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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day2】学習の日(2)午後:会議、傍聴(見学)
69/95

【day2】(2)-[3]-(4)

「サヴァナの平原とフリュス村にも『筋』が出ているのだから、私はそちらにも協力を要請するつもりでいる。恐らく、向こうもこの件に関しては、そのつもりで居るだろう」

 タオがそう云うと、「そりゃそうだろうな」という顔をして、うんうんと頷いている者が殆どだった。ヴァネッサも頷く。

「ただ、そうなると、向こうもそれなりの役職に就いている者やベテラン――『上層部』と云えそうな御方をこちらに派遣してきたりね、そんなこともあると思われるのだよ。また、向こうも向こうで、イー・ルやらエグメリークやらと()()()ではある。そうした中で、余計な萎縮や遠慮をせず議論が出来る者、『戦』に関しての情報・状況もお互いに把握した上で展望を考えられる者、そういう条件を考えたら、かなり絞られてくるだろう?」

「それは……そうですね」

 ヴァネッサが議場を代表して肯んじた。

「まず、完全に、民間人(わたしたち)には無理です」

「うん、サヴァナやフリュスの幹部と面識がある魔術士は、民間にはそんなに居ないだろうから、どうしても気後れして、()()()()意見をぶつけることなど出来ないだろうな。そうすると、『判断』や『行動』を()()()()間違えていた、という結果になりかねない。当然、『戦況』についての詳細も、民間の方がご存知の筈は無いから、その辺りを共有することが出来ない」

 理解出来ます、とヴァネッサが頷く。

「そういう……、サヴァナやフリュスとの情報の共有の関係もあって、領内国家・自治体の長にも、――もうその名称で通しちまって良いかね?――『特殊対策本部』の長を任じるのは、難がある。『今ここに居られる方々』に限れば特に、既に政務を引退された方も多いから、お持ちの情報がもっと、現職よりも少ないだろうし」

「……。確かに、()()()に、よく理解出来るご判断です。仰せの通り、あんな憎まれ口を叩く前に、先に仰っても良かったでしょう」

 ヴァネッサが呆れた溜息をつきながら云う。タオが、「順番(ながれ)がそうなっただけさ?」と肩を竦めた。

「で、――そうなると、この城に直接詰めている、本部在籍の幹部……に絞られてくる訳だが」

 タオはそう云うと、一つ大きく息を吐いた。

「候補に挙がるだろう幹部を一人一人潰すより、話を早くするために、()()()()()()()()を、もう云ってしまうとな」

「――」

「いざというとき、()()()()()()()()()()をなし得るのは()()()()

 キッパリと云うと、議場や中継モニタ前は一瞬静まりかえった。

 ――議員席に座った、先ほどタオに野次を飛ばしまくった()()()が、今度は「うむ」と厳かに頷いている。

「民間人の貴方方は、どうしても其処がネックになってしまうだろう、ヴァネッサ君」

 穏やかな声でタオに問われ、ヴァネッサは「ええ…」と、しみじみ頷いた。「イリーガル」「アウトロー」「()()()()」――大抵の民間人は、それを避ける。避けない者は、「犯罪者」に直結してしまうのだから――()()()()()()()()()()()を日常的に繰り返している――()()()()()()()()

「本部でも領内国家政府でも、政務従事者には()()()()()()がある筈だ。即ち、民間人より余程強く、()()()()ことを迫られる『公』に属する者であるが故に、『(おのれ)』を信じるのにどうしても迷いや躊躇、戸惑いが生じる。加えて、『上層部』『上司』が居るが故に、『部下たる己』自身の判断に、迷い、躊躇い、そして、己自身を信じられず、己を()()()、そんなこともある」

 この()()()()に於いて、そんな「迷い」「躊躇」は、致命的な「遅れ」となる可能性がある――

「サウザー領に於いて私だけが、最も、()()()()から自由だ。()()判断や行動が『間違って』いたかどうかは、結果だけが決める。私は、結果を出す前に()()()()()()で判断や行動を迷わない。何故なら、()()()()()()()()()()()()()。その分――誰よりも、機動力と瞬発力がある。それは、たった一人の領主たる、()だけが持つ()()だ」

 結果を出す前に()()であるか否かを判断材料や行動の根拠としてしまうのは、今はただの()()――()()()()()でしかないのだ。「合法」だが「手遅れ」、そんな結果を生み出すような心理を()()()()()()()()者は、「その役」に相応しくないのである。

 行動を起こす前から、「法」の枷を外せない者に()()()()は無い。「規範」を持たぬ無法者に資格が無いのは当然であるが、「法」へ()()()()()()()()にも資格は無いのだ。「王」とは、民と領土を守るため、「規範」ではありながら「()()()()()()()()を常に持つ者――その決断と行動が可能である者のことだ。

 最終的に、「違法な犯罪者」となり「背信者」と罵られようが罵られまいが有罪となろうが無罪となろうが――、それは、粛々と()()()()()()()結果ではあっても、()()()()()結果には入らない。純粋に、()()という「原因」から引き起こされる、()()としての「結果」が出た後で考慮されるべきことなのである。

 正しいか正しくないか間違っているか間違っていないか、己の行動が、そのうちのどれに顕れるのかを「結果」だけで予測し、そして実際に行動に移せる――()()()()()()()()のは「領主(おう)」だけだ。

 ――タオの言葉を聞いて一際大きく頷く者が居たことに、リオンが気付いた。

 漆黒のローブを纏い、真っ白な総髪、同じく真っ白で豊かな口髭と顎髭……、タオよりも、いや、バーナードよりも随分と年上に見える男性である。見た目だけで、()魔術士だと判る、最早、「仙人」と呼びたくもなるほど――貫禄と同時に静謐な空気が、その老人の周りにはあった。ついさっきまでは、こんな人物を意識していなかった――が、意識してしまえば、目が離せなくなるほどの存在感があった。そういえば、この人物は――先ほど、野次を飛ばしてはいなかった…筈だ。

「――俺が、『形』としては本部長になって実務では他の誰かってするのも、()()というか、俺の判断や指示を仰ぐ・伝えるっていう、『一手間』が入ってしまうだろう? 俺はその伝言ゲームを出来る限り避けたい。『時間』の問題というのは、そういうことだ」

 冷静な口調で領主が云うと、ヴァネッサは「ふーっ」と息を吐いてから、

「解りました。『特殊対策』の長に、タオ様ご自身が就かれることへ、もう何の異論もございません。勿論――だからこそ、領主職の軽減を望まれることも、ごもっともであると存じます」

 大きく頷いて、厳かにそう述べた。代表として彼女に発言させた、周りの民間ギルド代表も頷くことで「異存は無い」との意志を見せる。

 タオは「有難う」と頭を下げ、ヴァネッサが着席するのを見届けてから、議員席を見渡した。

 再び髭の向こうで薄い笑みを見せて、

「――では、他には?」

 そう云った。

 議員席では、再びヒソヒソとした声が上がる。

 ()の中で、ルナールが一番緊張した面持ちを見せていた。テリーインは、ヴァネッサから()()云われ、それについての異論も上がらなかった以上、タオ領主への反対意見は出席者各位に無いのであろうし、自分にももう後退の余地は無いと、腹を括っていた。



 先ほどまでとは、「ヒソヒソ声」の質が違う。

 モニタ越しにも何となく伝わっていた。中継場所でも「どうしたんだろうね?」という小さな喧噪が起きている。

 リオンが、

「――何か、文句あるなら云えば良いだろ、って云いたくなるような、変な()()

 独り言の口調でそんなことを云った。モニタ越しに()()が解る筈は無いが、アサギやギンも、その雰囲気は感じた。傍聴席に居る市民達には、もう少し具体的に、何が起きているのか伝わっているのだろうか?

「こういうこと、あるんですか?」

 アサギがギンに問うと、ギンも不思議そうに、あるいは戸惑った様子で、

「ん~……珍しいことじゃないかなあ。どうしたんだろう。普段は、もう少し……さっきまでみたいに、人が発言してるときでも、ある程度ハッキリした意思表示する人が殆どなのに」

「煮え切らない、って感じですね。発言を待つ側(タオ先生)からしたら、ちょっとイライラしそうな雰囲気」

「『質問や異論がある』ってハッキリ云えないけど、このまま『是』とも云いがたい……そんな感じかな? 珍しいなあ…」

 傍で、そんな想像をしていると、タオも――表情には特に苛ついた様子が無いが――、

「手が挙がらないな。文句が無いなら、〝サイン〟しちまうぞ、ここで」

 一口水を飲んでからそう云って、瓢箪を置くのと入れ替わりに最初に見せた命令書二枚を、再び議員席に向けて掲げた。ザワッ、と議員席の声が大きくなったが、しかし、挙手する者は出ない、まだ――迷っている雰囲気だ。

 そんな中、アサギは、柵の内のルナールが、キュッと膝の上で拳を作るのに気付いた。

 業を煮やしたのは、タオではなく――議員席の中の一人だったようだ。

 スッ、と静かに手が挙がる。「あ」とリオンが軽く目を見開いた。先ほど「仙人」みたいだと思った、存在感のある老人だ。

 一度議員席は静かになり、タオが微笑して、

「どうぞ、ディナム・タイクーン・シンキ国王陛下」

 そう云って手を差し出した。

 ――アサギとリオンが「あっ、もしかしてこの人が」と顔を見合わせた。バーナードだけでなく、「彼」も来ていたのか。

 ギンがそんな二人の様子に首を傾げて、――ギンにしては珍しく――彼の方から「知ってるの?」と訊ねた。

「ちょっと……バーナードさんと一緒に、お名前というか……噂というか、聞く機会があったんです」

 詳しいことは置いておき、アサギがギンに云った。リオンが後を引き継ぎ、

「それと、フーコーさんの大伯母さんって人もセットで」

「ああ……」

 ギンはどういう機会があったのか深く問おうとしなかったが、「納得」と云うふうに息を吐いた。

「そうか。三人とも偉大な〈土〉のマスターだものね、何かそういう話を聞くことがあったんなら、一緒に聞いて当然だ」

 それで――さて、領主(タオ)の師匠でもあるという偉大なマスターは、何を云おうと挙手をしたのだろう? じっと黙って、この世の全ての()()()()を見守る大山のような雰囲気を持った人物が――。


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