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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day2】学習の日(2)午後:会議、傍聴(見学)
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【day2】(2)-[5]-(2)

 ふむ……、と鼻を鳴らし、タオが何か考える顔をして髭を扱く間を作ると、別の場所からも手が挙がった。

 視線がそちらに集中する。手を挙げたのは、ヴァネッサ達と同じエリアに座っていた壮年の男性だ。タオが手を差し出して発言を促した。南部魔術士ギルドの代表である。

「我々と致しましても、ツゥリー・マッカン殿を推薦致します」

 そう云うと、ヴァネッサを含む数人が「うんうん」と頷いている。イムファルと同様――いや、イムファルのように「本部」勤務でない以上、知名度の点ではそんなに高くないと思われるのに――〝ツゥリー・マッカン〟は〈魔術〉を志す者にとって重要な名前らしい。

「成る程。云われてみれば充分納得出来る、マッカン殿が最適だと主張出来る根拠だな。民間から見ても異論は無い訳か。――しかし、大使本人は、難色を示しているようだが」

 苦笑しつつタオが云うとマッカンは、項垂れるように曲げていた首をやっと延ばして彼に目を向け、同じく苦笑を見せた。

「大統領の命令書とタオ領主の命令書の二つが揃うことがあれば、それを拒否出来るほどの理由は私自身にございません。ルナール大公へタオ様が最初に仰ったそうですが、最終的にはタオ様のご決断にお任せして良いとのお言葉に甘え、かつ、大統領の申した通り、大使兼任で代行末席という扱いにして頂けますならば、承ります。承った以上は、渋々でなく、ユピタ=バルム国民、サウザー領民として恥じることの無いよう、精一杯務めさせて頂きます」

「ふむ。私もそれが良いと思う。が、まだ他の地方の意見が出ていないしな、――それにマッカンさん、大統領と私の命令書が二つ揃えば、と仰ったが、貴方はご家族とのお話し合いも必要ではないか? 一応、明後日までをタイムリミットとしたのだから、会議の後()()()、ご家族も城へ入ることにするか、それとも貴方が城へ単身赴任ということにするか、ご相談なさい」

 タオが大げさに、「喫緊の事案」とでも云いたそうな真剣な顔をして云う。するとマッカンは苦笑のまま、

「……妻と子が代理への就任自体に大反対するようでしたら、私には辞退の理由があるということになるのですか?」

「ご家族にも大統領と私の命令書を発給すべきか? それとも、貴方の代わりとなる方を『推薦』出来るかね?」

 タオが真面目な顔を維持したままそう云うと、マッカンは表情を変えずに首を振る。

「その必要はありません。妻も恐らく今、中継を見ていることでしょう。彼女は私には過ぎたほど聡明で機敏な方です、既に今後のことを考えているはずですから」

 ――政治的会議の最中、随分とのろけてくれることである。タオは微笑を浮かべて頷き、

「そうか。では、この場で一旦私が『南部』の意見を受け取った、ということにしよう――さて」

 マッカンと「南部地方」の代表が集まった一角へそう云った後、それから議場内を見渡した。……そして再び、一点に視線を止める。タオはにやっと笑って、

「ディナム師匠? シンキ先王陛下。現職の大使殿が兼任で、末席扱いを望みながらも代行という重責を、()()ではあっても承って下さいましたよ。――貴方のように、()()()()()()『国主』である経験が豊富で、〈マスター〉でもある、ついでに隠居しているが故に()()()()が、断る根拠などありますか」

 サンハルは――他にも年配者は何人か――「ククッ」と笑っていたが、議場内や中継モニタ前では「ひえっ」と云うふうに息を飲んだり身を竦ませたりする者が居た。

 ディナムは目を細めて、まず()()()()

「……タオよ、君も少しは、ウィリアムのような論術を勉強したらどうかね」

 そう云った。――云われたタオは平然とした顔で「そろそろ時間が勿体ないものですからね」と嘯いた。

 ディナムが溜息をついてから、

「儂にも二三(にさん)、条件があるのだが」

 と落ち着いた声で云った。

「何でしょう」

「まず、本国の離宮にて儂の世話をしてくれている執事(バトラー)と主治医を呼び寄せたい。これは先ほど、本国(シンキ)から出された条件でもある」

「それは勿論、承ります」

 タオは表情を引き締め、こくりと大きく頷いた。

「次――。儂が領主代理を務めるとなるならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()こともある、――ということを、タオ(そなた)に納得しておいて貰いたい」

「――」

 議場内が「えっ」と云うふうに一瞬静まりかえった後、少々ざわめいた。――タオとサンハルは「ふっ」と笑っている。

 ルナールとマッカンは、「最終決断をタオに求めても良い」との()()()()()()、領主代行の任を承ることになったが、ディナムは再び、それと逆のことを云った。

 無論――()()()()()()()、そのくらいで居てくれた方が良いのだ。ディナムは、王制国家のあるじを経験した者として――()()()()()を云ったのである。

 タオが口角を上げつつ、

「しかし、完全に領主一人に求められるような書類へのサインは私のものじゃないと無効になりますよ。――師匠のサインを完全に有効にするためには、まだ後、それこそ臨時に適用できる法を整備しませんと」

 つまり、自分が納得出来ない決断を下すようなら、本来の領主たる己は了承(サイン)出来ない――、責任を師匠(あなた)に負わせられない、そういう意味だ。

 するとそこでディナムも薄く笑い、

「その時はその時で、()()()すれば良いだけの話じゃろう」

「……その通りですな」

 タオは口元に拳を当て、再びくくっと喉が鳴りそうになるのを堪えながらそう云った。

 ふうっと息を吐いてから、ディナムが表情を平静に戻して云う。

「まあ、勿論――儂やシンキが、この時とばかりに『サウザー領』全土の支配権を握ろうと企んでいる、なんてつもりもないのだ。そなたが『特殊対策本部』の職に忙殺されておるとか、政務(こちら)のほうこそ退っ引きならない緊急事態に陥った時だとか、そういった場合に『領主』が――代理が決断を迫られたなら、の話だよ」

「それは有り難い話です。――そういったケースを想定すると、若者には冷静な判断が難しいこともありましょうから」

 タオが柵の内側、特にルナールの方をちらっと見て云うと、そうだ、と云うふうにディナムが頷いた。

「……条件はそれだけですか、二三と申されましたが、『二』のほうでしたか」

 タオが問うと、ディナムは少し何か考える顔をして、「もう一つ」と首を振った。

「領主代行として出来うる限り務めるが、『特殊対策本部』の状況は儂にも()()()()。また、イムファル教授やマッカン殿の他、本部研究機関の教授や魔術士との議論の時間を、儂に確保せよ。サヴァナやフリュスからの客人がお越しの際には、儂にも面会させよ」

「……『もう一つ』の中で幾つ云うんですか」

 タオが呆れたように笑う。――ディナムは完全に、「師匠」としての顔で「弟子」に対して命令形を使っていた。

「承ります。ただし、『時間の確保』の点については、後ほどお越しの主治医の方とも相談させて頂き、本部総務部のスケジュール編成に任せて頂きますよ」

「良いだろう」

「では、シンキ先王陛下も、一旦、『東方』の候補として宜しいですね――、となれば」

 ディナム翁の周辺、「東方」の出席者が安堵した表情で頷くのを見て、タオは再び議場全体に目を向けた。

「東西南北それぞれの地方から、また、性別としても男女二名ずつ――と、一応バランスの取れた状態になったが……、諸君、異論は無いのかな」

 タオが全体にそう訊くと、拍手が挙がった。だが、それほど大音量――満場一致という意志が伝わる量ではない。一旦確定扱いとなったマッカンに至っては、何だか渋面を作っている――このまま今の四名で確定することがあるならば、彼には異論を唱える気が確実にあった――。

 小首を傾げて、タオは

「中部地方からは、候補の名前が出なかったのかな」

 と「中部」からの出席者が集まっている辺りへ目を向けた。その辺りには年配者が特に多い――それでもディナムよりは若いようだったが――。

 すると彼らは、「島」の中で顔を見合わせ、そのうちの一人が手を挙げた。

「どうぞ、リバレー町長フラット・ミーツ殿」

 指された年配の男性が立ち上がって答える。結構な老齢に見えるのだが、「元」とかいう前置きが無く「町長」と呼ばれたのだから現職らしい。

「候補が挙がらなんだ訳ではなぁですが、サウザー領中部は、同時に郡部ですしな――ルナール、シンキ、ユピタ=バルム等のように大きな中心都市、代表的自治体いうのがございませぬ故、その中から一つ、一人を代表となると、なかなか絞れませんで」

 ――如何にも人の良い「好々爺」という風情の小柄な男性は、微苦笑を浮かべて小首を傾げた。

「シンキ先王陛下が了承されましたならば、経験上も〈魔術〉の均衡(バランス)の上でも、中部から無理に出さんと、まあ宜しいのではなぁかと」

「……ふぅむ…」

 タオは髭を扱き、軽く眉を寄せた。別にそれは悪くはない――自分としても「出来たら」五名と云ったのだし、中部地方はある程度、本部の管轄で対応出来る。ミーツ翁が云った通り小さな自治体の集まりであるから、それを纏める代表的都市や上位の組織が本部を除いて無い以上、無理に一人を出させても、却って情報の格差等が生じる可能性もあるが……。

 緊急事態や本部の人手のことを考えると、出来たら――

 タオが首を捻っていると、「民間」の島から手が挙がった。それも、二名。――それを見て、「中部地方」の()の者達は、苦笑を見せ合っていた。

 タオは少し迷う目を見せ、まず、今日まだ一度も発言をしていない立場の者を指した。

「どうぞ、オル=リス・ファーマーズ・ギルド総代表、ペイジ・アーグ殿」

 ――モニタを眺めていたアサギはそこでやっと「さっき小耳に挟んだ〝オル=リス〟とは、農業ギルドだったのか」と知った。

 指名された男性、ペイジ・アーグは、マイクを持って立ち上がると、

「我々と致しましては、中部地方からショート・バーナード氏を推したいところなのですが」

 と云った。――モニタを眺めていたリオンが「おっ」と目を見開く。

 ペイジ・アーグ氏は、もう一人手を挙げていた者へちらっと視線を向けた。タオはそれに促される形で、

「マグ・ギルド総代表代理、ビリー・ワン殿、貴方も同意見であったか?」

 とそう云った。すると、ビリー・ワン氏は大きく頷き、その周囲のヴァネッサ達マグ・ギルド地方代表も同調していた。オル=リス・ギルド、マグ・ギルドだけではなく、「民間」の()には、同じように頷きを見せたり、軽く拍手したりする者が何名も居た。「中部地方」からというよりも、バーナードは「民間団体」から多くの支持・推薦を集めた格好になっている。

 タオが名前の挙がったバーナードへ目を向けると――バーナードは「え~?」と大げさな……子供が親から面倒な手伝いでも仰せつかったかのような顔をしている。

 それを見てリオンは吹き出し、アサギも苦笑を浮かべた。

 ――彼らと同じように、フラット・ミーツ氏を含めて「中部」の「島」に居る者達も、「ほら見なさいよ、結局こうなった」と云うふうに苦笑しながら、あるいは溜息をつきながら、バーナードに顔を向けている。



 タオの方が肩を竦めて、

「バーナードさん、周りの期待は大きいようですが。『無理』なんですかね」

 随分と――敬語ではあるが()()()な、また先ほどまでよりはノンビリとした口調で訊ねた。

 「中部」は本当に、村や小さな町――一言で云えば「素朴」な「田舎の集落(まち)」が集まっている地域であるので、首長達も余り権威高い様子が無く、「一国の主」というよりは、「頼れる()()()」「何でも相談に乗ってくれるおじさん・おばさん」といった風情の者が多いのだ。が、こういう「王様の居る国」も含んで集まるような全体会議に出席して萎縮するような劣等感(コンプレックス)などは抱えていない。サウザー領民として、その中の一自治体の主として、サウザー領を支えている自負を――表に垂れ流しはしないものの――()()()()持っている者ばかりだ。

 ただし、やはり「素朴」な気性はその通りであるから、如何にも会議中という格式張った言葉遣いは余り出てこない。実のところ、タオ本人も「威厳」を見せるような言葉は()()()()絞り出している。無理に小難しい格式高い言葉を使わせて結局会議が滞るよりは、お互い喋りやすい言葉を使った方が良い。

 バーナードも肩を竦めて、一応手を挙げ、タオが手を差し出すのを見てから立ち上がった。


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