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第十三章「断罪」第一節

 孝は某市にある山奥の中を、草木かき分けて歩いていた。クモの巣を振り払う。住民を捕まえて山奥に、使われていない家はないかと聞いたら、あるよと場所を教えてくれた。


 もちろん、髪は自分で切って染めて、伊達メガネをかけて変装はしていた。市のスーパーにも行って、食料や生活に必要な物を買い込んだ。 


 ーーもうすぐだ。

 ーーもうすぐ着く。


 目の前が開けた。


  家は立っている。 ボロくても、使えそうではあった。家の中に入ると、適当に荷物を置いた。 ランプを点ける。


 ーーまだだ。 

 ーーまだ、終わったわけではない。 

 

 ーー私はこれからだ。


 ーー巻き返しできる。


 テーブルの上の誇りを払うと、貪るかのごとく食べて水を飲む。食べた物トレイを床に落とすと、地図を広げた。



 孝が辿り着いた某市は、水が豊かだった。半導体工場や野菜、米などの農業も盛んだった。デザインズ・ベイビーの工場を作るには、最適な場所ではある。


 調べ尽くして知っていた。だからこそ、この某市を選んだ。


  ーー見ておけよ。

 ーー私は必ず、復活してみせる。


 袋から買ったペンとコピー用紙を、取り出す。数式を書き出した。第一世代の鈴を作り出したのだ。その研究内容を思い出しながら、ペンを走らせる。 きりのいいところで、手を止めた。腕時計を見る。


 真夜中の二時。


 山奥だし誰も来ないだろう。 少しぐらい休んでもバチは当たらない。テーブルの上に突っ伏せた。孝の視界はスイッチが入ったみたいに映り変わっていく。先ほどまで、誰も使っていない家にいたはずだ。


 ーーここはどこだ?

 ーー私は。


 周囲を見渡す。

 見渡す先に、ステージがあった。


 何が始まるのだろうか。

 誰が立つのだろうか。


 理解できないまま考える前に、手足が動き始めた。


 自分の意思とは違い、勝手に手足が動く。ろくな抵抗できずに、ステージの上に立った。どこからか、スポットライトが点灯する。


 すると、操られたように、孝の足が勝手に動き始めた。踏ん張ろうとしても、止まらない。


 その舞台にいるのは孝一人だけだ。糸に吊るされた人形みたいに回り続ける。体は激しく拒否をしているのに、動き続ける。


 惨めで仕方がなかった。


 ーー私たちはピエロは、精神世界の中で作られた存在だ。


 突き刺さってくる視線と、告げられた機械的な声には振り返った。ピエロの格好をしていて、男なのか女なのかも区別できない。 孝の視界には異質に映った。


 ーー誰の仕業が知らないが、私が何をしても悪くはない!


 精一杯威嚇をした。


 ーー反省はなしか。

 ーー少し先の未来を、見せてやるよ。


 ピエロは孝の額に指を置いた。

 その場がカッと照らされていく。


 リポーターがマイクを持って立っている。


『遺伝子操作の権威と言われていた十河孝容疑者に関しては、容疑が固まり次第殺人罪と未成年への強姦罪、銃刀法違反の容疑で逮捕となる見通しとなりーー』


 ニュース映像が切り替わる。市民にインタビューをしている光景である。その光景を強制的に見せられていた。

 

 意識は光景に飲み込れていく。


 都内・Cさん、二十代、男性の話。

 遺伝子操作の研究は、日本のためになると思っていました。 実は善人の皮を被った悪人だったなんて。

 俺は完全に流されていました。


 今度からは、ちゃんと自分の目で見て話を聞いて、頭の中で何が正しいのかを考えたいと思います。


 都内・Bさん、三十代、女性の話。

私にも同い年の子どももいるし、母親もまだ若い。 同情はするよね。


 でもね、今回のことで子どもを含めて、いつもより たくさん話せて、絆が深まった気がする。


某市内・Dさん、十代、女性。

家族と一緒に暮らせている私は、幸せなのだと思います。 家族は私の中で大切な存在なのだと、改めて実感しました。


 デザインズ・ベイビーに関しても、まずは小さなことでもいいから、行動をしてみようと思います。


 第三者の声なんて聞きたくない。ふさぎたくても耳に残る。聞かされるのは綺麗事ばかりの内容ばかりだった。


 視線を逸らそうとしても、強制的に見せ続けられる。インタビューから、場面は次へと切り替わる。


 映像に追いかけられる。


 コンクリートの無機質な壁に囲まれている。そこは、刑務所だった。独房に入って、手足は鎖で拘束されている。


 虚ろで瞳に力はない。ずっと、奈美と都、湊、鈴のせいだ、あいつらがいなければと、ブツブツと呟いている。成れ果てた姿を見せられて、ピエロに嫌悪感が湧いてきた。



 ーー信じない!

 ーー誰が信じるか!


 ーー私は死なない!


 ーー信じないのなら、それでいいだろう。


 孝は急に踊りと記憶から解放された。膝からドサリと崩れ落ちる。続いて、どこからともなく、パンパンと銃声が響いた。血が流れる。傷のある場所は都や奈美が、受けた場所でもあった。


 ただ、何と重なるかまでは分からない。

 はっ、はっと荒い呼吸をする。


 痛さにのたうち回った。体の震えも止まらない。 急激に体温が低下していく。全身に鳥肌が立った。


意識が混濁していった。


 ーーこれぐらいで、痛がって意識を失いかけるなんて情けない。


 生きるために、手を伸ばした。受け止める人は誰もいない。むなしく空をきった。耐えきれず意識を手放しそうになったその時ーー精神世界の中の世界も、途切れ途切れになっていく。


 ーーさぁ、現実に戻る時間だ。

 

 孝は鳥の泣き声で目覚めた。じっとりと背中にかいている汗が、夢ではないとはっきりしていた。まずは、生きているのかどうかを確かめる。銃で撃たれた形跡も 痛みもない。


  体も自由に動く。


 孝の目は血走っていた。机の上にあるランプを、床に叩きつけた。パリンと音を立てて、ガラスは割れ点いていた灯りは点滅して消える。 もう、今は何時とか関係ない。


 時間の感覚も狂っている。

 日付けの感覚もない。


 このまま、突っ走ればいいだけだ。


 ーー続き……研究の続きして、都や鈴よりも上のデザインズ・ベイビー完成させなければ。

 ーーそれが、私の使命だ。


 孝は再びペンを手に取った。

 

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