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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day2】学習の日(2)午後:会議、傍聴(見学)
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【day2】(2)-[4]-(5)

「僕の場合も、規模は小さいですけど、『政務』に関わる()()ですから……、親近感――って云ったら何か違う気がしますけど…」

 ああ、それで、とギンが頷く。

「でも、フーコーさんみたいに、つっけんどんな態度っていうのは、お互いに全く無いから、何故なのかなあって…」

「あー、じゃあ、それはアエラ師匠のほうが〝ツンデレ〟って云えるんだよ、多分――僕がこんなこと云ってたなんて内緒だよ?」

 ギンが苦笑してそう云い、一つ息を吐く。

 ……と、前の席に座っていた市民――長椅子に中年の男性が三人並んで座っていたが、そのうちの一人がちらりと振り返ってきたので、ギンはそのまま口を噤み、アサギに向かって苦笑のまま、唇に指を当てた。

 振り返ってきた男性にはアサギも気付いていたので、小さく頷く。

「会議終わってから、まだ聞きたい気分だったら話すよ。後にしよう」

「そうですね」

 男性は、こちらの「コソコソ話」が耳に障って咎めるつもりで振り返ったのか、それとも、彼にとって「聞き耳を立てたくなるような話」だったから気になったのか、どちらかは解らないが――、何にせよ、アサギとギン当人が、会議には直接関係の無い「私語」に入りかけていることに、自分で気付いていた。そんな話をするのならば、少なくとも此処に座っている必要は無いのだから移動をすべきだが、そんな気は無い、まだ会議を傍聴する気がちゃんとある。

 アサギとギン、リオンも、再びモニタを注視した。


 大笑いしたタオは口に拳をあてて「けふん」と、まず咳払いをし、

「いや、失礼。個人的なことで話を逸らしてしまった。申し訳ない」

 手を振って議場全体に謝り、それから視線を巡らせた。

「では、出席者諸君に改めて尋ねよう。ディナム・タイクーン・シンキ先王陛下が提案された、本部外務部長であるアエラ・ヴァン・フーコーが、ユイ・モニエ・ルナールに加えて領主代理職に就く案へ、異議は無いか? 異議のある者は挙手してくれ」

 真剣な声でタオが問う――議員席から手は挙がらなかった。

 ならば――とタオは薄く笑い、「柵」のほうへ目を向けた。

「では、アエラ・ヴァン・フーコー外務部長。君自身に意見は無いか。――ラ・ルナーラには昨夜のうちに云っておいたが、君は今突然云われて何の準備も無い。何かあるなら、その場で構わん、述べたまえ」

 タオが同じく真剣な声で、しかし表情は薄笑いのままで続けた。

「しかし、ただ単に辞退(ノー)とは云えない。辞退したければ、その理由と、他に君自身が推薦する人物を挙げよ――これは、ラ・ルナーラにも昨夜云ったことであるから、条件は同じだ――まあ、与えられた時間は違うが、それは『経験』の差を考慮したハンデとでも思え――。それが無ければ、出席者に異論が無い以上、この先会議が()()()()()()ために動くことになる」

 タオの表情が妙だったのは、()()()()意地の悪いことを云うための前哨だったのだ――。

 外務部長は表情を引き締めたままスッと立ち上がり、その場で厳かに口を開いた。

「火急の事態にありますれば、本部の一部署を預かる者として拒否する職務でもありません。シンキ王国先王陛下の評価とご指名を光栄に思い、謹んで承ります。――先だって指名されたユイ・モニエ女大公殿と協力し、また、年長者として相応の、補佐と先導にも努めて参る所存にございます」

 芯の通った声でアエラ・フーコーが告げると、会場全体から「おお…」と嘆息があがった。――タオと、サンハルも薄く笑ったまま、つい、ユピタ=バルム共和国の席を見てしまう。はたして、大統領(ウィリアム)は本国にてどんな顔をしているのか……、マッカン大使は手元を見下ろして、ほんの微かなものであったが、苦笑を浮かべているようだった。

 承知の返事と同時に所信表明も済ませるという時間の節約をし、アエラはそのまま、立ち上がった時と同様()()()腰を下ろした。

 ――隣りに座っていたルナールが、思わず、フーコーの膝の上に手を乗せる。フーコーは微かに狼狽の表情を見せていたルナールに顔を向けて、その手を軽く握ると、「心配しなさんな」というふうに笑った。



 タオはフーコーが腰を下ろすのを見届けて、何故かサンハルに顔を向けた。サンハルも何か考えていたらしく、タオと目を合わせて――お互い、言葉も無く悪戯の打ち合わせでもしているかのように、何か含んだ笑みを交わす。

 タオが会場に顔を向けて改めて、

「ということで、領主代理が二名、取りあえず決まった。――が、こうなると、領主本人――()としては『足りん』という気がしてくる」

 そんなことを云ったので会場がざわめく。普段ならたった一人である領主が、代理とは云え「二人」になったのに、「〝足りない〟とはどういうことだ」そんなざわめきだ。

「女性が二名。――〈魔術〉的には〈水〉と〈風〉のマスター。……本部に出向しているルナール公国主とユピタ=バルム出身の本部職員。……二名とも比較的若い」

 独り言のように、淡々とタオが言葉だけを紡ぎ、出席者が戸惑いの表情を隣や前後で交わしていると、そこでやっと、

「……バランスが悪い。そういう意味で『足りない』。――そうは思わないかね、諸君」

 そう云う。そのまま、返答は待たずに

「そこで今度は私から提案だ。――ディナム・タイクーン・シンキ先王陛下、貴方も領主代理を務めては頂けないか」

 タオは師匠を手の平で指した。会場が一層ざわめき、ディナム翁は目を細める。タオはニッと笑って、

「云いだしっぺの貴方にもね」

 などと嘯いた。

 ディナム翁は顔をしかめたが、会場のほうは「それは良い」というふうに――先ほどよりも明るい響きのざわめきに包まれている。

「こんな年寄りの隠居を、そんな重責の現場へ引きずり出すのかね」

「どの口が云いますか。隠居なら隠居らしく、こんな()()まで出て来ず、離宮内で散歩してりゃ良かったんですよ。――この会議に派遣する現役が見当たらず、貴方に()()()()()()()()ほど、シンキは人手不足で人材不足でしたか?」

 渋い声の師匠に、弟子は悪びれもせず皮肉を云った――

 好きこのんで出てきたんでしょう? 飾りの出席者のつもりで出てきたんなら、アエラを指名するような重要発言、するもんじゃないです――そういう意味のこもった台詞である。

 タオは表情を含みの無い微笑に変え、声色も平静に戻して云った。

「勿論、ただの思いつきで云ってる訳じゃない、()()()()を良くするために考えてのことです。通常は男性(おれ)が一人で、代理もラルナーラ――()大公が一人という分には、それならまあ良かったんだが、女性二人というのは致命的にバランスが悪い。男性が一人は居た方が良い、出来たら二人。また、ルナール公国の女大公(ラ・ルナーラ)は――サウザー領の『北』からの代表、アエラは、ユピタ=バルム出身と考えたら『南』から、しかし既に『本部』と考えるべきであるなら、サウザー領の『西』。となると――」

「――」

「云いだしっぺの師匠(あなた)は、男性であり『東』のシンキ、そしてフーコーやラルナーラの先達として理想的な、政務の実績をお持ちだ。()()()()

 そこで再びタオはニッと笑った。ディナムは「やれやれ…」と云うふうに軽く首を振る。――否とは云おうとしないが、まだ諾とも云わない。

「加えて、ディナム師匠、貴方は〈火〉と〈土〉、世界的にみても希有な二種の〈マスター〉だ。〈水〉のラルナーラ、〈風〉のアエラ、そして貴方が居れば、良いバランスがとれる――貴方に領主代理として本部に待機して頂けるならば、本気で切羽詰まった『有事』の際……つまり、『特殊対策本部』のほうが手詰まりになったときに、相当有り難くもあるんですが」

 それを聞いてディナムは何か考える顔をしながら、黙って髭を扱いた。――柵の内側でサンハルが薄く笑っている。

 今のは、――〈魔術士〉にとって、相当の()()の言葉になっている筈だ。

 タオは師匠から全体に視線を戻した。

「とは云え、先に私も申し上げたし、ディナム翁御本人も仰せだが、『領主代理』のほうも、本来なら()退()()()()()()()方へお任せするには過酷な職でもある訳でね」

 タオが云うと、再び軽く「自分は若いと思ってると、しっぺ返し食らうぞ!」などと野次が上がった。

 それは会場全体が笑いに包まれることで()()()され、タオが平然と先を続ける。

「そこで、此処からは無礼講だ、大使等以外の代理出席者の方も〈回路〉をオープンとして、活発に意見を出して議論しようじゃないか」

 何だか楽しそうな声でタオが云う。

「議論の資料として――前提を云おう。まず、ラルナーラとアエラ・フーコーの二人が決定しているので、出来たら男性を二人確保したい。次、地理的に、ラルナーラが『北』と考え、残りだ。()()()を本部の『西』と考えるのなら『南』、ユピタ=バルムの『南』と考えるのであれば、まあ、本部の西は置いといて、残りの『東』、そちらからの代表を確保したい。出来たら、サウザー領『中部』の代表も居て、四名か五名としたいものだな。五名とするなら、一人は男女どちらでも良い。――で、最後に、ラルナーラの〈水〉とアエラの〈風〉以外、〈火〉と〈土〉の魔術士、出来れば〈マスター〉であると有り難い――しかし、これはまあ、〝魔術士の国〟としてのサウザー領であるから、『そうだと色々と臨機応変な対処が可能』という意味で()()()()の話だ。『特殊対策本部』と違い領主代理は、必ずしも〈魔術士〉でなくても良いし、研究職経験者でも良い。というか、〈魔術〉に関しては義務教育止まりでも政務経験は豊富というなら、それで一向に構わんよ。というわけで、我こそはと思う者が居れば、どんどん立候補してくれたまえ。本国から間接参加している者も、推薦や立候補をどんどんしてくれていい――ああ、ただし」

 そこでタオが少し慌てた声を出す。

「最初に云った『時間のロス』は避けたいから、明日――はあんまりか、明後日までに本部への来訪が不可能である者、また、ある程度纏まった期間の待機が不可能である者は、候補から外すものとする。――さあ、議論しようじゃないか」

 タオが高らかに、朗らかにそう云った。――そんなタオの機嫌に水を差すように、議長――司会者が

「無礼講というのは極端でございますが、――出席者の皆様、今、〈通信回路〉の装置(システム)を開放致しましたので、どうぞ、お話し合いを始めて下さい」

 と冷静な声色で宣言した。


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