第三章「報復の始まり」第一節
リビングで勉強している湊の背中に、都は体当たりをする。生活をしていく中で、閉ざした都の心を開かすのは大変だった。
話をして、一緒に絵本を読んで、同じ布団で寝る夜も多かった。血のつながりがなくても家族みたいだった。
二人の間に絆ができていった。やがて、都も湊に対して笑顔を見せてくれた。今日みたいに、甘えてくるようになった。
都が懐いてくれている。湊にも達成感とやりきった感があった。さらには、都がなついてきたことに優越感を抱いていた。
独占したい気持ちをグッと抑える。
「都、待ってね」
湊の宿題が終わったタイミングだった。片付けてから、明日の時間割をする。春休みも終わって、明日から学校だった。小学校に通わてもえるだけ、マシな方だった。
湊はおいで、と両手を広げた。湊は勢いよく飛び込んできた体を受け止める。
ーー温かい。
湊にも体温が伝わってきた。六歳の子供にしては小さい体を抱きしめた。 すり寄ってくる姿は、思わず子猫や子犬を連想させる。
都は視線があうと、にっこりと笑った。笑顔は憂いをおびていて、切なさを感じる。 湊からみた都は、消えてなくなってしまいそうだった。
嫌な予感がする笑顔だった。 都の心からの笑顔を湊は見たかった。
言い難い不安がよぎる。
悟られないために、湊は抱きしめている腕の力を強くする。 何事かを湊を見上げた。湊は奈美と同じ薄紫色の瞳を細める。
外国人の親子みたいね、と言われている色彩を、湊は気に入っていた。
「苦しいよ」
湊の腕をバシバシとたたいた。
「ごめん」
彼は都を抱きしめている腕の力を抜いた。
「変な湊さん」
「なぁ、都」
「湊さん?」
「僕を湊兄さんと呼んでみてくれないか?」
「湊さん」
「湊兄さん」
「湊……兄さん」
湊はくすぐったい気持ちになった。ごまかすために、彼は都の柔らかい頬をつねる。湊はつねっていた頬を解放した。 遠慮しなくてもいい。 湊はそう言いたいらしい。
すでにひらがなや漢字も書けていると聞いていた。教える内容もなかった。デザインズ・ベイビーの知力の高さを表していた。
「勉強は楽しい?」
「楽しいよ。僕は好きだな」
「ーー都」
「はぁい?」
「また、勉強しようね」
「うん。約束」
「約束だからな」
湊と都はゆびきりをした。




