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13:町に行くことになりました



「え、町に行くんですか!?」


 お昼休み、隊長さんの部屋に遊びに来た私は、驚くべきことを教えられた。

 近々、隊長さんや隊員さんの幾人かが、この砦から一番近い町に行くと言うのだ。

 隣に座る隊長さんの膝に手を乗せ、身体を前のめりにして顔を近づける。

 隊長さんたちがたまに町に行っていることは知っていたけど、こうして事前にお話してくれるのは初めてだった。

 どうしたって期待は高まるというものです。


「ああ、朝早くに出て夕方には戻ってくる。買い出しと、町にいる仲間との話し合いのためにな」

「私も行きたいです!」


 はいはーい、と手をまっすぐ上げて、私は言った。

 だって、町だよ町! この世界に来てから、まだ一度も行ったことない、人里!

 行きたくなるのも当然だと思う。


「そう言うと思ったから、メンバーに入れておいた」


 ふっ、と隊長さんはかすかな笑みをこぼした。

 私の反応を予想していたんだろう。

 そりゃあそうだよね。隊長さんなら私が言いそうなことくらいわかるよね。


「え、大丈夫なんですか? ちょっと調子に乗って言ってみただけだったりしたんですけど」

「行きたくないのか?」

「もちろん行きたいです! でも、私が行っても役に立たないような……」


 掃除洗濯に料理。私にできることなんて、微々たるもの。

 使用人としての仕事だって、教えてもらいながらなんとか、という感じなのに。

 町に行くのは用があってのことらしいし、その用を手伝える人が行ったほうがいいんじゃないだろうか。

 勢い込んで立候補してみたものの、実際行けるとなると不安になってくる。


「あまり砦の外に出る機会のない使用人を連れて行くのはいつものことだ。気にするな、ちゃんと使用人としての仕事もある」


 そう言いながら、ぽんぽん、と隊長さんは私の頭をなでてくれた。

 うう、隊長さん優しい……。


「が、がんばります! スーパー素敵な完璧メイドになってみせますから!」


 私は張りきって、ぐっと握り拳を作る。

 私にもできることがあるなら、それをがんばるしかないよね。

 迷惑かけてるんじゃないかって気にするよりも、そっちのほうがずっと建設的だ。


「意気込みすぎてドジは踏まないようにな」

「りょーかいですっ!」


 少しだけ心配そうな顔で私を見てくる隊長さんに、力強くうなずいてみせた。

 大丈夫大丈夫、最近は使用人の仕事にも慣れてきたし!

 町での仕事がどんなものかはわからないけど、あとで使用人頭さんとかに聞くこともできるし。

 できることから、こつこつと、なのです!



  * * * *



 午後はエルミアさんと二人で、中央棟三階のモップがけだ。

 中央棟は主に隊員さんたちの私室がある棟。隊員さんの大多数が仕事をしている午後のうちに掃除する。

 私室のベッドからシーツを回収する係の使用人さんとたまにすれ違ったりしつつ、私はふんふんと鼻歌を歌いながら掃除をしていた。


「今日は一段とご機嫌ねぇ。何かあったの?」


 掃除し始めて一時間もしないうちに、エルミアさんにそう指摘された。

 まあ、そりゃあ聞きたくもなるだろうさ。

 今日の仕事の相方が、調子っ外れな鼻歌なんて歌いながら掃除をしていたら。

 何かいいことがあったらしい、ということくらいはわかるってもんだ。


「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました! 今度、町に行くのです!」


 じゃじゃーん、と私は胸を張って答えた。

 この喜びをエルミアさんにも伝えたいのです。


「ああ、そういうこと。今回はサクラの番なのね」


 エルミアさんは大して驚くことなく、納得してしまった。

 なんだ、つまらない。

 もうちょっと何かしらのリアクションを期待してたんだけども。

 エルミアさんだし、しょうがないのかな。


「ローテーションなんですか?」

「ちゃんと決まってるわけじゃないわよ。よく町についていく人もいれば、たまにしか行かない人もいるし。希望してるかどうかのほうが重要視されるわね」

「希望が反映されるのはいいですね!」


 希望を聞いてくれるってことは、ちゃんと私たちの言葉に耳をかたむけてくれているってことだ。

 隊長さんが使用人の声を無視したりするわけがないってことはわかってるけど、それって本来はけっこう難しいことだと思うんだよね。

 この砦の最高責任者が隊長さんで、本当によかった。

 もし隊長さんじゃなかったら……今ごろ私はどこで何をしていたんだろうなぁ。


「って言っても、そんなに頻繁に行けるわけじゃないから、退屈は退屈よね。もう慣れたけど」

「砦での生活も毎日発見が多くておもしろいですよ?」


 きょとん、と私は首をかしげて言った。

 ここでの生活を退屈だなんて思ったことは一度もなかった。

 仕事はやりがいがあるし、使用人さんたちも隊員さんたちも親切だし、何より隊長さんとは毎日ラブラブだし。

 下手すると、日本で暮らしていたときよりも充実しているかもしれない。


「あんたはね。何年もいると飽きるわよ」

「そういうもんですかねぇ」


 私も何年もしたら、ここでの生活に飽きてきたりするのかな。

 ……そもそも、数年後にもここにいるのかなんて、わからないんだけども。

 退屈しちゃうくらい、この世界で暮らしが当たり前になるのも、それはそれでいいかなぁ、なんて思ったりする。


「あとは、あんたの場合は隊長がいるわけだし。それに、性格もあるわよね。なんでも楽しめるっていうのは得な性分だと思うわ」

「わーい、褒められた~」


 素直に喜んだら、エルミアさんに呆れたような顔をされた。なんでだ。

 日常っていうのは、楽しんだもん勝ちだと私は思うのですよ。

 どんな物事にも新たな発見っていうのはあるもので。

 そういう一つ一つに心を動かしていれば、退屈なんて遠いどこかに行ってしまう。

 頭の作りが単純だから、なのかもしれない。


「ま、今回はあたしもハニーナも一緒には行けないけど、楽しんできなさいな」


 ふふっ、とエルミアさんは笑って、そう言ってくれた。

 それだけで私は本当にうれしくなってくる。

 私の喜びを、エルミアさんはちゃんとわかってくれていたんだって、伝わってきたから。


「はい!」


 だから、私も笑顔で大きく返事をした。

 初めてのお出かけは、絶対楽しいものになる。

 そんな確信が私にはあった。



 町へ行くのが、今からすっごく楽しみです!







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