「居場所の選択」第二節
「よかった。目が覚めたのね」
リビングに足を踏み入れると、女性が声をかけてきた。女性は黒の長袖シャツとジーンズのいでたちだった。
女の子は花柄の長袖とジーンズである。漆黒の髪と瞳は瓜二つで二人は、親子なのだと証明されていた。
「助けてくれてありがとうございました」
都は頭をさげる。
「時間はあるかしら? あなたと話がしたいの」 「何でしょうか?」
「君、帰る家はあるの?」
肩に手をおく。 嫌がって、体を強張らせた。隆に受けた心の傷は、簡単には消えない。体と心に残っている。都は体を震わせ、肩においてある手をはずす。瞳には警戒の色が浮かんでいる。 都は二人を見た。
「あなたたちには、関係ないでしょう?」
「私たちと一緒に暮らさない? あなたが帰りたいと思う日が来るまでいていいのよ」
「何者か分からない子供を、引き取るおつもりですか?」
「会ったのも何かの縁だわ。悪い話ではないでしょう?」
「母親の相田美波よ」
「わたしは、相田美和!六歳」
都の前に出るとはい!と手をあげて、元気よく自己紹介をする。はつらつさがあって、都にはない六歳の元気さがあった。
都とは正反対な性格だった。
自己紹介をされた時点で、逃げられなくなってしまった。二人はニコニコした笑顔で、都を見つめている。 どこにも行かないよね? そう言われているみたいだった。
関わるまいと思ったが、都はしばらく考えた。内容からしても、悪い話ではない。むしろ、一般家庭に紛れてしまえば、身を隠しやすくなる。研究所も一般家庭に紛れているとは、思ってもいない。疑いの目も緩む。
自分にとって好都合だった。
「原田都。君と同い年」
都は口を開いた。
「決まりね。早速、動くわよ」
「思いを裏切るかもしれませんよ?」
「お礼をきちんと言える子だしね」
「今日から私がお姉ちゃんよ!お姉ちゃんと呼んでね!」
ため息をついて、案内をしている美和のあとを追った。都からして、その後の美波の行動は早かった。自分の世話するのに、有給を取ると連絡しているのを聞いていた。都たちをおいて、買い物に行って来るわねと鍵をかけ出て行った。
「分からなかったら、気軽に聞いて。仲良くしようね」
「僕は家族ごっこをするつもりはない」
はっきりと、線引きをするつもりでいた。線を超えて歩かせる気はなかった。ここから、先は誰も立ち入らせる予定はなかった。土足で踏み込まれせるつもりはないのである。
しょせん人は孤独な生き物だ。
誰かを頼よらなければ、生きていけないなんて、誰が決めたのだろうか。
都みたいに 一人で生きている人もいるのに、おかしな話しだった。
都の視界に一枚の男性の写真が、視界に入った。そういえばいるのは、美和と美波だけで父親がいる気配はない。
そうだとしても、もっと家族写真があってもいいはずである。家族として遠方にいるにしても、現在はスマートフォンのビデオ通話がある。
普通ならそれで、都を紹介するはずである。理由はたった一つだけで、家には父親がいないのだ。それを、隠している様子もなかった。
「この写真、相田さんのお父さん?」
「そうよ。わたしのパパ」
質問に美和は、無邪気に答える。悲しみとかは感じられなかった。
「病気か何かで?」
「うん。私が生まれてすぐに病気で。ねぇ、都」
いきなり、呼び捨てにされて、都は眉をひそめる。興味津々の態度にそのまま、数歩後ろに下がった。
「何?」
温度のない冷たい声が出た。冷たい声にもめげずに、グイグイと押してくる。
幼さ故の行動と無遠慮さがあった。都にとって、心理的にも負担になっていた。
「ねぇ、わたしのことは、美和と呼んでくれないかな?わたしも都と呼ぶから」
都は眉をひそめる。
「君、美和だっけ? 僕に同情でもするつもり?」
「違うわ! わたしはあなたと仲良くなりたくて!」
「同情なんていらない。ほおっておいてくれ」
「ーーそれは」
「答えられないのなら、理由にならないな」
二人の間に沈黙が落ちた。




