結婚しました
ああ、私はなんて運の悪い女なのでしょう。
私の目の前には、頭を下げて涙目になって謝っているお父様の姿があります。分かっています。仕方がないのです、これが私の運命という事ならば受け入れるしかないのでしょう。
「本当にすまない、リリアーナ! 父を恨んでくれて構わない。本当にすまない!」
「顔を上げて下さいお父様。それで家族を救えるのなら、私は本望です」
「リリアーナ……不甲斐無い父ですまない!」
私の名前は、リリアーナ・アルデント。アルデント伯爵の長女です。そして私は18歳になりようやく嫁ぎ先が決まり、お父様は号泣しています。先ほどの会話でお察しの通り、嬉し泣きなどという喜ばしいものではありません。お父様は泣きながら私を抱きしめてくれました。そんなお父様をあやすように私は背中を優しく擦りました。
分かっているから、どうかそんなに自分を責めないで欲しいです。
お父様が泣いて詫びている理由。それはお察しの通り私の結婚が原因でした。私の父であるガードルフ・アルデント伯爵は、約5年前に領地を襲った天災により甚大な被害を被り多額の借金をする事になってしまったのです。今では復興も進みようやく領地が落ち着いてきたところですが借金を返す目処が立たず、借金返済に追われ領地の運営に行き詰まっていたところにある人物から提案を受けました。それは、娘を一人嫁に寄越せば借金を肩代わりし更に支援もしてくれるという大変有り難い申し出でした。そんな願ってもない程の好条件を申し出たのが、ライズベル・アインシュベット侯爵様でした。侯爵様は王国騎士団の団長を務めた凄いお方なのですが、問題は結婚相手であるご子息にありました。
ご子息の名前はレオナルド・アインシュベット様。現在近衛騎士団で騎士をされている優秀な方で、侯爵家の次期当主でもあります。そんな家柄も仕事も有望なレオナルド様の容姿は金髪碧眼の国一番の美丈夫と言われ、当然ながら彼に縁談がひっきりなしに来ていたらしいのですが、ある噂が流れ始めると徐々に減ってしまったらしいです。その噂というのが、彼が男色家であるというものでした。
当初はそんな噂など気にせずレオナルド様とお近づきになりたいという令嬢が多かったのですが、ある夜会でレオナルド様は人目を気にせず意中の男性を口説きまくっていたのを目撃して以来、彼に近づく令嬢はめっきり減ってしまったらしいです。何よりレオナルド様は昔から女性に手厳しく、とても冷たい態度な上に暴言を吐かれることも多いのだとか。そんな事情もあってか令嬢から嫌厭されるようになり、レオナルド様自身も女性と結婚はしないと公言するようになりました。
男性であればまだそれほど結婚を焦る年齢ではないのですが、一人息子を心配したアインシュベット侯爵は結婚相手(女性)を探していたらしいのですが、月日が経てば経つほどレオナルド様の武勇伝が広がり難しくなるばかりだったらしいです。権力と財産目当てで縁談を受けてもいいという声もあったらしいのですが、殆どが悪評高い家ばかりでアインシュベット侯爵もさすがにそんな家とは縁談を組む事はしたくなかったようです。
そんな時に、借金地獄真っ只中であるアルデント伯爵家の話を聞きつけたアインシュベット侯爵はここぞとばかりに提案を持ち掛けてきたのです。家格が上の侯爵家からの申し出を拒む事が出来なかった上、これ以上ない好条件であった為、お父様は泣く泣くその縁談を受け入れたのです。
私自身も夜会で1度だけレオナルド様を見かけましたが……うん、あれは酷かった。
人目を気にせずに、お気に入りの男性の腰に手を添え体を密着させ、熱の籠った視線を相手の男性に向けていたのです。相手の男性は初めこそ困った様な態度をとっていましたが、あの女性顔負けの美しい顔で口説かれれ続け夜会が終わる頃には既に恋に落ちていたようで、二人は仲良く帰っていきました。噂は本当だったんだと衝撃を受けましたが、まさかそんな相手と結婚をするとは夢にも思いませんでした。
縁談の話から約半年後――
私はレオナルド様と結婚をしました。当然、レオナルド様は大反対をしていましたがアインシュベット侯爵が強引に事を進め、無事結婚へと至りました。縁談の話からたった半年で結婚に至った事から、アインシュベット侯爵の必死さが伝わってきます。