表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/20

約束

 ライブのあった日の2日後、月曜日。

 悠は、健太と首藤と一緒に教室でお弁当を食べていた。

 会話に夢中になっていたが、健太の後ろに人が近づいてくるのが見え、そちらに意識を向ける。


「か…」


「健太」


「おお!佑樹じゃん。おはー!つっても、もう昼だけどな」


 悠が名前を呼び終わる前に、近づいてきていた人物、佑樹が口を開いていた。

 なんだ、俺に用があるわけじゃないのか……と、当然のことであるのに、ひどくがっかりした。

 そんな悠など視界に入ってもいないのか、佑樹と健太の会話が始まる。


「明日部活の前にミーティングするから、着替えたら1年3組に集合だって」


「あいよー」


「加藤くんと根岸、あと相沢くんに伝えといて」


 加藤くんと根岸というのは悠と同じ2組のテニス部員で、相沢くんというのは1組のテニス部員のことだ。

どうやらテニス部で伝達事項があると、クラスの代表が隣のクラスの代表に伝えていくシステムらしい。


「えー相沢には伝えといてー」


「だめ。健太は2組の代表なんだから、ちゃんと仕事して」


「はいはーい」


 健太は断られることなどわかっていて、甘えるように頼み事をしたようだ。その証拠に、断られても不快感などなく、楽しそうにしている。

 中学の時から部活も同じ2人。そりゃ仲良くもなるさ。そう自分に言い聞かせる悠は、なんとなくもやもやした気分である。

 用事を済ませた佑樹が「じゃあね」と立ち去ろうとする。

「え、もう終わり!?」と焦った悠は


「あのさ!」


 と、自分の予想より大きな声を出してしまった。

 それを聴いた佑樹が、健太から目線を外し、悠に向けた。実際は、佑樹だけでなく健太も首藤も悠に目を向けていたが、そのことには気がついていない。


「今日って部活ないの?」


 今日の、そして過去の佑樹と健太の会話から予想したことを佑樹に尋ねる。


「ないよ」


「じ、じゃあ放課後、どっか行かない?話したいことが……あるし……」


 言いながら、自分は何を言っているんだろうか、気持ち悪いことを言っているんじゃないか、と自信がなくなっていく。

 話したいこと=ヘルについて、だが、本音としては佑樹との距離を縮めたいだけであった。

 そのことに気づかれてしまうのではないか、男が男にこの発言をするのは普通なのか変なのか、悠の中で様々なことがぐるぐると回り、わけがわからなくなっていく。

 佑樹の返事を待つ。緊張が強くなり、鼓動が早くなり手に汗をかいている自分に気がつく。

 悠が質問をしてから何秒経ったか。もう30秒は待ったか。しかし現実では3秒かもしれない。

 悠にとっての長い時間が過ぎ、佑樹が口を開いた。


「いいよ」


 その返答と佑樹の笑顔に、気分が高揚するのがわかる。


「塾があるから、あんまり遅くまでは無理だけど……」


「いいよいいよ!全然いい!」


 見るからにテンションを上げ、更に立ち上がる悠を見て3人が驚く。

 しかし悠は3人の反応に気がつかない。喜びが大きくて、周りの様子が目に入っていないのだ。

 佑樹はすぐにいつもの穏やかさを取り戻し


「じゃあ放課後、2組に来るね」


「おっけー!」


 そう約束して、佑樹は自分のクラス、3組に帰って行った。

 また3人での昼食が再開したが、悠は「早くHRが終わったら迎えに行こう。早く終われ!」「どこに行こうかなー!」等、浮かれたことだけを考えていた。

 健太と首藤はその浮かれっぷりに気がついていたが、どう触れていいかわからず、そっとしておくことにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ