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偽聖女に捨てられた公爵令息ですが、神様に溺愛されているので全く困っていません  作者: 月代


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第14話 偽聖女の末路


 アリシアが叫んだ。


「ヴォルド様! わたくしにお力を!」


 黒紫の光が爆発的に膨れ上がった。大広間の柱にひびが入り、天井から石片が降り注ぐ。


 ——邪神の力を直接引き出しているのか。


『気をつけて、シオン。アリシアは自らの体を器にしてヴォルドの力を召喚しようとしています。このままでは体が持たない——彼女自身も危険です』


 アリシアが両手から闇の奔流を放った。シオンは剣で弾き、リーシャは後方で市民たちに防護の光を張った。


「逃げてください! 出口の方へ!」


 テオドールが先導し、市民たちの避難誘導を行う。神官たちも駆けつけ、人々を外へ導いていった。


 大広間に残ったのは、シオンとリーシャ、そしてアリシア。


「どうして……どうしてわたくしの計画が……!」


 アリシアの叫びには、初めて動揺が滲んでいた。


「計画通りだったはずなのに……シオンを捨て、力を蓄え、王都を手中に収め……すべてが完璧だったのに……!」


「完璧なんかじゃなかった」


 シオンが静かに言った。


「お前は最初から間違えていたんだ、アリシア。人の力を奪い、人を踏み台にして、人を道具にした。そんなやり方が、いつまでも通用するわけがない」


「黙れッ! 凡人の分際でわたくしに説教するな!」


 アリシアが最大の闇を解き放った。大広間全体を飲み込む黒紫の津波。


「リーシャ!」


「はい!」


 二人が同時に力を放った。


 金色と白銀の光が融合し、闇の津波を正面から受け止めた。


 力が拮抗する。床が砕け、壁が崩れ、空気が軋む。


 だが——光が、少しずつ闇を押し返していた。


「なぜ……なぜわたくしの力が通じない……!」


「お前の力は借り物だからだ」


 シオンが一歩、前に踏み出した。


「俺の力は、エルティア様が俺自身に与えてくれたもの。リーシャの力も同じだ。自分の力で、自分の意思で戦っている。借り物の力じゃ、それには勝てない」


 さらに一歩。光が強まる。


「そして——お前は一人だ。味方を全部切り捨てて、誰も傍にいない。俺にはリーシャがいる。テオドール殿がいる。南方で助けた人たちがいる」


「そんなもの——そんなものが何の——」


「全部だよ」


 シオンが剣を振り上げた。


「これが俺たちの答えだ——!」


 金色と白銀の光が爆発的に収束し、一条の光となってアリシアに叩きつけられた。


 闇が砕けた。


 邪神ヴォルドの力が引き剥がされ、黒紫の光が霧散していく。アリシアの体から闇が抜け落ち、彼女の目が紫から元の色に戻った。


「あ——」


 力を失ったアリシアが、膝から崩れ落ちた。


 大広間に静寂が戻った。


 破壊された壁の隙間から、陽光が差し込む。


「わたくし……は……」


 アリシアが虚ろな目で自分の手を見つめた。邪神の力が去った今、彼女にはもう何の力もなかった。


「……嘘。嘘よ。わたくしの力が……わたくしの……」


「アリシア」


 クラウスの声だった。大広間の入り口に、騎士団と共にクラウスが立っていた。儀式の異変を聞きつけて駆けつけたのだろう。


 その目は、すべてを見ていた。アリシアの闇。瘴気。そして、偽聖女の真の姿。


「殿下……殿下、これは違うのです。わたくしは——」


「黙れ」


 クラウスの声は冷たかった。


「全部見た。全部聞いた。——お前は、最初から俺たちを騙していたのか」


「違……います……」


「騎士団。アリシア・セレーヌを拘束しろ。罪状は偽聖女の詐称、民への危害、王国への反逆。——追って沙汰を下す」


 騎士たちがアリシアの両腕を掴んだ。彼女はもう抵抗する力もなかった。


「いや……離して……わたくしは聖女……わたくしこそが……」


 引きずられていくアリシアの叫びが、廊下に反響した。


 シオンはその背中を見送った。


 怒りはなかった。憎しみも。ただ、一つの時代が終わったという、静かな実感だけがあった。


「シオンさん」


 リーシャが傍に来て、そっと袖を引いた。


「終わりましたね」


「ああ。——お疲れさま」


「シオンさんこそ」


 リーシャが微笑んだ。疲労の色は濃いが、その目は晴れ渡っていた。


 大広間の外では、市民たちが恐る恐る戻ってきていた。瘴気が消え、清浄な空気が戻った王都の空を見上げて、人々は歓声を上げ始めた。


「瘴気が消えた!」


「空が晴れた!」


「あの二人が救ってくれたんだ!」


 歓声が波のように広がっていく。シオンとリーシャの名を呼ぶ声が、王都全体に響き渡った。

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