさい」


 絶望に打ちひしがれていると、レオナルド様は涼しい顔で優雅にエレットを口に運んでいます。

 ああ、私のビールが!

 このまま私の相棒がなくなっていくのをおとなしく黙って見ているだけなんて……そんなの嫌です!


「……」


 貴族という身でありながら、こんな事を言うのはさすがの私も恥ずかしいですし卑しいと分かっていますが、こればかりは仕方ありません。

 背に腹は代えられません。


「あの、レオナルド様」

「何よ」

「ひ、一口……いえ、三口…………いえ、半分分けて頂けませんか?」

「はぁ!?」


 私の申し出に、やはり引き気味に驚くレオナルド様。

 当然の反応に居たたまれなくなりますが、ここは引き下がるわけにはいきません。


「冗談でしょ!? 嫌に決まってるじゃない」

「無理を承知でお願いします。どうしても飲みたいんです」


 まさかレオナルド様に頭を下げて頼み事をする日がくるなんて思いもしませんでした。

 正直とても嫌です。

 でもビールが飲めるならいくらでも頭を下げます!

 つい欲が出て半分くれなんて図々しい事を口走ってしまいましたが、本当にたった一口でもいいんです。

 もし半分く分けてれたなら、私もレオナルド様の事を勇者様と崇めますよ!

 女神様とお呼びするのもやぶさかではありません。

 ですからどうかっ!


「ふざけないで! そんな下品な真似したくないわよ」

「お願いですから、たった一口でも構わないんで、どうかお願いします!!」

「……そんなに飲みたいわけ?」

「はい!」


 呆れた顔をしながらも、そこには僅かに迷いが浮かんでいるように見えます。

 これはもうひと押しでいけるかもしれません!

 そう、淡い期待を抱いた時でした。

 レオナルド様はグラスを傾けぐいっと一気に飲み干してしまいました。


 わ、私の相棒があぁぁぁぁぁああ!!


「……あら、もう空っぽね。空じゃあげられないし、諦めなさい」

「酷いです! 悪魔ですかあなたは!!」

「ふん! アンタだってさっき私を見捨てたじゃない」


 その話今ここで蒸し返します?

 さっき許すって言ってたじゃないですか!

 あの言葉は嘘だったんですか!?

 ものの数分で言葉を覆すなんて、なんて人なの!

 何が勇者ですか。

 勇者の風上にも置けません。


 それにしても、目の前で一気飲みしてしまうなんてあんまりです。

 二度と会うことは叶わないと思っていた相棒と奇跡的に巡り合えたと思ったのに!

 天国から地獄に突き落とされた気分です。




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