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「告白」第二節

「僕の父親は十河孝。それだけは、変わらない事実だ」

「気づいていたわ」


「私も」

「知っていたのですか?」


 自分を責めようとはせずに、相田家の人たちは家族として迎え入れた。都が反発する態度をとっているにも関わらず、普通に接してくれた。都が被っていた仮面は、簡単に剥がれ落ちていく。


 美和と美波の前では、仮面を被る必要はなかったのだと実感をした。つけていた仮面を外す。心の奥底にあった棘も消えていた。


 都の負けだった。


 偽りのない「素」の自分をさらけ出す。都の本来のあるべき姿に戻っただけだ。 生身の「都」である。 自分を一人の「人」として見てくれた。間れた。二人の懐の広さに、都の中で確かな尊敬の念があった。


「あなたの口から事実を聞きたかったのよ。話してくれる日を待っていたの」

「もっと、早くに話すべきでしたね」


「ごめんなさい。あなたの心が壊れないか心配だったの。都が背負っているつらさを、少しでも軽くしたかったの」


今度は都が本音で、応えなければならない。応えて恩返しができるのなら、生きているうちに言っておきたかった。


「あなたたちを家族として好きだよ」と言葉にしたかった。言わずに中途半端な気持ちのまま去るなんてできなかった。「家族」と言ってくれているのなら尚更である。

 

 都にとって相田家はゆっくりと、時間をかけて、心地よい場所になっていった。


「違う。僕が逃げているだけです。二人は悪くはない」


  都の話を聞いていく。

 少しずつ話をしてくれた。


「あなたの残りの家族には、何があったの? 母親は?」

「母親は父親の部下に殺されました。兄と慕っている人物は、いきているかどうか不明なままです」


「過去と向き合おうとしている。都は強いわ。教授に会いに行くつもりでいるのね」 「デザインズ・ベイビーの試作品として、使われた体はもう、もたないでしょう」


  研究所は閉鎖されて、続かないのは目に見えている。気持ちの整理をするために、孝との決着をつけたかった。湊が生きているとするならば、鈴と一緒にとどめをさしてくれるはずだ。

 

 殺さず――傷つけずとも、奪われる喪失感を孝が味わえばいいだろう。今回は間違った孝の正義を、正すための審判でもあった。


 一人だと力は小さいかもしれない。大きくなれば波はうねって、何倍の力にもなる。 死が迫っても怖くはない。


  二人と過ごした日々の記憶は宝物だった。


「それでも、会いに行くのね?」

「父親に会いに行くのも、今回を逃すと二度と会えなくなります」


  都の意思は固かった。


「都から話が聞けてよかった。都は都の思いのまま行動をしてみなさい。でも、一つだけ約束をしてほしいの」

「約束、ですか?」


「人を殺さないで」

「私たちなら大丈夫よ」


「お母さん」


  初めて美波をお母さんと呼んだ。都の精一杯の愛情表現だった。離れていても家族だと証明したかった。絶望していた都を、拾い上げてくれた。手を差し伸べてくれたのである。


 闇を走り続けた都は、最終的には美波と美和の手を取った。 闇ではなくて光の道を選んだ。 心を蝕んでいた闇は、完全に消滅していた。


 都はようやく「家族」になれたのだと証明できた。


「都。私、家族として都が好きよ」


  都は柔らかくていい表情をしていた。ホッとした表情をしている様子が見てとれる。都も同い年の子供と、同じ表情をするのだと知る。あどけなさを残した表情だった。


 本来もっている優しさが垣間見えた。都は真っ直ぐに二人を見つめる。 二人も見つめ返してきた。


「僕も家族として好きだよ。『お姉ちゃん』『お母さん』」


  ありったけの都の返事は、美和と美波の胸に突き刺さった。思いが詰まった返答だった。都にはその返答に、美和と美波の表情が和らいでいるみたいに見えた。



「いってらっしゃい」


 別れを言うつもりはない。


「いってきます」


都の姿を二人は見届けた。

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