踏切
カンカンカンカン。
カンカンカンカン。
けたたましい音と共に2つの赤いランプが交互に点灯する。
黄色と黒色の警告色。遮断機がゆっくりと下りてくる。
僕の前に女性が1人立っていた。
踏切が鳴り出す前から、ずっとそこに立っていた。
風を切りながら電車が通過していく。
女性の長い髪が通り過ぎる電車を追うようになびいている。
カンカンカンカン。
カンカンカン……。
音が止まる。
遮断機がゆっくりと上がる。
止まっていた時が動き出すように、歩行者が、自転車が、車が動き出す。
でも女性は動かなかった。
体調が悪い?
気になった僕は、恐る恐る女性に話しかける。
「大丈夫ですか? 具合悪かったりしますか?」
女性がゆっくりと僕に顔を向けた。
そしてまた踏切へと顔を向ける。
「ここで息子を亡くしたんです」
周りの喧騒ひかき消されてしまいそうな程の、小さな声だった。
「今日がちょうど1周忌で」
僕は返す言葉が浮かばなかった。
女性の言葉は静かに続いていく。
「学校からの帰り道、ちょうど買い物に向かう私を見つけて。遮断機はもう下りていて。でもあの子は電車が通過するのを待てなくて……」
ふと思い出す。
昨年、テレビのニュースでやっていた。
近くの踏切で小学生の男の子が電車に撥ねられた事故。
近くで事故なんて怖いな、程度にしか感じていなかった。
その男の子の母親が、今目の前にいる。
他人事だったニュースが、急に身近に感じられた。
カンカンカンカン。
カンカンカンカン。
再び踏切が鳴り出す。
遮断機が下り、少しして電車が通過する。
舞い上がった小さなゴミが目に入り、僕は思わず目を閉じた。
少しして目を開ける。
ちょうど踏切が上がるところだった。
「あれ?」
女性がいなかった。
踏切の先にも、後ろにも。
そんな一瞬でいなくなることなんて、あるだろうか。
「…………」
僕は女性が立っていた所で両手を合わせ、目を閉じる。
事故に合われたお子さんを思う。
そして目を開けた時に気付いた。
踏切の下に、花と共に女性とお子さんが写った写真が飾られていることに。
カンカンカンカン、晩餐館。
……ではなく、踏切です。




