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「未来へ」第二節

 午後五時半。夕方なのに太陽の照り返しも強かった。そんな中で、最後になる物語も動きだそうとしていた。


 部活帰りの美和は、二人の男女が自宅を、見上げているのを目撃した。絵に描いた美男美女である。近隣住民も見とれて通っていた。


 次の瞬間――二人と、目があった。特に男性の方は色彩も違うのに、都の面影を重ねてしまった。

都の家族なのだとピンときた。


 預かっている物でもあるのかもしれない。二人にピリピリとした威圧感はない。空気も柔らかくて悪い印象はなかった。


美和にとってそんな第一印象だった。二人の前に立っ。


「あなたが相田美和さんね」

「自己紹介をしなくても、僕たちが来た理由、正体を察しているみたいだね」


「相田君から手紙を預かっているの。確かめてみてくれる?」


 美和は鈴から手紙を受け取った。

 相田美和様

   美波様


  封筒には都の奇麗な字が並んでいる。普段と変わらない字だった。


「間違いありません都の字です」

「渡すのが遅くなってごめん。無事に渡せてよかったわ」


「十河さんは分かります。山口鈴さんはどうして?」

「あなたに会って話をしてみたかった。相田君が心を開いた人と話してみたかったの」


「それと、君に会ったらいいたくてね」

「私に?」


 何を言われるのだろうかと、美和は緊張で体を強張らせた。


「わがままな都を愛してくれてありがとう。真剣に向き合ってくれて感謝をしているよ」

「わたしたちはあなたの味方よ。何かある時には、すぐに駆け付けるわ」


「聞いてもいいですか? 都の遺骨は?」

「海にまいたわ。勝手なマネをしてごめんなさい」


「いいえ。都も疲れていると思います。都の傷が癒されるのなら、私は何も言いません」


 自分だって都の「家族」だ。二人だけに責任を負わすわけにはいかない。彼らとなら、険しい道でも歩いていける。


 協力できる。


 美和は未来のために、関係を築いていく決心をした。意思を固めた。美和の振り切れた表情に、鈴と湊は安心した。


「相田さん。私たちはね――」

「デザインズ・ベイビーと人間がともに、歩める場所を目標としている」


  美和には若き次世代のエースとして、期待をしている気持ちがヒシヒシと伝わってきた。


「相田さんには私たちのサポートをしてほしいの」 「やってくれないかな?」

「やります。やらせてください――私は都のために、代わっていく日本を見届けます」


  美和は二人の目を見返した。

 漆黒の瞳は輝いている。


  どうやら、興味をもったらしい。


「ありがとう」

「精一杯やるだけです」


「湊。そろそろ、行かないと。まだ、大学の講義が残っているでしょう?」

「そうだね」


「慣れないだろうし、迎えにくるわ。最初はゆっくりでいいからね」


 三人はラインの交換をする。都の遺骨をまいた海も教えてもらった。 これで、いつでも、都に会いに行ける。


「よろしくお願いします」


  美和は遠ざかっていくオートバイを見送った。


「美和。お客さんかしら?」

「今、都の家族と会ったわ。原田さんたちのサポートをしてほしいと言われたの」


「美和はどうしたい?」

「私はやりたい。『私たちのやれることを、やった方がいいわ』とお母さんは言ったよね?」


「迷う時もあると思うわ。その時は、いつでも相談に乗るから頑張って」


  美和はそれと、手紙を渡されたのと美波に渡す。


「お母さん?」

「都は私たちを家族だと思ってくれていたのね」


 ただいま、と都が言える家庭だったのだと、美波も美和も胸を張っていける。自信にもなっていた。

 


「都が?」

「ええ。驚いたでしょう?」


「都が私たちを家族と認めてくれたの?」

「そうよ。都の気持ちは手紙に書いてあるわ」


「私も読んでいいかな?」

「当たり前よ。あなたも都の家族でしょう?」


「お母さん。私は都の姉でよかった」

「私も都の母親でよかった」


「私たちは幸せ者ね」

「そうね。私は都の手紙を読むね」


「部屋でゆっくり読めばいいわ」


 美和は部屋に入った。

 手紙を広げる。

 

 美和 美波さんへ


  手紙が二人の手に届く頃には、僕はいないと思う 最近、不器用ながらに思う

 あなたたちと家族で幸せだった


 十河教授が僕を生み出さなければ、二人には出会えなかった

 

 会えなかった

 愛情を知らないままだった


  始めは諦めていた命だった

 


  実の母親と死ねばよかったのに、生まれてこなければよかったのにと、思っていた


  二人の思いやりが嬉しかった

 救われた

 

 生きる意味を知った。

 

 相田家での生活は忘れないよ

  忘れたくないよ

 あなたたちとの日々は、一生の宝物になると思う


 今だから、言える。

 あなたたちと家族で本当によかった。


 どうか、元気で。

 ありがとう


相田都


 美和は都の手紙に、涙を拭った。都の本心と本音が書かれていた。


 じわり、と心があったかくなった。


 家族として愛してくれていて、生きた証として残っている。都が生きていた証を、本として記録していくのもよかった。


  手紙を写真立て入れた。


 ――泣くのは最後にしよう。

 

 メソメソばかりはしていられない。


  ――笑顔でいないとね。

 ーー約束する。


 ーー私は都の分まで生きる。  

  ――いずれ、結婚をして子供ができた時に、あなたの話ができると嬉しいな。


  ――都みたいにかっこいい人がいたんだよ、と言い聞かせたい。

 ――自慢したい。


 ――しわくちゃのおばあちゃんにあるまで、見守っていてね。


 美和は部屋の窓を開けて、空を見上げた。遠くに入道雲が浮かんでいる。夏の青空がどこまでも広がっていた。



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