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旦那様はオネエのようです


 私は今日から侯爵家へと移り住むことになりました。本当は挙式後すぐ移り住む予定だったのですが、レオナルド様のお仕事の都合で少し先延ばしになっていたのです。本音を言えば、もう少し先延ばししてくれても良かったんですが。

 見送るお父様は心配そうな、そして申し訳なさそうな表情を浮かべて私を見ています。本当に気にしなくて良いのに。


「お父様、結婚といっても仮初のようなものです。侯爵様は3年間はレオナルド様を見捨てず見守ってほしいと仰っていましたが、レオナルド様と過ごしてどうしても我慢ならず離婚をしたいと言えば受け入れると約束して下さいました。頑張ってはみますが、きっとレオナルド様は私を受け入れてはくれないと思うので、3年経てば私は離婚して帰ってきます。ですから、心配しないで下さい」

「しかし、お前はそれでいいのか? 離婚が前提な結婚など……」

「私は気にしません。それに、離婚した後も侯爵様がお相手を探してくれると仰ってくれていましたし、そう落ち込む程ではないです」

「……そうか」


 結婚することになりましたが、侯爵様とお話をしてそのように取り計らって下さいました。誰よりも離婚したいはずのレオナルド様には離婚を申し出る権利はないらしく、離婚の決定権は私に委ねると仰って下さったので、どうしても無理な場合は遠慮なく離婚させて頂きたいと思っています。

 私は自慢ではありませんが、容姿も性格も平凡でとても地味な女です。面白味も愛嬌も大してありません。レオナルド様の興味を引くような何かを持ち合わせていない私は、つまらなく退屈な女でしかないでしょう。なので、自信を持って言えます。絶対離婚することになると。

 確かに普通の貴族の淑女であれば離婚などという不名誉を背負うのは嫌でしょうが、私は本当に気にしません。寧ろ、その程度でこれだけの好待遇を得られるのであれば安いものです。私はお父様と弟ギルバートが幸せになってくれればそれで良いのです。何より18歳にもなっていまだ恋人も婚約者もいなかったので、取り敢えず形だけでも結婚するというのはこちらとしても有り難いです。元より結婚に対し夢も理想も持ち合わせておりませんので、まったく問題ありません。


「私よりもギルバートの事をお願いします。あの子は優しく頭の良い優秀な子です。きっと立派な跡継ぎになってくれます」

「……分かったよ。何かあったらすぐに言うんだよ。私に出来ることは何でもするから」

「はい」



 お父様に見送られ、私は馬車に乗り嫁ぎ先である侯爵家へと向かいました。そして馬車に揺られに揺られようやく到着した侯爵家の大きさに驚愕です。さすがは侯爵家、まるでお城のようなご立派な建物です。敷地も広大で、門を潜ってからも玄関まで距離があります。


 ……貧乏貴族とは雲泥の差ですね。


 無事侯爵家に着いた私を出迎えてくれたのは大勢の使用人達と侯爵であられるライズベル様。彼はダークブラウンの艶のある髪と瞳をしており、とても精悍なお顔立ちをしています。ライズベル様も整ったお顔をしていますが、レオナルド様とはあまり似ていないのでレオナルド様は母親似なのでしょう。

 簡単に挨拶を交わすと、ライズベル様は申し訳なさそうに顔を暗くしていました。


「リリアーナ、君にはすまないと思っている。何かあればなんでも言ってくれて構わないからね」

「私はライズベル様に感謝しています。ですから、どうかお気になさらないで下さい」

「あぁ、君はなんて優しい娘なんだ! それに比べて……レオナルド! レオナルドはどこだ!」


 今日からアインシュベット侯爵家に移り住む私を出迎えてくれたのはライズベル様だけで、レオナルド様のお姿はありません。ライズベル様に呼ばれ暫くすると階段から降りてきたのはレオナルド様でした。むすっと不機嫌そうな顔をしているレオナルド様ですが、さすが国一番の美丈夫。胸辺りまで伸びた美しい金の髪を一つに結ったお姿はとても麗しく、冷ややかな目にはどこか色香が漂い妙に色っぽいです。思わず見惚れてしまいましたが、私はハッと我に返り挨拶をしました。


「レオナルド様、本日よりこちらでお世話になります。至らぬことも多いと思いますが、宜しくお願い致します」

「ふん。私はアンタの事なんて認めていないわ。のこのこ家にまで住み着いてくるなんて、随分と図太い神経してるようね」

「レオナルド! お前はまたそんな事言いおって! 彼女はお前の妻なんだぞ!」

「誰もそんな事頼んでないわ。父上が勝手に連れて来ただけでしょ。私は妻なんていりません、余計なお世話よ」

「それ以上口を開くな! 貴様のその気持ち悪いしゃべり方を聞くと吐き気がする!」

「私も父上のそういう傲慢に自分の考えを押し付けるところ、吐き気がするほど嫌いよ。とにかく、私はアンタを認めない。私に干渉しないでよね」


 おおっ! これはまさかのオネエではないですか! 美形なだけあって凄まじい存在感です。普段のレオナルド様はオネエ口調なんですね、妙に色気があってこれはこれで……うん、アリですね。テレビとかで活躍する芸能人のオネエしか目にした事がなかったので、生オネエを見るとなんだか感動です。以前夜会で見た時は遠かったですし、挙式でもお話ししなかったのでこんな話し方するとは思いませんでした。

 美形な上に男色家で、さらにはオネエ言葉まで操るとは……。さすが、凡人の私とは持っているものが違いますね。



 去って行ってしまったレオナルド様に、ライズベル様は眉を下げため息を吐きました。規格外の息子を持つのは想像以上に大変そうですね。思わずライズベル様に同情してしまいました。


「愚息が失礼したね、すまない。私はリリアーナの味方だ。何かあったらすぐに言いなさい、いいね?」

「……はい。ライズベル様にはご迷惑をおかけしてばかりですが、宜しくお願いします」

「それはこちらの方だよ、こちらこそ宜しく頼むよ。それと、私の事はお義父様と呼んでくれ」

「はい、お義父様」


 ライズベル様はとても嬉しそうに顔を緩め私の頭を撫でてくれました。ライズベル様はお父様よりも年上のはずですが、整った顔立ちのせいかお父様よりもとても若々しいです。気難しそうな雰囲気を持つライズベル様ですが、こうして話すと意外と気さくで優しいのです。レオナルド様とは上手く付き合えそうにありませんが、ライズベル様とはなんとか上手くやっていけそうです。


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