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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day2】学習の日(2)午後:会議、傍聴(見学)
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【day2】(2)-[3]-(1)



 拍手の音が止んでから、タオが議員席を見回し、「他には無いか」と云った。彼の表情は再び、微笑――薄笑いに変わっている。

 口火を切ったシャールの質問、異論に対してのタオの回答には、全体的に納得出来たようだが――再び、議員席にはひそひそとした声が上がった。

 その隙にタオは、また一口水を飲んだ。

 ――今度はタオから見て左側、前後に座って額を集め、ヒソヒソと言葉を交わしていた複数人のうち一人が、「うん」と小さく頷いてから手を挙げた。ルナールと同年代くらいの女性である。それまで言葉を交わしていたグループが彼女の顔を見上げてから、タオへ視線を向けた。女性はその「グループ」の代表として発言することになったようだ。

 タオが、「どうぞ、サウザー・マグ・ギルド・ノース代表、マリー・ヴァネッサ・トゥルック殿」と云って手を差し出した――つくづく、議長あるいは司会が、不要になってしまっている。

 眼鏡を掛けているスリムな女性だった。肩に届くくらいの、アサギよりも「白」に近い銀髪を首の後ろでキッチリ括っていた。マグ・ギルド代表ということは〈魔術士〉だろうが、ローブは身につけていない。フーコーと同じようなパンツ・スーツ姿だ。しかし、男性が見て「美人」と称するような顔つきではなく――可愛い・綺麗よりも「凛々しい」という形容が最適に思われた――、フーコーほど体の凹凸が激しくないこともあって、「男装の麗人」という表現が似つかわしい雰囲気である。

 どちらかと云えば――こう云ってはフーコーに失礼だが――見た目だけなら彼女の方がフーコーよりも余程、「国の幹部」として()()()()に見えた。

 リオンが「この人も、〈マスター〉っすか?」とギンに訊ねると、彼は「うん」と頷いた。

「〈水〉のね」

 へえ……とアサギが興味深そうにモニタを眺めた後で、

「魔術士隊とは違う、『組合(ギルド)』があるんですか」

 ギンにそう訊ねた。

「うん、〈魔術士〉は、そもそも〈軍隊〉にだけ――『戦』にだけ()()()じゃないでしょ? ……一般の人達は、本部に限らず各国の『魔術士隊』をエリートだと思ってくれてるっぽいけど、本当はそういうものじゃないよ。魔術士は魔術士であって、()()『就職先』が何処かってだけでさ」

「ああ……」

「よって、正規隊以外に()()した魔術士の『組合』や『組織』(ギルド)は、あって当たり前さ」

 そうか……と神妙に頷き、アサギとリオンは再びモニタに目を向けた。



「――あの『黒い筋』や『異形のもの』は現状に於いて一刻も早く解明すべき『謎』であり、魔術士が現在()()()()()()()()()()()()()()()()()対象だと、タオ様がお考えであること、実際そうであることは、重々理解出来ました。――私だけでなく、マグ・ギルド総代表代理含め五名共々、納得出来るお言葉でございました」

 ヴァネッサ代表はまずそう云った。先ほど額を突っつき合わせていたのは、他の魔術士ギルドの代表、あるいは代理出席者らしい。ヴァネッサの言葉に「うんうん」と頷いている。

 全部で五人――ヴァネッサが()()()代表と云うことは、サウス、ウエスト、イースト、そしてそれを纏める「総代表(トップ)」というところだろうか? アサギがギンにそれを訊くと、ギンが「うん、そうだよ」と頷いた。

 タオはヴァネッサを含むギルド代表が集まっている方向へ目を向け、「どうも、有り難い話だね」と軽く笑った。が、

「で? しかし――と続くんだろう」

 そんなことを云う。ヴァネッサはたじろいだりせず、

「その通りです」

 と冷静極まりない声で云い、タオの方が、一度軽く口を尖らせて鼻の頭を擦った。

 ――タオは、「女性」に弱いんだろうか。ふと、リオンはそんなことを思いついて軽く笑う。

 フーコーは〈風〉だから〈土〉のタオが苦手意識を持って可笑しくないと思っていたが……、〈水〉だというヴァネッサに対しても、余り強気に出られない雰囲気がモニタ越しにも分かった。「女性から()()()()()()()とき」の男性の居心地の悪さ、それは、どんな偉大なマスターだろうが、一国の主だろうが、一般家庭の大黒柱だろうが、余り違いが無いのかもしれない……。

 タオが大げさに肩を怒らせて、それをすとんと落とし「どうぞ」と先を促した。

「総司令官の実務をテリーイン参謀長に預けられますことには、何の異存もありません。現状に於いて魔術士たる領主が最優先すべきは()()()()()謎であり、()()()()()()()()()()()人と人がやっているだけの『戦』は、魔術士(われら)が集中すべき事象ではございませんから――ああ…」

 そこでヴァネッサは、微かに慌てた顔をして、幹部の集う「柵」の方へ顔を向けた。

「申し訳ありません、テリーイン閣下。決して貴公と〈軍〉の、存在や意義を軽んじている訳では無いのです。『筋』と『異形』という謎が顕れた現在、〈魔術士〉が――例えば『オーチャード・ノル・ユニオン』や『イリグマギ結社』と戦をしているというならまだしも、()()()()()戦を優先する状況には無いという意味でございまして」

 若干早口になってヴァネッサがそう云うと、テリーインが――今は発言権が無い状態なので――黙ったまま苦笑し、「解っています」と云うふうに頷いた後、「気になさらず」と云うふうに軽く手を振った。

 ヴァネッサが云ったことは本当のことだ。〝オーチャード・ノル・ユニオン〟、〝イリグマギ結社〟、それらはサウザーと同様の()()()()国・組織である――そうした集団と()()をしているのなら、サウザーの〈魔術士〉も「戦」を優先事項にせざるを得ない、現況としては「謎の解明」と「戦」を()()()()しなくてはならないところだったが……、そうではない。

 テリーインは、昨晩のうちに領主(タオ)からも云われている。()()()()()戦は、この次元()の理屈しか知らない・興味が無い者とやっていることだ。よって、「この次元()の理屈だけで何とかなる」事柄をも()()()()することで魔術士たる領主に余計な負担を掛けないよう、彼は総司令官の任を承ったのだ。

 ヴァネッサが云ったのも、それと同じだ。サウザーの者なら、それを理解出来る。それが()()()()()()()()()としてある。だから、彼女の言葉に不快感など覚えるような「軍人の自尊心(プライド)」のほうが、テリーインには無い――それで「別に気を悪くはしていない」と、声に出す代わりに手を振ったのだった。

 ヴァネッサは「恐れ入ります」とテリーインに頭を下げた後、再びタオに顔を向けた。

「ですが、タオ様――サウザー領ただ一人の領主、その代行を立ててまで、タオ様御本人がその仕事……()()に集中する必要はございますでしょうか? ――貴方が仰せの『特殊対策本部』、その本部長に『領主』が就くという()ならば、まだ解るのですが」

「つまり、他の災害時と同様、領主が対策本部長として()()ことは重要だが、代理を立てるほど他の職務を減らしてまで、どちらかと云えば()()側の実務に時間を割く必要は無いと?」

「左様にございます。公的組織ではありませんからタオ様の御命令が直接に届く訳ではありませんけれども――我々もサウザー領の魔術士民間ギルドとして、現在の『非常事態』に対し悠然と構えていられる訳もありません。現段階で、我らギルド代表は協力要請を待つつもりもございませんでした。領民として最大限、最優先のご協力をさせて頂きます。『人員()が足りない』ということは無いと、タオ様に、まずはそれをご理解頂きたいのですが」

 冷静にヴァネッサが云うと、タオはまずにっこり笑って、

「嬉しい話だ。有難う」

 そう云ってぺこりと頭を下げた。ヴァネッサは、それには少したじろいで目を細め、「いえ……恐れ入ります」と小さく頭を下げた。

 が、直ぐにまた、冷静に――というより、皮肉めいて

()()()()()()()、タオ様ご自身の――私情が、前に出てはいらっしゃいませんか? ()()()()同じ魔術士として、貴方様の漲る好奇心が手に取るように解るのですが」

 ヴァネッサもタオのように、軽く口角を歪めた。

 ――モニタを眺めていたアサギとリオンが、その口調に不意を突かれて「え?」と思わず声を出す。随分と冷静沈着、生真面目の印象があったヴァネッサの口からも、随分と()()()()な言葉が聞こえたので、一瞬何を云われたのか解らなかった。

 タオが、――おどけてのことなのか胸を手に当てて背を仰け反らせ、大げさに、

「切り込んでくるね、それを云われると辛い」

 と嘆きの表情を見せた。だが、やはり直ぐに元の姿勢……演説台を掴んで身を乗り出す形で真面目に返した。

「一人の〈魔術士〉として()()()()()、それは正直なところだ。貴方の云う通り、その『好奇心』は百パーセント()()だろう」

「それをお認めになりますなら、『それでも』代理を立ててまで実務に就く理由、貴方ご自身はその必要があると考えた根拠も、述べて頂けますね? ――タオ様ばかりの喉を渇かせぬよう、こちらから先回って申し上げます」

 ヴァネッサがそう云って、自分の手元にあるコップから一口水を飲んだ。

 先ほどは議論というより「講義」のようだったが、今度は本当に「議論」になってきた――アサギはそんなふうに感じた。

 シャールはまだ若く弁も立たない、加えてタオが直属の上司であり師匠でもあるからだろうか。しかし、「ヴァネッサはそうじゃないから」、というだけでもない気がする。

 ――「人の上に立ったことがある」、その経験と年季の差……か。年齢だけで云ったらタオよりも相当若く――ルナールと同じくらいに――見えるのだが、ギルド代表として務めてきた経験が、自信や自負として、領主(タオ)にも気後れせず物怖じしない態度に表れているのだろうか?


[2.22-2.23 は、10:00|20:00の1日2回投稿にします]

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