第四章・距離
内容を濃くしようとしたら、長くなってしまいました。
f(^_^)
「アンタも…このクラス?」
「う、うん…」
まさかクラスが一緒だとは予想外だった。出会いを大切にしろと言う、神のお告げだろうか…。
「せ、席に座ろうかな〜……」
嬉しさと驚きを出来るだけごまかす。それに俺達以外みんな席に座ってるし。
ガタッ
自分の席に座ろうと椅子を引いたとき、ナキは気づいた。後ろの席が空席だという事に。
ガタッ
すぐ後ろで椅子を引く音がした。もう分かりきっているが、後ろを見て確認すると。
「…う、うう……」
今にも泣きそうな目をした少女がいた。というかこれ泣いているんじゃないか?。
とりあえず、座って前を見る。後ろを見て大泣きされたら困る、なんで涙目なのかよく分からないけど。
ガラッ
ドアが開き担任の教師と思われる人が入って来た。
「み、皆さん初めまして、1−D担任の……あっ、トリー・リース…です」
燃えるような赤いショートヘアーと目をした担任のリース先生は、自己紹介からテンパっていた。背が小さいのに恥ずかしがっているせいかより小さく見える。
(自分の名前忘れるか?普通…)
今日何回ツッコンでるのだろうと思っていると、リース先生が口を開き始めた。
「い、以上で先生の自己紹介は終了です。では、窓側から順番に自己紹介をお、お願いしま〜す…」
窓側の先頭から自己紹介を始める。リース先生は安心したのか胸をなで下ろしていた。
そして、俺に順番が回って来た。席から立ち上がり周りを見回す。
(何て言うかな〜…)
正直なにも考えてなかった。とりあえずノリに任せることにした。
「えー…ナキ・アーヴィストです、オルカ出身、特技は体術まあ…我流だけど。趣味は釣りと寝る事です」
「趣味に寝る事だって、面白い人だね」
「すげぇ!体術だってよ、しかも我流なんてカッコイイな!!」
簡潔に言ったが意外と好印象だった。
「それと…」
言い忘れていた事があったので付け足す。周りも注目している。
「青髪だから暗い訳じゃないし、目は細目なだけで睨んでいないし、黒目なのは元々で別に闇に支配されたりしてないのでそこんとこよろしくお願いしま〜す」
「アハ、ハハハハ」
クラスが笑っている中で唯一苦笑いをしてる3人に向けてのメッセージだ。ちゃんと聞いてるんだぞ。
(次はあの子か…)
席に座り、半身で後ろを向く。
「レン・ウィンディ、出身はチトレンです。よろしくお願いします」
そして席に座り、リース先生へと視線をやる。
「で、では次の人どうぞ…」
「え…あれで終わりなの?」
「なんかキリッとしてる人だね…」
「ク、クール系だ。俺このクラスで良かったー!」
クラスの所々から声が聞こえる。なんか変な発言も聞こえたけど…。
「ずいぶんと短い自己紹介だな…」
半身で後ろを向き、小声で話しかける。
「……」
机に顔を付け両腕で顔をガードされているため、顔は見えない。返事も返ってこないのでそのまま話し続ける。
「…しかし、特技とか趣味も言えば誰かが話しかけて来るぜ?」
「………」
「俺はお前の趣味1つ知ってるけどな…」
「……?」
「人を空に飛ばすこと!」
ガンッ!!
「私は変人か!…」
「す…すいません」
返事も返って来たが、オマケで蹴りが付いて来るとは…。
それから学園施設の説明や、校則などいろいろ説明を聞いた。
「では皆さん、明日から授業はあるので頑張ってくださいね、それではさようなら〜」
「13時か…微妙な時間だな。カイト〜帰ろうぜ…っていないのかよ!」
生徒が教室を出て行く中カイトの姿はどこにもなかった。
「ご、ごご、ごめんなさ〜い!!アーヴィストくんとウィンディさんいますか!?」
リース先生が慌てた様子で教室に戻ってきた。
「どうしたんですか?」
リース先生は息を切らしているせいで、俺達が目の前にいるが何も言葉が出せないようだ。
「ハァ…ハァ…、学園長室に…行ってください。学園長がお呼びです」
「わ、分かりました」
教室を出て学園長室に向かう。ウィンディも何で呼ばれたかよく分からないようだ。
コツコツコツ
学園長室に向かう廊下は今俺とウィンディだけだ。
(話しかけるチャンスだな)
「あ…」 「あのさ!…」
話しかけようとした時、ウィンディの方から話しかけて来た。
「…何?」
「その…今朝はおばあちゃんを守ってくれて…あ、ありがとう。おかげで攻撃が間に合ったわ」
「ああ…うん、どういたしまして」
まさかお礼を言われるとは思わなかった。少し照れるな…。
「なあ、1つ聞いて良いか?」
「何?」
「何で教室で涙目だったんだ?」
「そ、それは!…」
その事を聞いた途端ウィンディは下を向いてしまった。
「それは…む、胸触られたり、下着見られた変態と一緒のクラスと思ったら…」
「だからあれは不可抗力だって!」
「わ、わざとかもしれないじゃない!」
と、言いあっているといつの間にか学園長室の前に着いていた。
「…よし、行くぞ…」
となりでウィンディが小さく頷く。
コンコン
「1−D、ナキ・アーヴィストです」
「1−D、レン・ウィンディです」
「どうぞ、お入り下さい」
中からゆっくりとした口調で招かれる。
「失礼します」
ドアを開け先に部屋へ入る。
「あれ…誰もいない?」
確かに中から声はしたはずだが、部屋の中には俺達以外誰もいない。
「どうしてかしら?」
「あ!分かったぞ…」
「何が?」
「さっきの声は幽霊だったんだよ、俺達をこの部屋に誘い込むために学園長の声を使ったのさ!」
「なわけないでしょ、それじゃあ学園長はどこへ行ったのよ?」
「冗談だよ、冗談………で、なんで部屋出ようとするんだよ?」
さっきまで隣にいたウィンディが、いつの間にかドアノブに手をかけていた。
「が、学園長を探しに行くのよ!」
「学園長室に呼ばれたのは確か何だから待ってた方がいい気が…」
「いいのよ!、じゃあ学園長探して来るから!」
ガチャ!
「お呼びかな?」
「キャァアーー!!!」
「お!、おい…」
「そこまで悲鳴を上げられるとショックじゃの〜…」
(学園長が仕組んだのかこれ…)
ドアの方からゆっくりとこっちに歩いてくる。
「ふぅ〜、隠れていたから疲れたの〜」
(子供みたいな人だな…)
しかし、姿は白い髭を長くたらした老人だ。髪の毛は……無い。
「なあ…幽霊じゃなくて学園長だったから大丈夫だぞ。だから…放してくれないか?」
「ん……あっ!違う、違うから!別に怖かった訳じゃないから!」
慌てて俺から離れる。ちょっとの間とはいえ、抱きつかれた事で心臓が高鳴っている。
「学園長室でしかもワシの前で抱き合うとは……これも青春じゃの〜」
「「抱き合ってません」」
「ハッハッハッ。君達を呼んだ理由は今朝の宝石店事件の話しじゃよ」
学園長は嬉しそうに微笑みながら話し続ける。
「君達のおかげで犯人も捕まり、宝石も助かったとお礼を言われたよ」
「いえ、俺は自分で考えて行動しただけですから」
「私も同じです」
「謙虚じゃの〜…まあ、ここからはワシの話しなんじゃが…」
学園長はゆっくりと俺に目を向けた。
「悪いがウィンディくん、アーヴィストくんを少し借りるよ」
「はい、大丈夫です。では、私はここで失礼します」
ウィンディが部屋を出ていき、俺と学園長だけになった。
「ナキ・アーヴィストくん」
「…はい」
学園長の態度から真剣な話しだということが分かる。
「君に夢はあるかね?」
「夢…ですか?」
「これが自分の夢だと言えるものがあるか?」
「……ありません」
(あの夢はもう終わったんだ……)
「………では、魔法とは何だと思う?」「……魔法は世界の一部と言ってもいいかもしれません。いまでは生活に欠かせない存在になっています。」
「でも…魔法は万能ではないです。不平等が生まれます。」
「ですから、魔法についてはよく分かりません」
「…ハッハッハッハッ!!」
「えーと…学園長?」
「いやいや、すまない。…何だか似ていたからつい」
「誰にですか?」
「昔のワシにじゃよ」
(マジですかーー!!)
真剣な話しだと思ったら、急に面影を重ねられた。
「それに君を見ていると、とても懐かしい感じがする。」
「そう…ですか」
「久しぶりに楽しい話しができた。機会があったらまた話そう」
「はい、ありがとうございました」
学園長に一礼してから部屋を出る。
「…17時!?…結構時間過ぎたな」
(カイトもいないし、帰るか…)
学園からの帰り道でふと思い出した事があった。
(そういえばおばあさんに夕食誘われてたな…)
ポケットに入れていた地図を取り出す。
「ん?今いる所から近いな…」
地図に従って道を歩いていく。すると一軒の大きな家があった。
(どうすっかな〜…)
ガチャ
「いらっしゃい、どうぞお入り下さい」
「あ、ありがとうございます…」
おばあさんが出迎えてくれた。
「もう少しで作り終えるので、くつろいでいて下さい」
とりあえず席に座り食事を待つ。
「君が婆さんを助けてくれたのかい?」
「え、ああ…はい」
「…本当にありがとう」
お礼を聞いただけで、来て良かったと思える。
「はい、できたよ」
テーブルいっぱいに料理が並べられている。食いきれるのか…。
「レンちゃん夕食できたよ」
「レンちゃん?」
「孫の名前だよ、きっと仲良くなれるよ」
(何だろう…すごい最近聞いた気がする)
「おばあちゃん!、今日は何?」
元気な少女の声が聞こえた。そして声の方を向くと。
「あ……」
「ど、どうも〜」
「今日はありがとうございました」
「また来てね」
食事中は大変だった。俺達が知り合いだと分かると、どんどん話題をふるので食べるどころではなかった。ましてや、付き合ってるのなんておばあさんが聞くもんだから、2人して喉に詰まらせた。
「見送りなんて大丈夫だぞ」
「おばあちゃんに頼まれたから行くのよ。」
今日は夜空の月が綺麗に見える。歩きながらずっと見ていた。
「ここまでで良いよ、ありがとな。じゃあまた明日…」
「待って!」噴水広場に着いて、ナキが立ち去ろうとした時、後ろから呼び止められた。
「これだけは言っておくけど、私はアンタと仲良くしようなんて思ってないから」
「私にはやらなきゃいけない事があるの…」
「分かった…。じゃあな」
俺達は噴水広場で分かれそれぞれの家に帰った。