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機械国家  作者: 倉本咲楽
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手作成

機械に全て支配されたといっても、本当に全てではない。

実はいくつかは残っている。それは私の住んでいる“手作成”<ハンドメイド>という街だ。


名前の通り、手作りのみで動いている街だ。

私はここの出身だし、ここから出ようなんて思わない。それほどこの街が大好きなんだ。

ここ以外の街はほとんどが機械国家となってしまっていて、街を一歩出ればすべてが機械化という、正直気が狂いそうな光景。


それほど機械化に反対な私でもたまには手作り以外、つまり機械を見てみたいと年頃の欲求は生まれてしまう。

けど、行くたんびにあぁここも…と嘆いているのだから、つくづく自分のバカさ加減に愛想がついてしまいそうだ。

それでも新しいものを見つけるのは楽しい。


さっきも三つ隣の市に足を運んだところで、ほとんどが機械化されていて大きなため息をついてきたばかり。

家に帰ってくると、ばたばたと階段からもの凄い音がする。


「ねえちゃ!おかえり!」

「ただいま。新汰<しんた>」

大きな音で出迎えてくれたのは私の弟の新汰。

そうそう、私の自己紹介はまだだったっけ。

ここで話してもいいんだけど、どうせこの後誰かに名前を呼ばれるだろうし、お楽しみということでここでは伏せておこうかな。

靴を脱いで、玄関に腰を下ろすとさっきより大きなため息が零れてしまった。

私の横顔をじっと見つめながら、新汰は物不思議そうな顔で、ねえちゃつかれたの?と問われた。

ちょっとだけね、と返すとお水いる?と気遣う言葉を貰った。

我が弟ながらこの年で気遣いができるなんていい子に育ったよ本当…。

「大丈夫よ、それよりお母さんは?」

「ごはんつくってる」

そう言われればキッチンからいい香りがする。

私も散々歩き回って疲れたし、おなかもすいている。

よっと、声を軽く上げながら立ち上がると新汰と共にいそいそとキッチンへ向かう。


リビングとキッチンが繋がっている部屋に入ると、お母さんがこちらに背を向けて淡々と野菜を切っている。

部屋の中はすっきりと片付いていて、機械はあまりおいていない。

お母さんにただいま、というとおかえり、と朗らかな声で返される。

ソファーに座ってぐーっと背伸びをし、ちょっとはしたない姿になってしまったが気にしない。

いや、気にすべきなんだろうけど、ここには新汰しか見ていないし、ちょっとだけリラックスモードに入っても大丈夫だろうと思った。

だが、お母さんの目線は鋭い。

「波香<なみか>。くつろぐ暇があるなら手伝いなさい」

怒られてしまった。

しょうがないのでめくれ上がったスカートを直して、お母さんの横に並ぶ。


さっきお母さんに名前を呼ばれたのでここでもう一度自己紹介をしよう。

私の名前は波香。森手波香。ちなみにまだ16歳で、高校一年生。

弟の新汰は7歳。

お父さんは建築関係で、お母さんは専業主婦。

まぁこんなところかな。


口癖が女子高生ぽくない?それは仕方ない。

私の趣味に読書があるのだけど、影響を受けやすいらしく、簡素ってかそんな感じの喋りになってしまうのは仕方ないので我慢してください。


自己紹介もすんだし、そろそろお母さんの手伝いをしないと本当に怒られかねないので、色んな説明はまたあとで。


「今日はなに?」

「コロッケよ。あとサラダ」

お母さんの横にはコロッケの具材の入ったボールが置いてある。

さっき切っていて野菜はサラダ用らしく、綺麗に彩られて既にサラダボールに盛ってある。

見たところ私の出番はなさそうな気がするけど…。

「はい、波香はコロッケを宜しくね」

にっこり笑顔で渡されたボールは重い、ってかこれ何キロあんの。

こんなに大量に作るのか、と毎回げんなりしてしまうが、お父さんは大食間なんでこれじゃ足りない。

建築系ってそんなに体力使うのかな。

私の小さい手じゃ小さいのを何十個単位で作るしかないけど、そんなちまちました作業では絶対お母さんに怒られてしまうので一生懸命大きなコロッケを作る。

ボールの横の大皿に次々にコロッケを乗せて作っていく行為は中々辛い、ってか手がすっごいことになってきましたこれ。

時々握りきれなかったコロッケの破片が零れて床に落ちる。

隣にいたはずの新汰がシンクのところに手を添えてじーっとこちらを見ていて、食べたそうな顔をしている。

「新汰、食べる?」

「たべる!」

あーんと口を開けてくる新汰にちょこっとだけコロッケの小さいのをあげようとしたら、お母さんから怒鳴られた。

まだ揚げていないのだからお腹を壊すでしょう、とのことで、お叱りを受けてしまった。

新汰と顔を見合わせてはーいと返事をするも、ちょこっとだけ味見がてら手についたコロッケの残骸を舐めたら塩コショウが効いていて美味しい。

やっとボールの中のコロッケを全て作り終えて、お母さんに渡すと私の出番は終わったようで、手を洗いリビングのソファーにそのままダイブした。

またもやここでお母さんからお怒りの言葉が飛んできたけど、既に睡魔に襲われかけていた私には全く効かないのだから。

そうしてるうちに本当に睡魔がきて、私の瞼はどんどん閉じていくのがわかっていて、このままソファーに埋もれて寝てもいいかなって思っている。

ソファーに埋もれながら、私は今日訪れた街の事を思い出してみる。


半年ほど前までは三つ隣の街も、この街を似たような感じだった。

完全に機械に支配されたのではなく、手作り感を残しつつの街だったのに、いつの間にか機械がすべてを支配してしまっていた。

あの街に行くたびに通っていた馴染みの店も、落ち着いた雰囲気の漂うカフェも、何もかも、機械とゆうものが支配してしまっていた。

そのことに対して、あの街の人々は疑問を持っていない。

むしろ、他の街と同じであるという安心感の方が強く、疑問なんて持たないのだろうけど。

この街だけが、唯一機械に支配されていない街。


と、いってもほとんどの街が機械を導入してしまっている今、手作を重んじるこの街は周りから見れば異様らしい。

私からすれば機械に支配されてしまった他の街こそ異様なもの。

捉え方は違うけど、お互いがお互いの街を異様と言っているのはおかしな話だし、どうしてこうなったのだろうか。

機械が導入されたのは数十年前らしい。

元々、機械作りに特化した国だったのでそこまで難しいものではないし、出来の良さに周りの国からも注文が来るほど技術としては素晴らしいのだ。

だが、いつからから自分たちが楽をする事しか考えられなくなった。

機械と手作りが半々だったのに、人はいつからか、楽さを求めてしまった。

気づけば街の至る部分が機械と化していた。

乗り物は元より、私たちの生活の大半を占めるもの。

例えば料理など、自分たちで買ってきて、調理する、という工程が省かれて、買い物はパソコンなどの便利な機械で一発。

調理に至っては各家庭に支給されたアンドロイドと呼ばれる機械人形がしてくれるから、人はやることがなくなる。

料理だけではなく掃除も洗濯も、何もかも機械にやらせている。

自分たちでは何もしなくなった街。

機械に支配された街。

それが今のこの国なのだ。


ふぅ、とため息をついた私はソファーに寝転がりながらポケットから携帯を取り出す。

機械の全てを嫌がるわけじゃない。

ただ何もかも大事なことまで機械に任せているのが嫌なのだ。


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