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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day2】学習の日(2)午後:会議、傍聴(見学)
79/95

【day2】(2)-[5]-(5)

「政務経験を考えず、純粋に魔術的属性のみで考慮すれば、ディナム様を〈土〉と考え、〈火〉のマルス・サンハル様が入られても同様に良い均衡が望めるのですが――」

「それはいかんよ、マッカン君。あくまで『領主代理』を決めようとしておるのだ、あの()()()()は候補に入れちゃいかん」

 ディナムが大げさに顔をしかめて首を振る。――柵の内側でフーコーが

「サンハルさん、とことん信用が無いわね。――それとも、ディナム翁の『過保護』?」

 とからかう声でサンハルに耳打ちをしていた。サンハルは苦笑して、

「前者に決まってるだろう。こんな()()()()の孫を()()()()()()が猫可愛がりしてどうする。気色悪い」

 そう云って小さく肩を竦める。それからニヤッと口の端を歪め、

「それを云ったら君はどうなんだ、アエラ。テラ=テール御大もウィリアムさんも、君を心配してるんじゃないのか」

「……頼りないから『心配』、って意味でしょうよ」

 サンハルがそう云うと、フーコーは「ふん」と口を尖らせた。

 そうした声は議場内には聞こえていない筈だが、タオも微苦笑を浮かべ、ちらりと柵の方に目をやってから云った。

「今云うと、やっぱり『ずるいぞ』と云われそうだが。マッカン殿、サンハルを代行の候補に挙げられたくない理由は私にもあるんだ。――『〈火〉のマスターであるサンハル』には『特殊対策本部』の側を意識していて欲しいのでね。それで、元帥職と魔術士隊長をそのままにして、軍総司令官の代理も彼でなくテリーインに命じた」

「……ああ、そういうことでしたか」

 その理由は、「研究者」として納得出来るものだったらしく、マッカンは素直に頷いた。……が、タオの云うとおり、議場内には「だったら最初からそう云ってくれれば」という顔が見える――そうしたら、ディナムから「間接的に」叱責を受けることは無かったのに、という軽い愚痴の表現だ――。

「そうなりますと、やはり――」

 マッカンは「中部地方の島」に一度目をやり、

「失礼ながら、バーナード様の他には居られない……と云って良いでしょう。ペイジ・アーグ様御本人でも悪くはないのですが――」

 そう云って「民間の島」にも目を向けたが、アーグは「いやいや」と手を振り、タオも「それはちょっと不味いね」と首を振った。マッカンもそれは分かっているというふうに頷く。

「アーグさんも〈火〉のマスターであり、政務経験もあるが、たった今、民間団体の現職として居るのだからね……」

 タオが確認するように云うと、アーグも大きく頷いた。

「兼任出来る職ではありませんし、明後日までに退職なんてのは不可能ですから、私には無理です。その点でも()()()()()は適任かと思われます」

 アーグはバーナードの方に顔を向けて、ほんの微かだが苦々しい口調で云った。バーナードは彼と目を合わせて軽く肩を竦める。――その呼び方からしても、アーグとバーナードは普段から気心が知れた間柄らしい。

 そこでだめ押しと云うように「東部地方」からも手が上がった。

「東アルクス町長代理、オリヴィア・チーフ・ライネン殿、どうぞ」

 ディナム翁の斜め後ろに座っていた年輩の女性をタオが指した。とても品の良い大人しそうな老婦人だが、黒い長衣(ローブ)を纏っているところからして彼女も高い自負を持つ〈魔術士〉なのだろう。まるで()()()()()()()()()()()「魔法使いのおばあさん」である。

「結局こういう流れになりましたので、――()()()()()()が自分で云わぬ以上、あたくしから〝アルクス〟の多数意見の方を申し上げますねぇ」

 ……マイクを通して聞こえてきた声は、掠れているが高くて()()()()()、やはり人の良さそうな素朴なものだった――リオンは、子供の頃に可愛がってくれた親方の内儀……「水飴のおばちゃん」と呼んでいたおばあさんとそっくりの声だったので少し驚いていた――。

「東方の代表としてディナム()()が出てくれるのは、大変有り難いお話でございますんですよ。なので、あたくしとしてもそこに異議はありゃしませんの。ただね、東アルクス(うち)にも〝あれ〟が出た以上、()()()()()()誰か一人でも、領主代理とまでいかんでも、本部(おしろ)に連絡要員を置かして貰いたいところだったんですよ。――それがまあ、あんた、ショーちゃん本人が領主代理ってんなら、アルクス(こちら)としても有り難い話なんですよ。ショーちゃん、あんたね、マッカンさんみたいな()()()から、あんたしか居ないなんて云われてんだよ。冥利じゃないかえ、肝据えな、最後の甲斐性見せてご覧よ」

「最後とか云うなや、口の悪い婆様じゃな」

 何とも――会議場の空気が途端に緩む。オリヴィア刀自の言い回しは、明らかに政治的会議上のものでない、()()()()で年寄りが少しばかりグレた子供に説教する時と同じようなものだった。

 そして、直接言葉を投げかけられた「ショーちゃん」――バーナードは、大げさに眉を寄せて口を尖らせる。その後でバツの悪そうな顔をした――オリヴィアとバーナードの年齢はそこまで離れていないのだが――。

 タオが苦笑し、

「オリヴィアさんも、『特殊対策本部』の側――を意識した上で〈魔術〉の要素も重視し、〈土〉のマスターたるバーナードさんを推す、と、そう思って良いんですね? 〝東〟というより〝アルクス〟の総意として、それで纏まっていると。後はバーナードさん()()の意向だけ、ですか」

 そう確認すると、オリヴィアは「仰る通りでござんす」と頷いた。

「とは云え、『筋』が出てんのは東アルクス(うち)だけでもありませんから、そんなごり押しすんのもアレですけどねえ。()()()()()とかは、どうなの?」

 オリヴィアが振り返ってそう云う――「ポーラ市国」はサウザー領の北方である、視線の方向はルナール公国大使が座っている場所とほぼ同じだった。

 タオもオリヴィアにつられる形で其方に目を向けると、ポーラ市国の大使は軽く手と首を振った。が、一応声に出して云った方が良いと思ったのか、挙手をして発言を求める。

 ポーラ市国大使は、

「北方からはルナール大公(ラ・ルナーラ)が既に入られてますし、〈魔術〉の点では……、〈火〉または〈土〉の〈マスター〉である政務経験者となりますと、残念ながら、この場で直ぐに名前を上げられるほど、我が国には人材がありませんで――。少なくともポーラ市国と致しましては、ショート・バーナード閣下が領主代理に入られることへ、異議はありません。――ただ、ライネン様が仰せのように、『特殊対策本部』の方では改めて、現在魔術士隊に派遣されている者とは別に人員を加えさせて頂きたいと考えておりますが」

 頷きながらそう云った。

「ふむ……」

 タオが髭を扱いて鼻を鳴らし、ちらりとバーナードに目を向ける。――明らかに流れはバーナードを推す方向に向かっている。「あ~あ」という顔をしているバーナードに、タオは薄く笑みを見せた。

「――バーナードさんが代行に入ってバランスが取れれば、魔術(そっち)の点でも、マッカンさんは『調整者』として上手く機能しそうだな」

「あ、はあ――ええ、それはそうかもしれません。実践者ではありませんから何のお役にも立てませんが、研究者として客観的な立場では居られます」

 ふと、タオが「思いついた」という口調でマッカンに云うと、彼はパチパチと瞬きをして肯んじた。「何の役にも立たない」というのは本人からしたら謙遜でもなく、実際そうであることを確認のつもりで口にしただけなのだが、タオは「そういうことを云わない」と苦笑しながら手を振った。

「『客観的な立場で居られる者』として()()()()と云ってるんだから。――で、バーナードさん、どうなんですかね」

 タオは苦笑のままの顔をバーナードへ向けた。

「マッカン殿が、ディナム翁だけでは不味いと仰った。師匠(ディナム)が居るから自分が出張る必要は無かろう、という理屈は、完全にお門違いだってことですな。――かといって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、〈火〉か〈土〉のマスターが望ましい。ただ、東アルクスに『筋』が出ていることを考えれば、サウザー領中部地方というだけでなく〝アルクス〟からの代表が出てくれると、確かに『特殊対策本部』にとっても都合が良い――バーナードさん、中部地方から、というより〝中アルクス〟から、明後日までに本部へ来訪と待機が可能な、貴方に代わる〈火〉あるいは〈土〉の、出来たら男性の〈マスター〉を推薦出来ますか? 地元から他に名前は挙がらなかったので?」

 表情を薄笑いに変えてタオが云うと、バーナードよりも先にその周辺の()()()()達が、「いやいや、居らん居らん」と手や首を振っている。「居るなら儂も云うたわいな」とミーツ翁が苦笑して呟いた。

 大げさにバーナードは溜息をつき、

「推薦出来るんなら、もう先にやっとるですよ。――分かりました、年を取って、世間から忘れられるよりも求められることの方が幸せだと、納得しましょう」

「では、了承して頂けるので?」

「捨て台詞として私からの条件も聞いて貰いましょうかね、――ディナム翁が仰った……、サヴァナとフリュスからのお客人がお出での際は、私にも声を掛けて頂きましょうか。特にサヴァナからのお客人とは、長めの()()時間と、()()出来る時間も作って頂きたい」

「――承知しました」

 ふっと笑ってタオは頷き、バーナードは「宜しくね」と云いながら腰を下ろした。

 モニタ越しにそのやりとりを見ていたリオンが、そちらに目を向けたまま

「バーナードさんって、酒、強いッスか」

 と不意にギンへ訊いた。

「……さあ、そういうのはプライベートだから、そこまで僕は知らないけど。いちいちあんなこと云うってことは、好きなのは好きなんだろうね」

 ギンが苦笑して小首を傾げ、リオンは彼に顔を向けて「に」と笑った。

「忠告しときますけど、〝サヴァナの客人〟とバーナードさんの()()、かなり厳しいスケジュールにした方が良いっすよ」

「――サヴァナの人って、そんなにお酒好きなの?」

「バーナードさんは領主代理になるんでしょ、そっちの業務に支障が出かねませんよ」

「……。そりゃ困るね。誰か、総務の人に云っておくよ」

 ふふっ、と笑った後、大げさにギンは眉を寄せてそんなことを云った。


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