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踏切

掲載日:2026/09/07

 カンカンカンカン。

   カンカンカンカン。


 けたたましい音と共に2つの赤いランプが交互に点灯する。

 黄色と黒色の警告色。遮断機がゆっくりと下りてくる。

 僕の前に女性が1人立っていた。

 踏切が鳴り出す前から、ずっとそこに立っていた。

 風を切りながら電車が通過していく。

 女性の長い髪が通り過ぎる電車を追うようになびいている。


 カンカンカンカン。

   カンカンカン……。


 音が止まる。

 遮断機がゆっくりと上がる。

 止まっていた時が動き出すように、歩行者が、自転車が、車が動き出す。

 でも女性は動かなかった。

 体調が悪い?

 気になった僕は、恐る恐る女性に話しかける。


「大丈夫ですか? 具合悪かったりしますか?」


 女性がゆっくりと僕に顔を向けた。

 そしてまた踏切へと顔を向ける。


「ここで息子を亡くしたんです」


 周りの喧騒ひかき消されてしまいそうな程の、小さな声だった。


「今日がちょうど1周忌で」


 僕は返す言葉が浮かばなかった。

 女性の言葉は静かに続いていく。


「学校からの帰り道、ちょうど買い物に向かう私を見つけて。遮断機はもう下りていて。でもあの子は電車が通過するのを待てなくて……」


 ふと思い出す。

 昨年、テレビのニュースでやっていた。

 近くの踏切で小学生の男の子が電車に撥ねられた事故。

 近くで事故なんて怖いな、程度にしか感じていなかった。

 その男の子の母親が、今目の前にいる。

 他人事だったニュースが、急に身近に感じられた。


 カンカンカンカン。

   カンカンカンカン。


 再び踏切が鳴り出す。

 遮断機が下り、少しして電車が通過する。

 舞い上がった小さなゴミが目に入り、僕は思わず目を閉じた。

 少しして目を開ける。

 ちょうど踏切が上がるところだった。


「あれ?」


 女性がいなかった。

 踏切の先にも、後ろにも。

 そんな一瞬でいなくなることなんて、あるだろうか。


「…………」


 僕は女性が立っていた所で両手を合わせ、目を閉じる。

 事故に合われたお子さんを思う。

 そして目を開けた時に気付いた。

 踏切の下に、花と共に女性とお子さんが写った写真が飾られていることに。

カンカンカンカン、晩餐館。

……ではなく、踏切です。

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― 新着の感想 ―
読みました。小さなゴミが目に入る描写がやけにリアルで、 まるで本当にあった出来事のように感じれました。 日常に通り過ぎる街のいたるところで、誰かがきっと死んでいる。目を逸らすのは簡単だけれど、立ち止…
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