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月の遺跡の場所

すごく地味な第3話(;´Д`)しかもどう言うわけか次回引きで自分でもビツクリシマシタ

 月の住人の間では捕獲説が語られている。


 いろいろと解説を飛ばした一文なので申し訳ない。月の起源についての話である。月の起源は親子説、双子説、ジャイアントインパクト説、そして捕獲説など学者の間でも様々な説が述べられているが、ジャイアントインパクト説がもっともリアリティーをもって語られている。しかし、月面に住む者の間では捕獲説がもっとも強く唱えられている。


 私がナニワに来たのは潜入レポートを書いてくれとなにわエネルギー工業の広報担当者と雑誌編集者に頼まれてのことだった。しかし、それよりもゴシップとして売り込むのなら絶好のネタを前回の潜入レポートで風俗嬢に気になる情報を貰った。


月面には遺跡がある。


 普通に考えれば馬鹿馬鹿しい情報だが、風俗ルポだけでは月面旅行の旅費と風俗の費用、滞在費で稼ぎがあまりにも寂しいことを考えると、この情報は裏を取っておいても損は無い。裏取りのために別の風俗店に行ってみたかったが、そんなに連射できるタイプの人間ではないのでキャバクラに行くことにした。意外にもキャバ嬢も同様の話をしてくれた、というよりも、店にいた2時間、すべてのキャバ嬢が興奮気味に遺跡の話をする。しかも私がルポライターであることは隠していたのにだ。最終的には周りの席のおっさんまで話し掛けてくる始末で、店内が月面遺跡や月面人がどのような姿をしていたとかいう学会のような状態である。風俗レポートとしては使い物にならなくなってしまったが、気になる情報もいくつか手に入ったのでよしとしよう。なんにせよ、今、月での話題は遺跡で持ちきりである。

 次の日、取り合えず風俗嬢に電話して遺跡情報を教えた客の名前を教えてもらい詳しい話を聞くことにした。連絡を取れたT氏は匿名を条件に情報を教えてくれた。月で遺跡の話を聞くと例外なく、話し手は興奮し取り留めなくいろいろな情報を吐き出すのでインタビュー形式で話を聞くことにした。

 それでも、彼は3時間、自分のの仕事が始まる直前まで取り留めなく話した。得られた情報で推測でないもの、正確と思われるものは遺跡の位置や発見した日時、発見した時の作業員仲間の名前程度で、その他の情報は宇宙人が作った地球侵略用の基地だとか月は宇宙人が作ったものだとか非常にうさんくさいものだった。

 その日のうちにT氏の情報の裏を取るためになにわエネルギー工業に行き、当日の作業員名簿を見せてもらった。作業員は18名。T氏と同様の時間を費やさないように18名全員に電話で遺跡の位置と発見した日時について聞いたが彼の情報は確かなものであるらしい。

 県や会社の対応はなんだろうか?言うまでもなく世紀の大発見だ、未知の文明はもちろん、ひょっとしたら未知の生命との接触さえあり得る。にもかかわらず県も会社も遺跡には知らん振り。私が終始遺跡をうさんくさいと思っていたのもそのせいだ。隠そうとしているのだろうか。何のために?嫌な予感がする。遺跡で何か不味いことでもあって隠そうとしているんだ、なぜかそう思った。

 遺跡のある場所は資源掘削区「A−07」、基地の外の遠方ににあるため宇宙服と車が必要となる。基地外に出るためにはフォンブラウン県の許可が必要である。県や会社が遺跡を隠そうとしているなら許可は得られない。それどころか向こうが本気なら私の資料もすべて没収することだって可能だろう。私的にジャーナリズムより商売優先なので遺跡に関する調査は中断すべきだろう。

本業を堅実にこなして、遺跡の記事は地球に帰ってからどこか適当な出版社に売り込むことにした。二束三文のトンデモネタ扱いだろうがそれでも金にならないよりはましだ。

 次の面白そうな風俗店を探そうと街を歩いているとケータイがなった。出たくない。くそが。見たことのない番号だ。やっちまった。なにわエネルギー工業に名簿を取りに行ったのはミスだった。などなど悪態やら後悔やらが頭の中をグルグル回っている。

 電話に出るとかけてきたのは遺跡発見現場の当日の責任者を名乗る男だった。調査は中止にしたのだと言ったが話だけでも聞いてくれと言ってきかない。県の陰謀説は杞憂なのかもしれないし、少なくともこの電話はその手の電話でないわけだから大丈夫だと判断し話を聞いてみることにした。山岡と名乗るその男はほかの月住人とは異なりいたって冷静だった。部下に教えられて私に興味を持ったらしい。興味深い話を聞かせてもらえそうなので喫茶店で会おうと頼むと快く受け入れてくれた。

 予定の喫茶店に入ると山岡氏はすでに私を待っていた。年の頃は20代後半、現場監督とは思えないほど色白でしかもスーツ姿、いかにもエリートといった風貌だった。日光に直接当たることがないためなのだと彼は笑った。コーヒーを飲みながら彼の話を一通り聞いた。電話の印象のとおり、彼は冷静かつ正確に月面基地の位置、発掘の程度などを教えてくれたが、一方で特に目新しい情報はなかったので、その後現場がどうなったかを知らないか聞いてみた。すると山岡氏は

「見に行けるように会社に話しときましょうか?」

こう言った。理解するのに少し時間がかかったがどうやら聞き間違いじゃなく彼は見に行くことができると言うようなことを言った。私の推測では会社は遺跡を隠そうとしているはずだったが考えてみれば何の根拠もないものだし、そうできるのならそうしたい。おっさんや風俗嬢を推測ばかりだとかなんとか嘲笑していた自分が急に恥ずかしくなってきた。是非お願いしますと山岡さんに頼み、「ここは私が」というベタなマナーをこなして帰路に着いた。

 次の日、連絡してきた時、山岡さんは話を通すどころかほとんどすべての準備をしてくれていた。基地外活動の許可、船外活動用の宇宙服、移動用のバギー(自動車とは言わないそうだ)、その他諸々。普通に考えれば異常だ。あまりにトントン拍子過ぎて猜疑心が頭をもたげたが、指定の場所に行ってみるとその事情は解明した。

「こちらは、県の観光事業課の内橋さん。それから、こちらがナニワの広報課の為近さんです。で、こいつが今回運転手をしてもらう部下の土田です。」

私を入れて5人。山岡さんと土田さん以外は初対面だったの名刺交換をしながら、やっぱり陰謀とかではなかったのかと安心し、なぜか少し落胆した。じゃあ行きますかと言うと山岡さんはAゲートに向かった。

 AゲートとはA地区への月と基地の門で、数百人の掘削作業員やブルドーザーが出入りするための気圧室を持つ巨大ゲートである。Aゲートは日に2回しか開かないため作業員達と一緒に出ることになる。初めての宇宙服だったので大いに手間取って恥ずかしい思いをするだろうなと思ったが、内橋さんや為近さんもどうやら初宇宙服だったらしく、何だ兄ちゃんたち初仕事か?などとおっさんに茶化された。

 土田さんに着いていくと、月面に出た。満天の空に恐ろしいほどの黒と蒼そして無限を思わせる小さな光たち。日光が当たっていないためゲートのライトが当たらない所は大地まで漆黒だ。ここはまだ人間の土地ではない。私はこんなに暗い大地を知らない。なぜ月面の住人達があんなに月面遺跡の噂話をしたがるのか分かったような気がした。

 バギーはすでに用意されていて山岡さんはすでに助手席に乗っていた。キャタピラを履いた軽トラックと言った外見のバギーのどこに乗るのかと思ったが予想通り荷台に乗せられた。宇宙服での動作は非常にむづかしく年取ったらこんな感じなのかなぁなどと取り止めのないことを思った。

 重くて動きづらい宇宙服だがバギーに着席すると少し息苦しいもののかなり楽だ。無線で話せるため、いろいろと聞きながら遺跡に着くのを待った。

 一番に聞きたいことは、なぜ遺跡調査を大々的に行わないのかと言う質問だ。内橋氏によると、すでに調査済みで県内に考古学の専門家が一人も居なかったため、県外にデータを送付し今検討してもらっている所なのだそうである。なら県外から学者を連れてくればすむ様な気がするのだがと聞き返すと、月の人口は一定量に統制していないとすぐにパンクしてしまうから一度往還船が来てしまうと一ヶ月間は新しく人間を入れるわけには行かないのだと言う。なんで前回、風俗レポーターを許可したんですかと聞くとそれはなにわさんの枠だから、と言われた。なにやら取ってつけたような理由だが、あんまり攻め過ぎると答えてもらえなくなってしまうかもしれないのでここら辺で止めようと思った。

「今回はね、あの遺跡を是非とも観光名所にしてもらいたいと思ってるんですよ。その件で為近さんに尋ねてみてたんだけどちょうどいい人がいるって言うんで紹介してもらった次第なんです。」

特に何も尋ねていないのに勝手に内橋さんが説明してくれた。かなり口の軽い人らしい。私が月に来たのはなにわエネルギー工業の依頼なのだから知られてて当然だ。

「風俗ライターなんでしょ?羨ましいなぁ。やっぱり一晩で何軒もハシゴとかするんですか?」

と聞いてきたのは為近さんだった。どこかお勧めがないか聞いてみると「おかえりなさい」を薦められた。

 風俗談義で盛り上がっているとバギーは遺跡に到着した。

【つづく】

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