ナニワ遺跡の深部
また延長で申し訳ないっす。てか章分けとかがこんなに難しいものだとは思ってなかった。際限なく分かれてしまって困る。
ナニワ遺跡は卵円形のドームである。そしてそのドームに開いてしまった穴から私達はかれこれ一時間近く中心部に向かって歩いていた。もはや外壁の穴から照らしているライトは全く見えなくなってしまった。ドーム内は約10メートル毎に段差があり中心に向かって一メートルほど低くなっていて、12段目を降りて10メートル歩いても段差が無いのでどうやらあれが最後の段差だったらしいと、ベースキャンプに通信したのが10分前、宇宙服で歩きにくいせいなのか、得体の知れない恐怖感のせいなのか、足取りはやたら重かった。周囲を警戒したりビデオを振り回す元気は無く先を歩く為近さんもライトはただ足元を照らすのみで二人は警戒心無くただ歩いていた。
急に為近さんが足を止めた。つられて足を止める。顔を上げて彼を見ると宇宙服が震えている野に気付いた。どうしましたぁと尋ねるのと、被る感じで彼は口を開いた。
「いいいい、いつから足跡三つでした」
足元を眺めると私の足跡、為近さんの足跡のほかにもう一つ足跡が伸びている。疲れすぎていて何も考えられない。かといって走って逃げる気力も湧かず、とりあえず外壁のメンバーに連絡を取る。
「先に誰か入った可能性もありますから足跡の形をよく確認してみてください」
とベースキャンプの誰かが答えた。なるほど、そう言われてみればそうだ。よく観察してみると我々のブーツの足跡と同一であるように思えた。
「多分第一発見者の足跡だと思われます。エアーの量もまだ十分にありますし調査を継続してください。」
見た感じ為近さんは限界をとうに超えているようだったが、了解という声が響いた。
為近さんは足跡を追いつつ私の先を歩いている。しばらく頭が働かない状態でついていったが夢から覚めるように徐々に違和感が湧いてきた。足跡が三つ。三つ?奇数個はおかしい。第一発見者は戻らなかったのか?いや、別のルートを通った可能性もある。しかも第一発見者が遺跡の中にはいったなんて話は聞いてなかった。空回りしがちな頭でしばらく考えて通信を為近さんだけに限定したチャンネルに変え、こう聞いてみた。
「第一発見者ってのはどうなったんですか」
為近さんはしばらく黙り、こう言った。
「どうなったんでしょうね…」
思わず立ち止まった。第一発見者はどうなったのか。もう一度聞きたかった。一方でなにかが頭の中で聞くなと激しく警告する。教えてもらえた所でどうなる。調査を終了して戻っていいってことになるのか?さっきのベースキャンプの頭ごなしな雰囲気を考えればそうならない。どうしたらいい。どうできる。頭が空転している。
すると、為近さんはチャンネルを私限定に変え教えてくれた…。まだ戻っていない。だから、と彼は続けた。何かあればすぐに逃げ出しましょう。ベースまで走って戻って、助かりましょうと。
薄暗い灰色の中を重い体で歩いているのは粘土の中を泳いでいるように体力を消耗する。もっとも、粘土の中を泳いだことが無いから何とも言えないが、疲れるのは事実だ。身体的な疲労もそうだが、自分が使い捨てられるかもしれないという疑心から来る精神的疲労は半端なものではない。声を出さないと、となんとなく思った。
「第一発見者は為近さんの知ってる人なんですか?」
長い沈黙。いや、それほど長くは無かったのかもしれない。回線を2人限定のものにし、小さな声で帰ってないとだけ呟いた。
無言で歩いていると為近さんが立ち止まった。第一発見者の足跡の先を指差している。目をやってみると足跡はそこで途切れ居ていた。何も無い平らな埃の中で、まさにぷっつりと途切れていた。にもかかわらず、その周囲には途切れた足跡を覗いて何の痕跡も残されていない。足跡の主さえそこには居なかった。