表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/31

「帰郷」第二節

 午後一時十分。実験装置が可動する音だけの静かな空間だった。第二世代を誕生させるための数値はかなり低い。


 ーーまた、失敗か。


 いすにもたれかかって、舌打ちをした。


 暑い、暑い夏の日の昼下がりだった。機器の関係でエアコンはつけっぱなしで、カーテンを閉めていてもそれでも暑い。


 暑さで苛立ちを隠せなかった。


 読んでいた書類を机に投げた。 内容が頭に入ってこない。連なる文字に飽きてしまっていた。


 すると、研究員たちから悲鳴が聞こえて来た。見る限りの数字の羅列で、パソコンの画面が埋め尽くされていく。研究所内にあるパソコン全部だった。雑音が流れて画面が切り替わった。


『十河都がそちらに向かっている。十河孝。あなたには、罰が下されて、崩壊への始まりとなるだろう』


  流れてきたのは、無機質な音声だった。性別すら分からない。プツリ、とパソコンの電源が切れて、何も映さず真っ暗になる。都がたどり着くまで、時間はかからない。


 もう来なくていいぞ、と研究員たちを突き放した。


******


 午後一時二十五分。研究室前の廊下の点灯はチカチカと点滅をしていた。耳を済ませても機械の音は聞こえず、人のいる気配もない。


 一呼吸してから突入した。


 都に孝は銃口を向けた。 かなり、焦っているのが目に見える。都は焦りで孝の指先が、みっともないぐらい揺れているのを見た。


「面白いほど、弱い人ですね」


 鼻で笑った。 他の人には見せない冷たい表情だった。銃口を向いていても、平然としている。武器すら持たず、静かに立っているだけだ。


『人を殺さないで』


 心の中にあるのは、美波との約束だった。約束を破らないためにも、都は孝に反撃をしなかった。反撃をしてしまえば、勢いで殺してしまう可能性もある。精神世界に呼び寄せて、じわじわと精神的にいたぶるつもりでいた。


「私を頃ないのか? 憎いのだろう?」

「湊兄さんや山口鈴をなめて、痛い目に合うのは教授です。二人なら、世間を味方につけて、いい方向へと導いてくれると信じています」


「死ぬだけのお前に、何ができる? 強がっているだけだろう?」

「勘違いをしないでください。僕は強がっているわけではありません」


 都は意思を曲げようとせずに、背中を伸ばして真っ直ぐ立っている。丁寧に育てた花ではない。大輪の花とは違って、野原に咲き誇る力強い花を連想させる。


 奈美がまいてくれた種だった。都が咲かせたのだ。母さん、ありがとうと呟く。これで、『自分』が『自分』らしくいられる。

 

 都が出した選択に後悔はなかった。

 

「都」


  都の名前を猫なで声で呼んだ。 まだ、利用価値はあると思われている。


 ――教授は何も変わらない。

 ――変わろうとはしない。


 立てた城の壊れていく様を、目の当たりにすればよかった。指を食わせて見ていろと、と思った。


 役割は終わったのである。孝の研究所も分析が完了次第、取り壊されるはずだ。あとは、湊たちにバトンタッチする予定だった。


「名前を呼ぶな。呼んでいいのは、湊兄さん、美和、お母さん、美波さんだけです」

「話は平行線だな残念だ」


「僕と教授の間に絆なんてなかった。僕は教授を父親だとは認めません」


「私も同じだ」


 都は真っ直ぐ前を見続けた。


 ーーあとは頼んだよ。

 ーー湊兄さん、山口鈴。


 後悔はなかった。


 銃声が響く。

 都はゆっくりと目を閉じた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ