主人公、魔法を披露しますわ!
王城の庭園には穏やかな風が吹き、白いテーブルの上では紅茶が湯気を立てている。レティシアとアルベルトは向かい合って座っていた。
「そういえば、」
「はい?」
「レティの魔法は何属性なんだ?」
ここ「リリウムの光」の世界では、魔法は基本的に一人につき一つの属性。
火、水、風。
そしてごく稀に───光。
貴族の子供は生まれてすぐ魔力測定を行う。ヴァルローズ家の令嬢であるレティシアもすでに判明しているはずだ。
するとレティシアは少し胸を張った。
「火属性ですわ。」
「火か。」
アルベルトは素直に感心する。火は攻撃魔法に優れている。戦場でも重宝される属性だ。
「殿下は?」
「水だ。」
「まあ。」
レティシアは嬉しそうに頷いた。
「かっこいいですわね。」
「……そうか?」
「ええ。」
レティシアはうんうんと頷く。
「水の魔法は幅広く応用できますもの。」
その通りだ。水魔法は攻撃力では火に劣るが、応用が広い。氷を出したり、防御を行ったり、乾いた土地に雨を降らせたり。
水は民にとって必要なものであるため、王族が持つと非常に便利な属性だ。アルベルトは少しだけ照れた。
「レティの火も強いだろう。」
「ふふ。」
レティシアは笑う。そして、ふと遠くを見た。
(火、水、風。)
乙女ゲームの定番三元素。
(そして───光。)
少し不思議に思う。光魔法なんて主人公が持つ特別な力として定番なのに。わたくしは光魔法は使えないのですが…?
(…でも、光属性のキャラがゲームで登場していた気がしますわ。)
たしか、そのキャラは女の子だった気が…。わたくしは光魔法は使えず、光魔法を使える女の子がいる。
つまり───
(わたくしの親友キャラですわね。もしくはライバル。)
レティシアは真剣に頷いた。アルベルトは不思議そうに見ている。
「どうした?」
「いいえ。」
レティシアはにこりと笑った。
「ただ思っただけですわ。」
「?」
「もし光の魔法を持つ人が現れたら__」
少し間を置いて言う。
「それは、"ありふれた話の主人公ポジション”ですわ。」
アルベルトは瞬きをした。
「主人公?」
「ええ。」
レティシアは得意げに語る。
「珍しい力。特別な存在。周囲から守られる立場。」
指を一本立てる。
「つまり、ヒロイン属性。」
「……?」
アルベルトの理解は追いついていない。それでもレティシアは続けた。
「ですが問題ありませんわ。」
「なにが?」
「火属性の主人公も、十分ありえますもの。」
拳を軽く握る。
「炎のヒロイン。やっぱりクール系ヒロインもありだと思いますの。」
アルベルトは数秒沈黙した。
(ヒロイン……?)
何の話をしているのか分からない。しかし、レティシアはすごく真剣だ。アルベルトはとりあえず頷いた。
「……そうだな。」
「でしょう?」
レティシアは満足げに微笑む。そしてふと聞いた。
「アルは水魔法、もう使えるのですか?」
「少しなら。」
アルベルトはテーブルの横に置かれていた水差しを見た。指を軽く動かす。すると水差しの水がふわりと浮いき、透明な球のようになって空中に漂う。
レティシアの目が輝く。
「まあ!」
水球がゆっくり回る。アルベルトは少し得意そうだった。
「まだ簡単な操作だけだ。」
「すごいですわ!」
レティシアは身を乗り出す。完全に子供の顔だ。
「氷にもできますの?」
「できる。」
アルベルトが指を鳴らすと、水球が一瞬で氷になり、きらきらと光を反射する。
「きれい……」
レティシアは感動していた。そしてふと思う。
(これはイベントですわね。)
乙女ゲームにはよくある。魔法披露イベント。
つまり、
(次は主人公であるわたくしの番。)
レティシアは立ち上がった。
「では次はわたくしですわ。」
「レティ?」
レティシアは庭の空いた場所に向かう。手を前に出し、集中。
(火属性。)
魔力を集める。ぽっと小さな火球が灯る。レティシアは満足げに笑った。
「どうです?」
アルベルトは目を丸くした。
「……すごい。」
それは本心だった。初めて魔法を扱う子供の火としては、かなり安定している。
だが次の瞬間。火が、ぼわっ!!と大きくなった。
「レティ!?」
「……あら?」
炎が思ったより大きい。しかも風にあおられて広がる。
「ちょっと待ってくださいまし。」
レティシアは慌てて手を振る。しかし火は消えない。
「レティ!!」
アルベルトが水魔法を放つ。
ばしゃっ!!
炎は一瞬で消え、庭は静かになる。レティシアの髪が少しだけ焦げていた。
沈黙。アルベルトが言う。
「……大丈夫か?」
レティシアは少し考え、真剣に言った。
「火属性主人公、制御難易度が高いですわね。」
「主人公はよく分からないが、そういう問題じゃないと思う。」
アルベルトは真顔で言った。
(これはイベント成功、かしら?。)
火。水。
協力してピンチを乗り越える。
(好感度イベントその2ですわね。)
レティシアは満足そうに笑った。一方アルベルトは思っていた。
(レティは、しっかりしているように見えて危なっかしいな。)
そして少しだけ。楽しそうでもあった。




