10 翠氷泉、偽りの飛び込み
そばでおとなしく立っていたリディアは、レオンが私に向けた一瞬の緊張と不安も見逃さなかった。
彼女は愛らしく笑いながら数歩近づいてきて、雪のように白い羊の耳が陽の光にかすかに揺らめき、わざとらしい無邪気さをまとっていた。
「アリシア姫様」
彼女のその声は甘く柔らかく響いた。
「どうか殿下とお争いなさいませんよう。
殿下のお心には、いつだってお姫様がおいでになるのですから」
彼女は話の流れを変え、口調が「誠実」というより「犠牲的」とも言えるものになった。
「私、今日は特にアリシア姫様にお別れを言いに参りました。
これまでのことは全部私が悪かったのです。
姫様を不快にさせ、殿下との仲を壊してしまいまして。私はこれで去ります。
どうか姫様が殿下と仲良くお過ごしになり、この契約が無事でありますように。
私はどうなろうとも……本望です」
彼女はわざと「契約の無事を」という言葉を強く発音した。まるで私とレオンの間には、冷たい契約関係しか残っておらず、何の情もないと言わんばかりに。
レオンの眉がたちまちひそめられ、不満げな口調で言った。
「昨夜、俺はお前と約束したじゃないか!もう去るなんて言うなって!どうしてまた約束を破るんだ?」
リディアは瞬間的に顔色を変え、レオンに向かって、声を一気に張り上げ、悔しさと怒りに満ちて言った。
「行かないで?……じゃあ、私、ここにいてどうしろっていうの? 誰の邪魔にもならないように? 誰にも嫌われないように?今までもこうしたじゃない?結局責められているじゃない?!」
「殿下は姫様をなだめるため、ここ数日、私に冷たくあたるか会おうともしません!私の吐く息一つで、あなたの大切な姫様の機嫌を損ねるんじゃないかと恐れて!」
彼女はますます声高く、私に向かって、涙が止めどなく流れ落ち、天にも訴えるほどの屈折を受けたように。
「アリシア姫様が私を見ると不快になり、私が彼女の目を汚すと思うのなら、私は行きます!行けばいいでしょう!私はどうしてここでこんな侮辱を受けなければならないの!」
「あなたたちが高貴な王太子様、尊い姫様だからって、好き勝手に私の尊厳を傷つけ、呼びつけては追い返すことができると思うの?なぜなの?!私は死んでもこんな屈辱には耐えられない!」
言い終わらないうちに、彼女はいきなり背を向け、覚悟を決めたように、そばにある深く冷たく、霊力を吸い取る力を持つ翠氷泉に飛び込もうとした!
ちっ!?死ぬ気か?
私の目線が一瞬で冷たくなった。
だが、それだけじゃあるまい。この場で死ねば、私が死に追いやったと濡れ衣を着せられる…………!
彼女の足先が真っ黒の泉水に触れんとするまえに、私の手首がさっと動き、しなやかで抗いようのない魔力が瞬間的に迸り出て、見えない縄のように彼女を強く引き戻した!
同時に、私は手の甲で懲戒の意味を込めた、鋭く響く二発の平手打ちを食らわした!
「ビシッ!ビシッ!」
音は静寂な翠氷泉の辺りに反響し、ことさらに耳障りだった。
リディアは顔を横に向けて打たれ、頬は瞬間的に赤く腫れ上がり、信じられないというように目を見開いた。
「私は貴様と取り合うまでもないと思っていたのに、つけあがって、よくもまあ臭い芝居をしたものだ!」
私の声は冷たく、長く上位に立つ者の威圧を帯び、一歩一歩彼女に迫る。
「でたらめを並べた虚偽の訴え!誰が貴様を辱めた?どう辱めた?今日王太子の面前で、はっきり説明してみろ!」
私は彼女の瞬間的に青ざめた顔を見下ろし、目の中には嘲笑が満ちていた。
「貴様が日々口にする自由とは、好き勝手にでたらめを言い、他人の責任と尊厳を踏みにじることか?!」
「死にたい?」
私は冷笑を浮かべた。
「貴様の血で我が秘境の姫の清い名を汚し、我が白羊獣族の門戸を穢すつもりか?貴様にそんな資格があると思うな!」
「忘れるな、私もまた――」
リディアの目に怒りが噴出し、彼女は何かを叫びたいようだった。
「貴様が何だ?!分をわきまえろ!」
私は彼女のまだ口に出ていない言葉を怒声で遮り、目線は刃のようだった。
「リディア、貴様の自由とは、所詮貴様の利己主義の完璧な隠れ蓑に過ぎない!口の利き方に気をつけろ!」
リディアは顔を覆い、目の中の涙は怨念と狂気に取って代わられた。彼女は私をじっと睨みつけ、突然わずかな決絶で不気味な冷笑を浮かべた。
「よかろう!立派で高貴で聖潔な白羊族のお姫様よ!貴様が私を見下し、受け容れないのならば……それでは我ら共に……」
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