表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽聖女に捨てられた公爵令息ですが、神様に溺愛されているので全く困っていません  作者: 月代


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/10

第6話 王都の綻び


 ——同じ頃、王都。


 聖女アリシア・セレーヌの私室は、豪華を極めていた。天蓋付きの寝台、絹のカーテン、宝石をちりばめた調度品。聖女に与えられる質素な部屋では到底満足できず、王太子クラウスに頼んで王宮の一角を改装させたのだ。


「アリシア、困ったことが起きた」


 クラウスが部屋に入ってきた。その表情に余裕はない。


「まあ、殿下。ノックもなしに。淑女の部屋ですのに」


「それどころじゃない。南方の瘴気が浄化されたという報告が入った」


「……何ですって?」


 アリシアの手が止まった。鏡台の前で髪を梳いていた銀の櫛が、わずかに震えた。


「冒険者ギルドの報告だ。辺境の街レーヴェで、新人冒険者が瘴気の核を破壊したと。浄化の光まで目撃されている」


「浄化の光? わたくし以外にそんなことができる者がいるはずがありません」


「俺もそう思った。だが、複数の目撃証言がある。金色と白銀、二種類の光だったそうだ」


 アリシアは櫛を置き、鏡に映る自分の顔を見つめた。その目に冷たい光が宿る。


「……まさか」


「心当たりがあるのか」


「いえ。ただの推測です。——殿下、そのことはわたくしにお任せください」


「任せるって、何をする気だ」


「浄化の光を使える者がいるとすれば、それはエルティア信仰に関わること。つまり聖女であるわたくしの管轄です。調査いたしますわ」


 クラウスは渋い顔をしたが、結局は頷いた。アリシアに逆らえる者は、王家であっても少ない。聖女の権威は王権にすら並ぶ。


 クラウスが去った後、アリシアは一人になった部屋で手を握りしめた。


「シオン……まさかあなた……」


 彼を切り捨てた判断は正しかったはずだ。シオンの傍にいるのは窮屈だった。あの男から力を吸い上げる必要もなくなった。もう十分な力を蓄えたのだから。


 ——だが。


 アリシアは指先に黒紫の光を灯した。聖女の白い光ではない。邪神ヴォルドから与えられた闇の力。


「南に置いた瘴気の核が壊された。あれはわたくしの力の供給路の一つ。放ってはおけませんわね」


 窓の外を見やる。王都の空は晴れ渡っている。だがこの街の地下深くでは、アリシアが密かに設置した瘴気の種が、ゆっくりと育ちつつあった。


 王都が闇に覆われるのは、もう少し先の話だ。


 ——それまでに、邪魔な芽は摘んでおかなければ。


  ◇


 一方、レーヴェの街。


 瘴気の浄化を成し遂げたシオンとリーシャは、ギルドで英雄扱いされていた。


「いや、マジですげえよ兄ちゃん。あの森、A級冒険者でも尻込みしてたんだぞ」


 副長が信じられないという顔で報酬の入った袋を押しつけてきた。本来のC級報酬に加え、街の自治会からの特別謝礼まで付いている。


「リーシャの力が大きい。俺だけじゃ瘴気は消せなかった」


「いえ、わたしはシオンさんに助けてもらっただけで……」


「二人とも謙遜するなよ。おかげで森は元通り。東の街道も安全になる」


 副長に昼食を奢られた帰り道、リーシャが口を開いた。


「あの……シオンさん」


「ん」


「これから、どうするんですか。シオンさんは、王都を追い出されたんですよね」


「追い出されたというか、自分から出てきた形だけどな」


「わたしの村もまだ瘴気の被害が続いています。他にも、同じように困っている場所がたくさんあると思うんです。その……もし、よければ——」


「一緒に回るか」


「え?」


「同じこと考えてた。南方に瘴気が広がっている原因はまだわかっていない。アリシアが浄化をさぼっているのか、それとも意図的に広げているのか。どちらにしろ、放っておけない」


「シオンさん……」


「それに」


 シオンは足を止め、南の空を見上げた。


「リーシャ、お前の村も助けに行かないとな」


 リーシャの顔がぱっと明るくなった。


「はい! ありがとうございます!」


「礼を言うのは早い。これからしばらく野宿と戦いの日々だぞ」


「平気です。村で鍛えられましたから」


「頼もしいな」


 こうして、二人の旅が本格的に始まった。


 行く先々で瘴気を浄化し、魔物の被害から人々を救う。偽聖女に見捨てられた辺境の地に、小さな光が灯り始めていた。


 その光はまだ微かだったが——やがて、王都をも揺るがす大きなうねりとなることを、二人はまだ知らない。


『順調ですね、シオン』


 その夜、野営の焚き火を見つめるシオンに、エルティアが話しかけた。


 ——順調かどうかは知らないが、やることが見えてきた感覚はある。


『リーシャの力も目覚め始めています。あの子はとても筋がいい。あなたの傍にいることで、成長の速度が格段に上がっています』


 ——俺の傍にいると、か。アリシアの時は逆に力を抑え込まれていたのに、皮肉なものだ。


『シオン。一つだけ気をつけてほしいことがあります』


 ——何だ。


『偽聖女は、あなたたちの存在に気づき始めるでしょう。南の瘴気の核が破壊されたことで、こちらの動きを察知されたかもしれません』


 ——来るなら来い。


『それは頼もしい限りですが——あなただけの問題ではないのです。リーシャを、守ってあげてくださいね』


 シオンは焚き火の向こう側で寝息を立てているリーシャを見やった。旅の疲れで泥のように眠っている。


「……ああ。わかってる」


 小さくそう呟いて、シオンは剣を膝に置いたまま夜通し番をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ