表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたくしが主人公ですわ!! 〜悪役令嬢に転生したけど本人の勘違いが止まらない!?〜  作者: ユルム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/10

騎士団長の息子、前を向く

 王城の訓練場の端。


 レオン・グランツは、何度目か分からない素振りをしていた。


 カン、カン、カン。


 木剣が空気を切る。


 腕が重い。

 息が荒い。

 手のひらはもう痛い。


 それでも止めない。止めたくない。


(……くそ。)


 剣を振る。また振る。


 だが──剣が手から滑り落ちた。


「……っ」


 悔しくて、奥歯を噛み、地面に落ちた木剣を睨む。


(なんでだよ。)


 父は王宮騎士団長だ。誰もが知っている英雄だ。戦えば負けなし。剣の腕は王国一。


 なのに───


(なんで俺はこんな弱いんだよ。)


 父の部下たちはよく言う。


「団長の息子なら強いだろう」


「将来は騎士団長だな」


 冗談半分、期待半分。

 でもレオンには分かっていた。


(無理だ。)


 父の背中は遠すぎる。

 どれだけ剣を振っても、どれだけ訓練を積もうと、追いつける気がしない。


「くそ……!」


 もう一度剣を拾う。振ろうとしたそのとき。


「こんにちは。」


 女の子の声だった。レオンはびくっと振り向く。


 そこに立っていたのは銀髪に赤い瞳の少女。そして、思い出す。令嬢は剣を見て怖がる人もいると、


(……やばっ)


レオンは慌てて剣を背中に隠した。


「えっ、あ、えっと……」


 口がうまく回らない。


「ご、ご令嬢……?」


 少女は落ち着いた声で言った。


「レティシア・ヴァルローズですわ。」


 レオンの頭が一瞬止まる。


(ヴァルローズ!?)


 それの名前は、


「公爵家の!?」


「ええ。」


 さらっと頷く。


 レオンは背筋を伸ばした。


「お、俺はレオン!」


 勢いよく名乗る。


「騎士団長の息子、レオン・グランツです!」


(うわ、俺汗だくじゃん。)


 今さら気づく。


 手は泥だらけで、髪もぐしゃぐしゃ。恥ずかしくて頭をかきたくなる。


「えっと……ここ危ないですよ。剣の練習してるし」


 少女――レティシアは気にした様子もない。


「お気になさらず。」


 その視線が地面を見た。


 足跡。

 削れた地面。


 レオンは気まずく笑う。


「……へへっ、見られてましたか?」


「ええ。」


「カッコ悪いですよね……」


 つい本音が出た。


 レティシアは何も言わない。

 レオンは木剣を軽く振る。


「俺、騎士団長の息子なのに……」


 少しだけ声が落ちる。


「全然強くないんです。親父はめちゃくちゃ強いのに。」


 自分でも情けないと思う。でも口から出てしまった。


 沈黙。


 レオンは少し後悔した。


(何言ってんだ俺。)


 貴族の、それも初対面の令嬢に愚痴とか。最悪だ。


 するとレティシアが言った。


「でも。」


 レオンは顔を上げる。


 彼女は地面を指さした。


「こんなに地面が削れるほど練習する人を、わたくしは知りません。」


 レオンは固まる。


「え?」


 レティシアは続ける。


「強いかどうかは分かりませんが。」


 赤い瞳がまっすぐこちらを見る。


「努力していることは、誰が見ても分かりますわ。」


 胸の奥が、少しだけ揺れた。


 レオンは思わず言った。


「……初めて言われました。」


「?」


「努力してるって。」


 苦笑する。


「みんな『団長の息子ならできて当然』って言うので。」


 それが当たり前だった。出来なければ落胆される。だから、努力なんて褒められない。


 でも、レティシアはさらりと言った。


「当然ではありませんわ!」


 レオンは目を瞬かせる。


「努力しているから出来るのです。」


 当たり前のことのように。けれど、誰も言わなかった言葉。胸の奥に溜まっていた何かが、すっと軽くなる。


「……そっか。」


 自然と笑っていた。


「ありがとうございます!」


 本当に、元気が出た。さっきまで重かった腕が、少し軽い。レオンは木剣を握る。


「俺、絶対強くなります!」


 口から言葉が飛び出した。レティシアは微笑む。その笑顔が、なんだかすごく綺麗で、レオンは少し慌てて言った。



「それで騎士になって、あなたとこの国を守ります!」


 ただ、将来王妃となり国を守るこの人とその国を守りたいと強く思った。



「楽しみにしておりますわ。」


 優雅に笑う。レオンは照れくさくて頭をかいた。やがてレティシアは庭園の方へ歩いていく。


 その背中を見送りながら、レオンは呟いた。


「……すげぇ人だな。」


 胸の奥が熱い。悔しさじゃない。前に進める感じ。レオンは剣を構える。


 さっきより力が入る。


(団長の息子とか関係ない。)


 俺は俺だ。剣を振る。


 カン。


 風を切る音が、さっきよりずっと心地よかった。


レオン・グランツ(レティシアと同い年)

グランツ家も貴族だが、騎士の家系のため社交界にはあまり顔を出さない。

父親が騎士団長。その事がコンプレックスとなっていた。

今はレティシアが支える国を守ることが目標

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ