表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/28

この反応は予想外です



「おはようございます、魔王。今日もあまり結界が効いてないみたいですね」

「……おはよう、ライト。あなたも懲りないわね」


 ライトとの一件があってから話をする事が増えたのですが、会話の内容は相変わらずです。

 そして、無意味な結界も未だに張っているようで、何度か蝋燭を見かけました。

 嫌われている事には変わりはありませんが、ライトは私を避けたりしないのでそこはちょっと嬉しかったりします。


 ですが、ライトのせいで一つ困った事が増えました。

 それは私が使用人達に話しかけようとすると、他の使用人達があの蝋燭を手に拒絶してくるようになった事です。

 まるで吸血鬼と十字架のように、私を追い払う為に蝋燭を使ってくるんです。

 蝋燭には「来ないで下さい」「拒否」「結構です」「魔王」等とそれぞれの思いが書かれた紙も貼られており、そこまでされるとさすがにそれ以上は近付けません。


 というか、魔法ってそんな感じでしたっけ?

 私の中の魔法は杖を使って物を操ったり箒で空を飛んだりってイメージなんですが、ライトのはなんというか陰陽師とかが使うような護符とかに近いような気が……。

 まあどちらにせよライトのせいでちょっと迷惑しています。


「あなたが他の皆に変な事を教えるからこっちは大変よ」

「僕達には自己防衛する必要がありますからね」

「それでも、あれは少し傷つくわ」


 本当に酷い言われようです。

 少し不貞腐れていると、ライトは少し意外そうな顔をしてきました。


「魔王でも傷ついたりするんですか?」

「当たり前でしょ! 私を何だと思っているのよ」

「魔王」

「……」


 当たり前のように言われてしまうと、なんと言えばいいのか分からず言葉に詰まります。

 魔王って何だよ、と心の中でツッコんだ後には疲労感がどっと襲ってきて、最後には馬鹿らしくなってきてしまいます。


「おっとこれ以上魔王と話していては邪悪な気に穢されてしまいますね。今日も僕のこの聖なる魔法のお陰で魔王の力を少しは削げたようですし、十分でしょう。それでは失礼します」


 私もこれ以上は疲れてしまうので助かりますが、なんとも複雑な気分です。

 色々とイタいライトと話しているとどう反応していいのか分からず色々悩んで疲れてしまうのですが、それが自分の魔法でそうなっていると思っているらしく毎日話かけるようになりました。

 そして私を疲れさせると満足げに去っていくのが日課になりつつあります。


 避けられないのは本当に嬉しい事ではあるのですが、私の求めているものとは大分違うので出来れば挨拶程度の軽い会話で終わって欲しいものです。

 満足そうに去っていったライトにモヤモヤしながら、憩いの場である自室に戻ろうとしていた時でした。


「――っ!!」


 曲がり角で急に何かにぶつかってしまいました。

 ぶつかった衝撃に耐えきれずよろめき倒れそうになりましたが、右手を引っ張られ何とか倒れずにすみました。

 顔を上げれば、そこにはマルコが。

 どうやら彼とぶつかってしまったようです。

 一瞬顔を青くした様に見えましたが、今では真っ赤に染まっています。


「あ、ありがとう。ごめんなさい、気付かずにぶつかってしまって」

「い……いえ……じ、自分は……大丈夫です。それよりも……お、お怪我は?」


 大丈夫よ、と返すとマルコはホッと安堵し笑顔を零しました。

 初めて見るマルコの笑顔はとても優しく綺麗で、いつもの気難しそうな雰囲気はそこにはありませんでした。

 てっきり嫌われていると思っていたので、この反応は予想外です。


「あなたこそ大丈夫……って、大変じゃない!」


 美しい笑顔に不釣り合いな鼻血が!

 急な事態に私が慌てていると、マルコは私の顔にそっと手をあてて柔らかい笑みを浮かべています。


「自分は大丈夫です。あなたが無事ならそれでいい。だからそんなに不安そうな顔をしないで下さい」

「何を言っているの! そんな悠長な事言ってる場合じゃないくらい尋常じゃない量の鼻血よ!?」


 さっきまではどこかたどたどしい喋りだったマルコが流暢に話している事に違和感を感じましたが、先ほどよりも多く流れる鼻血を目の前にして、そんな事に突っ込んでいられません。


 そんなに思い切りぶつかったつもりはなかったのですが、どうやら彼にかなりのダメージを与えてしまったようです。

 とりあえずハンカチを鼻に当ててみましたが、あっという間に白いハンカチが真っ赤に染まってしまいました。

 こんな大量の鼻血にはどう対処するのがいいのでしょうか?

 このままではマルコが貧血で倒れてしまいます。


「不安がるあなたの顔もとても可愛らしいですね。もっとよく見せて……うっ!」

「そんな事言ってる場合じゃないでしょ! ほら、上を向いて!」


 息がかかりそうな程に近づいてくるマルコですが、さっきよりも大量に鼻血が流れています。

 慌てて鼻を撮んで上を向かせますが、それでも鼻血は治まりません。


 鼻血が出た時はどうするのが正しい処置だったでしょうか?

 前世に学校で学んだような気がするんですが、もうすっかり忘れてしまいました。

 現世ではあまり鼻血を出す事もありませんでしたし、こんなに大量の鼻血は初めてです。


 えーと……確か頭か足、どちらかを上にするはずでしたけど……どっちでしたっけ?


「マルコ、早く横になって! そして膝を立てて!」


 朧気な記憶を元に処置をしてみますが、正直自信はありません。

 けれど、だからと言って何もしないでいられませんし……。

 不安になりながら、マルコの鼻を押さえて血が止まる事を祈りますが、その気配はありません。

 やっぱり違ったのでしょうか?

 鼻血くらいならなんとか出来ると思ってしまっていましたが、誰か助けを呼んだ方がいいかもしれません。


 そう思っていると、マルコが上目遣いで甘える様に見ている事に気付きました。

 安心させるように微笑んで見せると、マルコは私の手をギュッと握りしめました。


「……お願いが、あるんですが」

「何? なんでも言って?」


 こんなに鼻血を流しているのに、なぜかマルコは嬉しそうな顔をしています。

 違和感を覚えながらも、お願いと言われれば今は出来ることなら何だってしてあげたいです。


「その、膝枕を……して頂けませんか?」

「……膝枕? あ、ごめんなさい。頭が痛かった?」


 私はゆっくりとマルコの頭を自分の太ももに乗せると、マルコはブルブルと体を少し震わせました。

 どうしたのかと心配になり顔を覗き込むと、マルコの目の焦点が合っていません。

 そして滝のように流れる鼻血。


「ひ、膝枕……夢にまで見た、膝枕……っ! て、天国か……ここはっ!」

「マルコ? ……ヤダ噓でしょ、しっかりして!」

「ああ……天使がいる」


 私の手を握りしめながら天使というマルコに、危険な状態であることを察しました。

 幻影を見ているようですし、このままでは出血多量で生死に関わるかもしれません。


「だ、誰か――! 早く、早く来て――!」


 大声で助けを求めると、意外にも一番最初に駆けつけてくれたのはブラッドフォードでした。

 この状況を目にしたブラッドフォードは「なんて事を……!」と呟き、珍しく慌てた様子で声を張り上げました。


「早くマルコから離れてください! 彼が死んでしまう!」

「えっ!?」


 離れる理由が分かりませんでしたが、死んでしまうという言葉に怖くなった私は慌てて離れます。

 私に代わりブラッドフォードがてきぱきと処置をしていくと、さっきまでの大量の鼻血があっという間にと止まりました。


 よ、良かったー!


「もう大丈夫なの?」

「ええ。ですが大量に出血してしまったので、暫くは静養が必要でしょうが。念のために後で医師に診てもらいましょう」


 大丈夫な事を確認し心底安堵していると、ブラッドフォードが困った顔を浮かべました。


「まさかマルコがリリアーナ様と接触するとは思っていませんでしたから、さっきは本当にひやっとしました」

「……マルコとぶつかってしまって。そんなに思い切りぶつかったつもりはなかったのですけど、こんなに大量の鼻血が出るほどの怪我をさせてしまって……本当にごめんなさい」


 自分では気づいていなかっただけで、もしかしたら頭が彼の顔面に当たってしっまったのかもしれません。

 マルコは倒れそうになった私を助けてくれたのに、私はなんて事をしてしまったのでしょうか。

 罪悪感と後悔に苛まれていると、ブラッドフォードはキョトンとした顔でこちらを見てきます。


「何か勘違いをされているようですが、これは怪我ではありませんよ? ただの鼻血です」

「……え?」

「まあ、原因はリリアーナ様ではありますけど」


 あの大量の鼻血が怪我のせいではなくただの鼻血?

 でも原因は私って、どういう意味?


 困惑していると、ブラッドフォードは横たわっているマルコに目を向けながら説明をしてくれました。


「実は、マルコは女性に触れると鼻血が出てしまうんです」

「……は?」

「彼は一見硬派な男に見えますが、女性に対していやらしい目でしか見れないむっつりなんです。むっつりすぎて鼻血が出てしまうようで、これまでも彼は何度も死にかけてるんです」


 え、何それ。

 むっつり過ぎて鼻血って……。

 しかも死にかけるって……。


「彼自身も鼻血を流した後はとても辛いらしく、出来るだけ女性に近付かないようにしているのですが、一度触れてしまうと欲望に負けてしまうらしく自ら近付いてしまうんです」

「……そ、そうなの」


 そんなむっつり人間がいるなんて思いもしませんでした。

 これからはマルコには近付かないようにしなくては。


「ブラッドフォード、邪魔をしないで下さい。自分はもっとリリアーナ様に触りたい!」

「何を馬鹿な事を言ってるんです。死にたいんですか?」

「自分の夢が叶わない事は分かってるんです。ですから、女性の腕の中で死ねるなら本望です!」


 キラキラとした笑顔で答えるマルコに、私はドン引きしてしまいました。

 そこまでして女性に触れたいだなんて、本当にどうかしてます。

 どれだけ女好きなんですか。


「叶わない夢って、どんな夢なの?」

「それは……」


 ただ純粋に気になったので聞いただけだったのですが、私の言葉にマルコは真剣な顔になったと思うや否や急に鼻血が噴射し、これまでと比べ物にならない程の大量の鼻血が。


「なんて事を聞いたんですか!」

「ご、ごめんなさい。でも、なんで急に」


 ただ夢を聞いただけなのに、なんでこんな事態になったのか分かりません。

 マルコに触れてもいませんし、一体何故?


「彼の夢が純粋なものだとでも思ったんですか? 彼は欲望の塊ですよ? イヤラシイものに決まっているでしょう!」


 ええ――!?

 そんなの分かりませんよ!

 夢を思い描いただけでこんなに鼻血を出すなんて、どんな破廉恥な夢なんですか!




 その後、なんとか鼻血は治まったのですが、大量出血の為マルコは暫く絶対安静となりました。

 そして、そんなマルコの状態を知ったライトからは「マルコを死の淵に追いやるとは、さすが魔王! 侮り難し!」となぜか称賛と改めて敵認定され、他の使用人達からは更に避けられるように……。


 彼らの事は多少は分かりましたし、暫くは大人しくしてようと思います。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ