表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day2】学習の日(3)日没:講義、議論
91/95

【day2】(3)-[3]-(2)

 理解はしたけど釈然としない――そんな声色で独り言のようにアサギは呟く。リオンは「つくづくアサギ――のような性質の者――には、こういう()()()()()()()()()()とした『原理』がピンと来ないのだな」と苦笑を浮かべた。

 ぱくっと団子を口にした後で、アサギはギンに首を傾げてみせた。

「じゃあ、その最低限の義務を()()()()()()()()、周囲が『愚者』であるせいで報われないことがある、というのは、どういうことなんですか?」

「それは、二つのケースが考えられるね」

 ギンが人差し指と中指を立て、「二」を示した。

「まあ、二つと云っても――アプローチかな、それが少し違うだけで、『権力者が地位を失う理由』としては一つに集約されるだろうけど。すなわち、『求心力(カリスマ)の低下』――そう表現すると権力者の側に問題があってのことに思われるのに、権力者由来ではなく、権力を行使される側、群れの構成員の側が『愚者』であることに由来する……っていう、何だか不思議な、ね――」

 アサギが首を傾げる。ギンは二本のうち人差し指を残して「一」を表し「まず一つ目」と云った。

「最低限の義務が『外敵に対して最前線で立ち向かうこと』だとすると――裏返せば、()()()()()()()()()()、権力者の義務を果たしているのかどうか、実際に分からない」

「……あ」

 アサギが目をぱちぱちとさせる。

「強いが故に、『この権力者が居る限り群れは安泰』だと思わせなきゃいけない、実際に構成員も思っている――けど、()()()()()()()()()()()()()()()()……その()()がある程度の年月無ければ、『本当にそうなんだろうか』と、どうしても不安――それは()()――が頭をもたげてしまう」

「え、ええ……そうかもしれませんね」

「結局は、『普段、群れの構成員だけが痛い目を見ているではないか』、そんな気分の方が増してくる。『単に()()()()()()()()()、この権力者が実際には外敵に立ち向かえない強さだったら、どうなるんだろう?』『この権力者に権力を持たせていて本当に大丈夫なんだろうか』、そういう……疑心暗鬼みたいなものが、()()()()()()()生まれてしまうジレンマを抱えてるんだな、この群れは。――実際に『外敵』の側も――それは野生動物のこともあるだろうし()()()()のこともあるだろう――、その群れの権力者が相当強いことを知っているからこそ襲わない、ってことなのかもしれないのにね。権力者の方にはその資格――『強さ』と『責任の自覚』が、ちゃんと備わっているのに、構成員の方がそれを()()()()()()()()()という意味で、求心力の低下」

 そう云うとギンは、続きを云う前に碗を手に取り、底に残っているスープと崩れて小さくなった芋を纏めてスプーンに掬い、ぱくっとくわえて飲み込んだ。ふーっと息を吐いて、「ご馳走様」と云ってから、「二つ目」と指を立てる。

 ギンが碗の中身を空にしたので、アサギとリオンも少々慌てた風情でスプーンを使う。それを見てギンが微苦笑を浮かべた。二人を急かすつもりではなかったのだが……。

 ギンは口を噤み、二人が碗を空にするのを待つことにした。

 碗を口元まで持っていきスープを流し込んだリオンが、それをテーブルに置きつつプハーっと息を吐いて「ごっそさん」と云い、アサギも、最後の一口のスープをスプーンから啜った後で、「ご馳走様でした」と云った後、説明を求めるような目をギンに見せた。

 だが、ギンは直ぐに先を続けること無く、緩く腰を浮かせる。

「……(ボウル)を下げてからにしようか」

 そう云い、顎をしゃくる仕草を見せて食器を下げるためのカウンターコーナーを指し、そちらに向かって歩き出した。

 グルッと食堂を見回すと、ちらほらと人の姿は見えるが、食事のための食器を自分の前に置いている者は全く居ない。食器を戻すコーナーには少々年配の――アサギやリオンから見ると祖母くらいの――食堂担当の女性が居て、此方を気にしている風である。

 尤もだ、とアサギとリオンは納得し、少々慌てた風情で(トレイ)を抱え、ギンの後を追った。


 食事の時間――朝昼夕の提供時間を過ぎると、「食堂」は魔術士隊棟の「談話室」のようになる。ギン達以外に食堂に居る人物――魔術士達も、水やお茶を片手に何事か語り合っているようだった――少々行儀が悪いが聞き耳を立ててみると、殆どは会議の感想、そこから引き続いて「特殊対策本部」についての討論らしい――〈魔術士〉隊員である自分達は、具体的にこの状況下に於いて何をすべきなのか、自分にだったら何が出来るんだろうか、領主(タオ)は自分達に何を求めているだろうか……そんなことを提案し合ったり想像したりしているようだ。

「二つ目は、一つ目よりも()()()、『愚者であること』に由来してくる。権力者が権力――この場合、『腕力』という方法の強制力を()()行使するのかが()()()()()()()愚者」

 ギン達もそれぞれ新しく茶を補給して席に戻る。椅子に座って一口お茶を飲んでから、ギンが再び指で「二」を示しつつ云った。

「それは、どういう意味ッスか」

 とリオンがギンに訊ねてから、グビッとお茶を飲む。――「腕力」を「権力の証」とする〝シンプル〟な方法について、ギンの云いたいことがある程度理解出来ていたらしいリオンも、今の彼の言葉は直ぐにピンと来なかったようだ。

「『強制力』を行使する()()は、『腕っ節だけ』のタイプでも変わらないんだよ。()()()()()()()()()()()()だ。それはつまり、権力者が権力を顕わにするのは群れの秩序が乱れかけている時、ということ。ならば、群れの内部で権力者が強制力としての『腕っ節』を見せざるを得ない『対象』は、()()()()()()()()()()だ」

「ああ……、うん」

 そうか成る程、とリオンが大きく頷いてから、「でもそれって」とギンに向かって少し身を乗り出した。

「『愚者』が理由だって云うんなら、条件というか、前置きが要るね。その権力者が権力を行使するのは、()()()()()()っていう」

「そうだね」

 ギンもリオンに向かって大きく頷いて見せた。――相変わらず、アサギが「ええっと」と助けを求めるような目をどちらにともなく向けている。

 リオンは大体分かっているようだから、ギンはアサギの方へ視線を向けて続ける。

「群れの秩序が乱れかけたとき、()()()()に対して『権力』が発動する――『腕力』が使われるっていうところまでは、アサギ君、伝わってる?」

「あ、はい……」

「僕が今云ったのは、『愚者にはそれが理解できない』ってことなんだよ。『自分が』秩序を乱したから――まあ、殴られた――蹴られるんでも噛まれるんでも何でも良いんだけど――ってことを、()()()受け入れられない、愚者」

 ギンがそう云うと、アサギは、コップに口を付けてから、まだ首を傾げた。

「自分に暴力が振るわれるのが判ってて、粛々と受け入れられる者も居ないと思いますけど……」

 するとギンが苦笑して手を振った。

「ああ、表現が不味かったな、そうじゃなくて。一度その『腕っ節』を見せられたら、その後、群れの秩序を乱すような行為をしないんなら、それは()()()()受け入れたってことになる。そういう意味さ。――愚者は、それが『解ってない』から、痛い目を見たとき『クソウ』としか思わない。『でもこの権力者が居る限り群れは安泰』だと()()()()……『群れの安泰を外敵でなく内部の自分が壊しかけた』という()()が出来てない。だから、群れを乱す行為を()()()()。その可能性がある」

「……」

「そういう愚者は、群れの秩序を乱さないこと――云い替えれば『公・共(コミユニティ)』の安寧よりも、『私』『己』の快感や不快感の方が先に立つから、『群れの秩序を著しく乱した』ことに対する()()()()よりも、『自分が痛い目を見た』ことに対する不快感や怒りの方が強い。反省しないから、また己だけの快感や利益を求めて痛い目を見る――すると当然、()()()()()()()が増していく」

「要は逆恨みだな」

 ギンの後に引き続き、リオンがアサギに顔を向けて云う。

「ただ、それを『逆恨み』って云うためには、権力者の方は()()()()()()()()()()から、普段『腕っ節』見せる場面は限られてなきゃいけない。そういうことだよ、『前置き』ってのは。『よっぽどの時』にだけ強制力が行使されるっていう、群れの、全てとは云わなくても殆どの者が納得出来るような判断、()()が無いとさ――()()()()()()()()したくらいで()()()()()()手が出るような奴が権力者だったら、そっちの方がもう解りやすく『暴君』に寄りすぎてて、群れのメンバーの方が()()()だもん、『愚者』の『逆恨み』とは云えないだろ」

「――そういうことですか」

 アサギはそこで「解りました」と頷いた後、「それで?」というふうに首を傾げた。ギンが続ける。

「そういう感じの、()()()()()()()愚者が、ごく一部、少数であれば、権力者が()()()()を下すより前に、他のメンバーから追放されたりするかもね。そういう群れは恐らく、強さの違いで『権力の序列』があるだろうから、最高権力者の判断より前に〝弱者よりは強者〟が、それこそ『貴方(トップ)が出る幕じゃない』って感じで小さな判断と権力の行使をしてもいるだろう。しかし、そうした愚者がある程度の数揃ってしまうと……そこに加えて、先に云った『平穏であるからこその疑心暗鬼』が生まれた状態に群れがなってしまったら、()()()()()が権力者への叛意になる可能性がある――もしかすると、()()()()()()()()()()()()()()()()生まれる『利己的な愚者』ってのもあって、それでなし崩しになってくってこともあるかなあ――。利己的であるが故に権力者を恨む愚者、権力者が権力の証である強さを持っているからこそ生まれる愚者――権力者が義務を果たしているにも関わらず、()()()()()が権力者の追放を考えるようになってしまう。大きな矛盾だね」

「……」

「しかし、群れの総意すら跳ね返すほど、その権力者の『腕っ節』が物凄かったら、権力者は自分の群れの構成員を全滅させることになってしまう。それはそれで、『群れの消失』だ」

 アサギはそれを聞いて、寂しそうに……あるいは不快そうに眉を寄せた。ギンは苦笑して軽く肩を竦めた。

()()()――そもそも『腕っ節』を強制力の手段とすること、極めて動物的で解りやすい、シンプルなその方法は、『人間』に()()()()()()んじゃないかってことなんだよ、アサギ君。僕はそれで、『そうした()()は、原初から考えると一度絶えているのではないか』って云ったんだ」

「ああ……! はい、解りました、そういうことだったんですか」

 再びアサギはこくこくと頷く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ