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慣れって怖いですね


 レオナルド様がお仕事から戻られ夕食の用意が整ったとの連絡を受けたので、私はすぐ食堂に向かい少し緊張しながらレオナルド様がいらっしゃるのを待っていました。

 しかし、なかなか現れないレオナルド様。

 昨日は私が一方的に言いたいことを言っただけで、レオナルド様からは何も返事は聞いていませんでした。

 レオナルド様の事です。私の言葉など無視して来ないかもしれません。

 まぁ、そんな予感はありましたが……。


 やっぱり来ないか、と半ば諦めていた時でした。


「……!」


 不機嫌そうな顔を携えたレオナルド様が来てくださいました。

 思わず嬉しくて笑顔で迎えると、レオナルド様は不愉快だと言わんばかりの苦々しい顔をされてご自分の席へ。


「お仕事、お疲れ様でした」

「……」


 初めの頃は悲しかった無視も、あまり気にならなくなってきました。

 慣れって怖いですね。


「来てくださってありがとうございます。正直、来てくれないと思っていたので本当に嬉しいです」

「……」


 目も合わせず、静かにワインを嗜むレオナルド様。

 その姿が悔しいくらいに絵になります。


 私と会話をする気がない事がはっきりと分かりましたが、それは想定内です。

 会話はなくともこうして顔を合わせて食事をすれば、きっといつかは多少会話が出来るようになるでしょう。

 時間はたっぷりあるんです。焦る必要はありません。



 すぐに料理が運ばれてきたので、私とレオナルド様は黙々と料理を味わいます。

 

 今日のメインは煮込み料理のようですね。

 あぁ、とってもいい香りです。

 じゃがいもと人参、玉ねぎが入っており、どれも中までしっかりと火が通っていて口に入れるととろけてしまいます。

 具材に甘じょっぱい味がよく染みていて、とっても美味しいです。

 この味がどこか懐かしく感じます。

 そう、肉じゃが……あれによく似ています。

 少し違うのは全体的に具材は大きめにカットされ、野菜はどれも煮崩れせずにきれいな形のまま。

 そして、お肉が大ぶりのブロック肉という点でしょうか?

 この大ぶりのお肉は、ナイフなど要らないほど柔らかくフォークでほぐせてしまうほどです。

 柔らかいだけではなく味も格別に美味しく、口に入れると瞬く間に上質な脂が溶け、甘味と旨味が口の中いっぱいに広がります。

 そしてほとんど嚙む必要がないほどに柔いお肉は、あっという間に口の中で溶けてなくなってしまいました。

 見た目ほど脂っこくなく、意外とあっさりとしていて、素朴な味わいがなんともクセになってしまう一品です。


 腕によりをかけると言っていたジールの言葉は本当でしたね。

 こんな美味しい料理を頂けて、とっても幸せです。

 至福の時に浸っていると、どこからか視線を感じて周囲を見渡すと、部屋の隅にジールの姿が。


「ジール、今日のこの料理とっても美味しいわ!」

「それは何よりです。腕によりをかけた甲斐がありました」

「この料理は初めて食べたわ。王都ではよく食べられているのかしら?」

「いえ、これは父がアインシュベット家の為に作ったものですので、ここでしか振る舞われない特別な料理です」


 そうだったんですね。

 そんな特別な料理を頂けるなんて、とても光栄です。

 少々量が多いですが、頑張って全部頂きましょう。


 大きめにカットしたお肉を頬張っていると、じっと見てくるレオナルド様と目が合ってしまいました。


「……な、何か?」

「アンタ……男並みによく食べるわよね」

「今日は特別です」

「……ふーん」


 なんでしょう。

 疑わしい目でジロジロと見てきます。

 確かに、こんなにがっついて食べるのははしたなかったかもしれません。

 でも、家での食事ですし、少しくらい大目に見てくれてもいいと思うんですけど。


「そういえば、アンタって声高いわよね?」

「……え? そうですか?」


 もっとグチグチと言われるかと思ったんですが、急に声の話に。

 というか、何故声の話に?

 耳障りという意味でしょうか?


「アンタ、変声期無かったの?」

「……変声期、ですか?」


 変声期って、思春期に声変わりする事ですよね?

 男性だけのものと思っていましたが、もしかして女性でもあるのでしょうか?

 確かに、子供の頃と比べれば声は変わってはいると思います。

 でも急に変わったりはしなかったです。


「確かに少しは変わったと思いますけど、急激な変化などは特には……」

「じゃあ、まだ来てないって事でしょ? アンタ、もう18よね?」

「え? ……はい」


 本当に女性でも来るのでしょうか?

 周囲の女性も、急に声変わりした方はいませんでしたし。

 女性に変声期があったとしても、きっと緩やかなものなのではないかと思うのですが……。

 私が知らないだけなのでしょうか?


「レオナルド様はいつ変わられましたか?」

「確か、12歳くらいだったと思うわ」

「そうなんですね」


 弟ももう少しで15歳になりますが、まだ声変わりはしていませんでした。

 弟は同年代の子たちよりも背も低く、少しだけ成長が遅いのかもしれません。

 でも次会った時には、弟も声変わりしているのかもしれませんね。

 弟の成長は嬉しくもありますが、大人になっていってしまう弟を思うと少し寂しく感じてしまいます。


 一人物思いに耽っていると、「それにしても」とレオナルド様が私とジールを見て訝しげな表情を浮かべながら言葉を続けました。


「アンタ達、いつの間にそんな仲良くなった訳?」

「レオナルド様ほどは親しくはなっておりませんから安心して下さい」

「ジール、冗談でも次言ったら殺す」


 目が本気になっているレオナルド様に対して、ジールはニコニコと笑顔を浮かべて「気を付けます」と言ってはいますが、反省の色が微塵も感じられません。

 怖いもの知らずのジールに、こちらがヒヤヒヤしてしまいます。

 ですが、レオナルド様もそんなジールに呆れて、というより慣れているのか気にする様子もないです。

 そんな2人の様子は、主人と使用人以上の仲を感じさせます。


「こうして少し話すようになったのはここ一、二週間じゃないかしら?」

「そうですね。リリアーナ様がいつも美味しそうに料理を食べて下さっていたので、話しかけずにいられなくなりました」

「そうだったの?」

「ええ。女性に美味しいと言って喜んで貰える事が何よりも嬉しいんです。私は女性の笑顔が大好きなんです」


 ジールはもしかしたら女嫌いとは真逆の女好きなのかもしれません。

 私に対しての接し方や気障な言動を見ると、相当女慣れしている気がします。

 まぁ顔も良いですし、女性にはモテるでしょうね。

 そんな男性がこんな男ばかりの屋敷で働くのは、少しだけ可哀想かもしれません。


「あんまりはしゃぐと、後でガッカリする事になるわよ」

「……え? どういう意味ですか?」


 やれやれと話すレオナルド様にジールが尋ねると、レオナルド様は私の方を見てフッと笑みを零しました。


「……そのうち分かるわよ」


 え、何ですか!

 何なんですか、その意味深な言葉は!

 明らかに私に何かある、みたいなその謎の発言は何ですか!!


「あの、私が何か?」


 耐えきれずそう尋ねると、レオナルド様はワインを口にして不敵な笑みを浮かべます。


「さぁ? でも、アンタが一番分かっているんじゃないの?」


 いえ、さっぱり分かりません。

 怒られそうな事なら見当は付きますが、そんな感じでもないですし。

 それに、ガッカリって何ですか!

 なんだかとても失礼な事を言われてるような気がします。


 結局教えてくれないレオナルド様に不満を抱きながらも食事を続けましたが、微笑ましく見てくるジールと、したり顔を浮かべているレオナルド様にジロジロと見られる中での食事は全然楽しいものではありませんでした。


 食事が終わって部屋に戻ってからも、さっきのレオナルド様の言葉が気になってしまいます。

 それに、朝方の謎の紙と蝋燭の事も分からずじまいですし。



 あーもー、モヤモヤする――!!



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