接触開始
「やべ!寝すぎた!」
次の日の朝、悠は前夜になかなか眠れずにいたせいで目覚めが悪く、二度寝三度寝と繰り返した。完全に目を覚ましたのは8時だった。
わくわくして眠れない…なんて、まるで遠足前の小学生のようだ。
急いで着替え、鞄を持って階下へ降りる。
「おはよう悠。休むのかと思ったわ」
「んなわけねーだろ!」
母親の呑気な発言に苛立ちを覚える。
寝坊したのは自分のせいだとわかってはいるが、起こしてくれたっていいじゃないか!と思ってしまう。
「メロンパンもらいっ」
自分の朝食を確保してから、洗面所へ向かう。
身支度を整え、用意されていた弁当もしっかりと鞄にし舞い込む。そのまま挨拶もせず、勢いよく家を飛び出した。
学校まで徒歩10分。十分間に合うが、朝食の時間も考えると、少しでも早くたどり着きたかった。
早足で向かう途中、赤信号につかまる。
信号待ちで止まった時に、ふとSNSのことを思い出した。
『ハルカ』としての発言はまだ1つだけである。とりあえず投稿しとこう、と思い、スマホを取り出す。
寝坊したことでも書くか、と思い文章を作る。
あとは投稿ボタンを押すだけ、のところで思い出した。
そうだ、顔文字でも使ってみよう。
そうして完成したのが
『寝坊した(>_<)』
である。
普段顔文字を使わない悠には気恥ずかしさもあるが、一応女子のフリしてるし…ということで、思いきって投稿ボタンを押した。
投稿が完了する頃には信号も変わっていた。
歩きながら、何人か友達登録しとくことを思い付き、さっそく検索をかける。
ヘル好きをたくさん登録してるアカウントに見せかけようと思ったので、検索で出てきた人を何人か登録した。
学校に着く頃には、8時20分を過ぎていた。
メロンパンを食べる時間くらいはあるな。
安心して玄関に入り、そこで会った友達と教室へ向かった。
放課後、部活もバイトもしていない悠はまっすぐ家へと帰った。
いつもなら友達と寄り道するが、今日はやりたいことがあったため、直帰する。
誰もいない家に入り靴を脱ぎ、部屋まで走る。
「おー!友達増えてる!」
朝友達登録したうちの何人かが、『ハルカ』を友達登録してくれていた。これで「相互」の状態が完成。
「さーて、さっそく『ゆうき』にアクションかけるかなー」
元々、暇潰しのために友達の友達を見ていただけなのに。
いつの間にか『ゆうき』の正体を知りたくて仕方なくなっていた。
もし『ゆうき』が同じ高校の人だったら…ぜひ友達になりたい。ヘル仲間が欲しい。
「その前に……と」
『登録ありがとうございます!ヘルについてたくさんお話しできたら嬉しいです!』
というコメントを、登録してくれた人たちに対して送った。
そうだ、カモフラージュのために友達登録したが、みんなヘルが好きな人たちなのだ。
この人たちともヘルについてたくさん話せるのだ。そう思うと、一層楽しみになってきた。
「えーと『ゆうき』はー…と。いたいた」
検索をかけて、『ゆうき』にたどり着く。
さっそく友達登録をし、コメントを送る。
『はじめまして!ヘル好きなんですね!私も好きなので、登録させてもらいました!もしよければ、お話ししませんか?お返事まってます(^○^)』
こんな感じだろうか。我ながら上手くできていると思う。と、自信を持ってコメントを送信した。
それから、スマホの前で返事を待つ。しかし、待てども待てども返事はこない。
部活か?それともバイト?そんなにすぐ返事がくるわけないか……当然のことなのに少しがっかりした。
待つこと3時間、ようやく返事が送られてきた。
意気揚々と開いたコメントは実に質素なものであった。
『はい、好きです。よろしくお願いします。』
「やっぱりか……」
過去の投稿から、予想することは簡単だった。なのに、どこかで急展開を期待してしまっていた。
「まあ、地道にいきますかー」
どうやら友達登録はしてくれたようだし!と、前向きに捉え、さっそく新たなコメントを作り始めた。