第13話 決戦
大神殿の大広間は、市民で溢れていた。
聖女アリシアの大規模浄化の儀式。王都の安寧を祈る神聖な行事として告知され、貴族から庶民まで数千人が詰めかけている。
その最前列に、フードを目深に被ったリーシャがいた。テオドールが手配した神殿関係者用の席だ。
リーシャの心臓が早鐘を打つ。だが手は震えていなかった。
——大丈夫。シオンさんを信じる。わたしも自分の力を信じる。
壇上にアリシアが姿を現した。純白の聖衣を纏い、金の髪を靡かせる姿は、まさしく聖女そのものだった。群衆から歓声が上がる。
「聖女様!」
「どうかお救いください!」
「エルティア様の御名において——」
アリシアが両手を天に掲げた。白い光が溢れ出す。
その瞬間——
地下で、シオンが動いた。
封じられた祭壇の間。その中央に鎮座する巨大な黒水晶——南方で見たどの核よりも大きい。人の背丈ほどもある漆黒の結晶が、不気味に脈動していた。
「でかいな。だが——」
シオンは剣に全力の光を込めた。金色の輝きが地下の闇を切り裂く。
「これで終わりだ」
一閃。
黒水晶が真っ二つに割れた。
その瞬間、大広間のアリシアの体が痙攣した。
「なっ——!?」
彼女が放っていた白い光が揺らぎ、その中に隠されていた紫の闇が噴出した。白い光の仮面が剥がれ落ち、どす黒い瘴気が大広間に溢れ出す。
「きゃあああ!」
「な、何だこれは!」
「瘴気だ! 聖女様の光から瘴気が——!?」
群衆がパニックに陥った。悲鳴が上がり、人々が逃げ惑う。
「ば、馬鹿な……なぜ……核が……!」
アリシアが取り乱した。制御を失った瘴気が荒れ狂い、大広間を紫の闇が覆い始める。
その時。
「皆さん、伏せてください!」
最前列から、凛とした声が響いた。
リーシャがフードを脱ぎ捨て、両手を掲げた。白銀の光が——本物のエルティアの光が、彼女の全身から放たれた。
その光は、アリシアのものとは根本的に違っていた。温かく、清浄で、触れた者すべてに安らぎをもたらす。南方の旅で鍛え上げた浄化の力が、今、最大限に発揮された。
白銀の光が瘴気を飲み込んでいく。紫の闇が押し返され、浄化され、消えていく。
「あ……あの光……」
「聖女様の光とは違う……でも、温かい……」
「なんて綺麗な……」
市民たちが呆然と見上げた。それは、先代の聖女の時代を知る年配の者たちにとって、見覚えのある光だった。
「これは……先代の聖女様と同じ光じゃ……」
テオドールが壇上に立った。老いた声が、それでも大広間に響き渡った。
「皆、聞いてくれ! わたしは大神殿の神官長テオドールだ。三十年間、この神殿に仕えてきた。先代の聖女様の浄化の光を、この目で見てきた。——今、そこに立つ少女の光こそが本物だ! アリシアの光は、偽りだった!」
群衆がざわめいた。
「偽り……?」
「聖女様が偽物……?」
「黙りなさいッ!」
アリシアが叫んだ。もはや聖女の仮面を維持する余裕はなかった。
「わたくしが偽物ですって!? この小娘が本物だと!? ふざけないで!」
アリシアの目が完全に紫に染まった。人ならぬ力が彼女の体から溢れ出す。
「邪神ヴォルドの力を——!」
黒紫の稲妻がリーシャに向かって放たれた。
だが、それはリーシャに届かなかった。
地下から金色の閃光が床を突き破り、アリシアの攻撃を打ち消した。
瓦礫の中からシオンが姿を現した。剣を片手に、金色の光を全身に纏って。
「久しぶりだな、アリシア」
「シオン……! あなた——その力——」
「お前が俺から奪い続けていた力だよ。返してもらったぞ」
アリシアの顔が歪んだ。恐怖と、憎悪と、そして——焦り。
「ありえない……あなたは凡人のはず……わたくしが封じたはず……!」
「封印は解けた。俺はもう、お前に不要と言われた男じゃない」
シオンが剣を構えた。
「終わりにしよう、アリシア」




