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15:デートすることになりました



 道中は、主にシャルトルさんやそのお友だちさんなんかと和やかにお話ししながら進んでいきました。

 魔物と出くわしたりしても守れるように、と使用人はみんな真ん中のほうに固められています。

 先頭を歩く隊長さんとは、一言もお話しすることができませんでした。何やら忙しそうに他の人と話してましたし。

 でも、途中何度か目が合ったりして、そのたびシャルトルさんにからかわれたりして。

 隊長さんとは直接話せなくても、たまにはこういうのも楽しいなぁなんて思っちゃったりした。


 そして、何時間か歩いて、町です! 町につきました!!


 町についてすぐさま、私たちは大忙し。

 町の入り口あたりにはもう町の人たちが集まってきていて、荷物を受け取りに来た人や必要な物を持ってきてくれた人、ただの野次馬なんかでいっぱいだ。

 隊員さん向けの出張販売みたいなものも何人かいるようです。

 あ、あれたぶんタバコだ。あっちはお酒だよね。……シャルトルさんが早速お酒を買ってるし。

 そんなのを横目で見ながらも、私だってちゃんと働いているのです。

 普通の洗濯では落ちない汚れのついた服を、お洗濯専門のお店の人――元いた世界で言うならクリーニング屋さんかなぁ――に渡すために、ちゃんと服の数が合っているかを数人がかりで数えていた。

 他にも、修理に出す武器の数を数えている人とか、リサイクルできるゴミの仕分けのチェックをしている人とか、新しく買う食器やら調度品やらの確認をしている人もいる。


 こんなに大勢で町に来るのは、月に一回か二回くらいのことらしい。

 いっぺんにいろんな用事をすませようとするから、けっこう忙しなくなるんだって。

 延々と確認作業確認作業で、解放されたのは一時間半後くらい。

 ずっと数を数えまくっていたから、数字が頭の中でゲシュタルト崩壊を起こしそうになっていた。


「疲れたか?」


 うなだれていた私の頭に、ぽん、と手のひらが乗せられた。

 見上げると、そこにいたのはもちろん隊長さんだった。

 うわぁ、今日初めて隊長さんの声を聞きました!


「隊長さん! 大丈夫です、まだまだいけます!」

「いや、もう充分だ。あとは好きにしていい」


 握りこぶしを作って答えた私に、隊長さんは苦笑いをこぼす。

 そっか、もうやることはないのか。

 ……スーパー素敵な完璧メイドにはほど遠かったような気がする。

 次は、次はもっとがんばることにしよう!


「これからは自由時間なんですか?」


 自由時間があるってことは、使用人の人たちに教えてもらっていた。

 自分の必要なものを買ったり、他の人に頼まれたものを買ったり。

 遊ぶ時間というよりも買い出しのための時間って感じがするけど、ショッピングは楽しいものだから無問題だね!


「ああ。お前にも自分で選んで買いたいものはあるだろう」

「あります。実はお風呂用品を充実させたかったんですよね。私、お風呂大好き人間なので」


 入浴剤とか、バスアロマオイルとか、香りつき石鹸とか。

 やっぱりそういうのがないと、快適なお風呂ライフは過ごせないよね。

 いくつかは隊長さんのところに置かせてもらって、一緒に試そう♪ なんて思う私は、イケナイ子でしょうか、うふふ。


「他にも服とか下着とかも買いたいですし……あれ、けっこう大荷物?」

「気にするな。それくらいの余裕はある」


 そっか、ならよかった。

 私は町に行くのが初めてだから、使用人頭さんにもエルミアさんたちにもシャルトルさんなんかにまで、必要なものがあったら遠慮なく買うようにって言われてるんだよね。

 次にいつ来れるかもわからないし、今日は散財しまくっちゃおう!

 普段、砦で生活してると、お給料を使うことなんてまったくないからね。この三ヶ月分のが丸々たまっているのですよ。


 久々のショッピングだ、とウキウキする私に、隊長さんは優しく微笑んでくれる。

 それだけでなんだか心がほんわりして、しあわせな気分になる。

 場所が違うから、なのかな。いつもと同じなのに、いつもとちょっぴり違う感覚。

 この感じを、もっと味わっていたいな。

 もっと……隊長さんと一緒にいたい。

 なんて考えた私の頭の中に、ピコンと名案がひらめいた。


「あのですね、隊長さん。いいこと思いついちゃいました」

「なんだ」

「デートしましょう!」


 人差し指を立てて、私は笑顔で提案する。

 なんだかんだで、砦から出ることがなかったから、デートらしいデートもしたことがなかった。

 お部屋に一緒にいるだけでも、お部屋デートとは呼べるかもしれないけど。

 一緒にお出かけできる機会があるなら、それを逃す手はないよね!


「……デートか」


 すぐに承諾されるという予想を裏切って、隊長さんは眉をひそめてしまった。

 雲行き、怪しい感じです。

 でも、隊長さんは隊長さんだし、これから自由時間の使用人や隊員とは違って、まだ仕事が残っているのかも。

 考えなしに誘っちゃったかな? 隊長さんの都合も考えないとね。

 だからってデートはあきらめたくないし……。

 悩みながらも、私は期待を込めたまなざしを隊長さんに向ける。


「えっと、ダメでした? もしかして隊長さんには自由時間とかないんでしょうか」

「いや、使用人たちほどではないが、ある」

「じゃあ、一人で行きたいところがあるとか?」

「別に一人でなくてもかまわない」


 私の問いかけに、隊長さんは迷う様子も見せずに答えていく。

 嘘はついていなさそう。隊長さんはわかりやすいからね。

 ……だったら、何がイヤなんですか隊長さん!!

 と、言いたいんですが、私は。

 でも私は知っている。

 こういうときは、怒るよりも泣き落としのほうが有効だということを!


「……デート、嫌ですか?」


 うる、と瞳をうるませて、上目遣いで隊長さんを見上げた。

 隊長さんが目に見えて動揺しだした。

 デートしたいなぁ。隊長さんと一緒に色々見て回りたいなぁ。

 そんな気持ちを込めに込めて、じーっと隊長さんを見つめ続ける。

 やがて根負けしたように、隊長さんは一つため息をついた。


「そうじゃない。考えてもみなかったから、少し……驚いただけだ」


 隊長さんはそう言って、視線をそらす。

 その頬はよく見ると少し赤く染まっていて……なぁんだ、照れていただけだったのか。

 私はほっとして、泣き落としのことなんて忘れてニコニコ笑顔になった。


「ここで五分ほど待っていろ。副隊長に話をつけてくる。いいか、一歩も動くなよ」

「りょーかいです!」


 しっかりと念押ししながら、隊長さんは私から離れていった。

 そんな隊長さんに、私は両手を振って一時のお別れを惜しんでみたり。

 というか、念押ししなきゃいけないほど私は危なっかしいんでしょーか。

 ……危なっかしいんだろうなぁ、隊長さんから見たら。

 なんたって、町に来るのは初めてだもんね。

 その初体験を、隊長さんと一緒に過ごすことができるだなんて、うれしすぎてリア充爆発しちゃいそうだ。



 こうなったら、めいっぱい楽しむしかないでしょう!







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