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「断罪」第二節

 午後の七時。日も沈もうとしている時間でもあった。茶色の髪が夕日で、金色に輝く。湊は破れた窓から、孝の様子を見湊は破れた窓から、孝の様子を見つめていた。


 孝は存在に気付いていないみたいだった。立場上、冷静に見極める必要があった。


 とはいっても、これ以上、見るに見かねない。

 扉に手をかけた。

 

 かたり、と扉を開けて中に入った。

 

「逃げきれると思いましたか?」


 湊の存在を認知して、ものすごい勢いで振り返る。


「どうして、お前が?」


 孝は動揺していた。それはですね、あなたのポケットに発信機をつけさせてもらいました、とスマートフォンを取り出した。画面には赤い点――現在の地図と場所が示されていた。


「見つからないとでも思いましたか?」


  湊は笑う。 笑顔は冷たく孝でさえも身震いをした。


「お前には私の血が流れている、私に縛られている限り、居場所はない」

「そうでしょうか?」


「何だと?」

「教授の言葉をそっくりお返しします」


 湊と孝の間にバチバチと火花が散る。


「自信がありそうだな?」

「いずれ、分かります」


「お前は奈美と都と同じで、私を苛立たせる」 「僕を殺すつもりですか? 殺しても何も変わりませんよ? 都と母さんを殺したのも立派な殺人です」


「何だ! 何がしたい! 何が望みだ!」


 湊に対して拳を振り上げた。拳を受け止めて、力を入れて押し上げる。勢いのまま孝の腕を捻り上げた。湊にしては痛い! 暴力だ! と騒ぐ孝の声は、雑音でしかない。


 喉にナイフを突き立ててやりたい。腕をきつく握りしめたままダンッ! と足を踏み鳴らして威嚇をした。湊のあまりの圧力に、孝はびくりと体を震わせた。


『十河さん。落ち着いてください。手を出すのは止めましょう。あなたが負けを認める行動になってしまいます』


  騒動が聞こえていたのか、湊がつけているイヤホンマイクから穏やかな警察官の声が流れてきた。


 感情はスッと引いていく。

 それがなければ、暴走していた。


「止めてくれて助かりました」

『でも、十河さんも人間なんですね』


「人間でなければ、僕は何なのでしょうか? 超能力者とでも言いたいのですか?」

『申し訳ない。言葉不足でしたね。聞いてください。十河さんの弟さんもお母様も強い人だったと思います。

お母様と弟さん。二人分の家族の絆を――強さを、十河教授に見せつけてやりましょう』



「家族としての証明、か。やはり、あなたに資料を託す決心をしたのは間違いではなかった。感謝します」


  湊は掴んでいた孝の腕から手を離した。自己防衛だったとはいえ、触ってしまった。触れただけなのに、鳥肌が立つ。



 本能と体が拒否をしていた。


『まずは、十河教授との戦いを終わらせてください。十河さんを見捨てるつもりはありません。一緒に恨みを晴らしましょう』


  警察官との会話を終了する。一度だけ、手伝ってくれた理由を問いかけた時があった。


 退職が近いおじさんの余計なお世話だと、許しておくれと笑って答えてくれた。彼みたいに穏やかで、威厳がある人間になりたい。 話が逸れて途切れてしまった。 元に戻そうかと再び孝と向き合った。


「何が望みか、でしたよね? そうですね。まずは、僕の前からいなくなってもらいましょう。目障りです」

「お前に何ができる!」


 湊は呆れてため息をついた。

 息を吸って音量をあげる。


 言葉を返していく。

 孝を追い詰めていく。


 制圧したたみかけるために一歩前に出た。


「逆に聞きましょうか? 全てを取り上げられた教授に、何ができますか?」

「私は! 私は! 日本の未来のために!」


「未来を作るのは教授ではない。彼らだって、希望を捨てたわけではなかった」


 この場の支配者としてーー責任者として立ち続けていた。


「ーーまさか」


「そのまさかです。全部、奪われた者の気持ちを聞いてみましょうか?」

「よくも邪魔を! 悪魔だ! 血も涙もない悪魔だ! 都と奈美のせいだな! いいように、使われているのだろう! そうだろう!」


「違います。いずれ、自分に返ってくると、僕は言いましたよね? あなたには罰を受けてもらいます」


 湊は孝がしてきたみたいに、内面を踏みにじったのだ。


「都と奈美に関しては私が悪かった! だから、許してくれ!」


 湊は孝の絶望に染まった顔を、見たかった。絶望した顔を見ていい気味だと思った。


 今日の瞬間を待っていた。ずっと、ずっと、待ち望んでいた。奈美と都、孤児とはいえたくさんの子供たちを殺し続けてきたのである。


 報復を考えていた日から、孝とは血のつながりはない赤の他人となった。


  二度と会うつもりはない。


「どこまでも、みすぼらしい男ですね。」

「謝っているだろう! なぜ、許してくれない! 家族だろう! 私がいなければ、お前たちは生きてはいない!」


「止めてください。都合のよい時だけ、家族だと言わないでください。不愉快です。さようなら」


その場がライトで照らし出された。邪魔にならないために、数歩後ろへと下がる。


 孝が警察官に囲まれた。


「午後七時五十分。十河孝。十河――いや、相田都君、十河奈美さんの殺害及び山口鈴さんへの性的虐待、銃刀法違反で逮捕する」


 逮捕状が広げられて、容疑が読み上げられていく。少し距離をおいていた湊にも、しっかりとした口調だったために、耳に入っていた。孝の手に手錠がかけられるのが見える。


――終わったよ、都。

――見ていたか?


――希望通りに教授を倒したよ。


 都に呼びかけた。

  今頃、奈美と会えているだろうか。


 寝っ転がって、星空を見上げる。


 都会では見られない奇麗な星空だった。キラキラと星が輝いている。


 星空に心が浄化されていく。

 湊は名前を呼ばれ汚れを払って立ち上がる。


 ――なぁ、都。

 ――お前は今、幸せか?  


 ーー求めている理想郷ユートピアはそこにあるのか?


 湊は都に心の中で、問いかけた。  

 ごぅと強い風が吹く。


 反射的に目を閉じる。


 やがて、風は通り過ぎていく。


 ――ありがとう。

 ――湊兄さん。


 ――僕は叶えられそうで、今、幸せだよ。

 

 風にのって都の声が聞こえた気がした。





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