主人公、攻略対象を振り返りますわ!
部屋の扉が勢いよく開く。
「レティシア!!」
最初に飛び込んできたのは父――ヴァルローズ公爵。普段は冷静沈着、王国でも屈指の切れ者と名高い人物である。
その後ろから、蒼白な顔の母。そして心配そうな兄。
「頭を強く打ったと聞いたぞ! 医師は!?」
「お加減はどう? 痛みはある?」
「どうしてベットから出ているんだ!まだ寝ていなさい!」
___ああ、なんて愛される主人公ポジション。
レティシアはゆっくりと微笑んだ。
「ご心配には及びませんわ。」
実際は前世の記憶が雪崩れ込んできたのだが、そんなことを言う必要はない。
(主人公は、余裕を失わないものよ。)
公爵はほっと息を吐きながらも、じっと娘を見つめた。
「本当に大丈夫なのだな?」
「ええ、お父様。」
むしろ、とレティシアは思う。
(わたくし、今とても重要なフラグを抱えておりますの。)
王太子との婚約。
学園入学。
攻略対象との出会い。
これから物語は始まるのだから。
家族が退室し、静かになった部屋でレティシアは改めて記憶を整理する。
「ええと……攻略対象は……」
まず、王太子。
金髪碧眼。誰にでも優しいキラキラ王子様キャラ
次に、騎士団長の息子。
赤髪でチャラ男キャラ。だけど、努力家。
それから、学園の首席。
柔和な笑顔だが、魔力量は歴代最高クラス。
「……主人公と攻略対象はどのように関わっていたかしら?」
思い出せない。
だが重要なのはそこではない。
(わたくしは王太子の婚約者。)
最初から最強ポジション。
好感度はおそらく高いはず。
つまり___
「イージーモードですわね?」
レティシアは自信満々に頷いた。
悪役令嬢が婚約者という設定だった気がしないでもないが。
しかし考えてみればおかしい。
王太子の婚約者が悪役?
そんな物語、バランスが悪いではないか。
「主人公が最初から恵まれていて何が悪いのかしら。」
うん、問題ない。
完全に主人公である。
ふと、鏡に映る自分を見つめる。
銀髪、赤い瞳。
威圧感すらある美貌。
……少し強そうだが。
「きっとクール系主人公ですわね。」
レティシアは満足げに微笑んだ。
そして机の上の王城からの手紙を手に取る。
1週間後_王太子との正式な顔合わせ。
(最初のイベントですわ。)
主人公らしく行動しなければ。
丁寧に。
上品に。
けれど自然体で。
「よろしい、攻略開始ですわ。」
まだ気づいていない。
この物語における本来の主人公は、平民出身の少女であることを。
そしてレティシアに待ち受けるのが__
“断罪イベント”という名の超高難易度ルートであることを。




