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Prologue
゛オニさんこちら、手のなるほぉへ〜っ”
八月の半ばも過ぎた盆の午後。
蝉の声が響く田舎道でその青年が思い出したのは、呼び声だった。青年がまだ小学校の低学年だった頃、今から約十年前に聞いた声だ。夏休みに父方の実家へ帰る度、遊ぼうと誘いに来た少女の声。
真っ青な空、
濃い緑の木々、
畦道、
蝉の声、
あの子の呼び声
…。
何故か今でもはっきりと思い出すことができる。それだけ鮮やかな記憶として青年の中に残っていた。
「トモくん。明日、零が帰って来るんじゃけど、駅まで迎えに行ってくれんかねえ。道、忘れとるじゃろうから」
隣のおばあちゃんに頼まれたのは昨晩のことだ。聞いた瞬間、微かに鼓動が速くなったのを感じた。
あの子が帰ってくる。
駅へと続く道の上。ふと見上げれば青い空。
゛オニさんこちら、手のなるほぉへ〜っ”
彼女を探す彼がいた、
彼女を探す彼がいる、
或いは彼を…彼を探している彼がいる、
ある夏の午後。