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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day2】学習の日(2)午後:会議、傍聴(見学)
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【day2】(2)-[1]-(4)

「思いついた『やりたいこと』が、『やるべきこと』でもあったら一番良くて、同時に、『やっていいこと』か『やってはいけないこと』か判断出来る頭持ってなきゃいけない、ともタオは云ってたなあ。――んじゃ、サンハルさんも云ってたけど、今回の会議の『傍聴』する決定を出したのが『やるべきこと』だと、タオは思ったのかもしれないけど、他の人は『今はやってはいけないこと』だと思ったのかもしれないんだ――皆が皆、納得出来る『やりたいことであり、やるべきこと』って、実は難しいんだな……」

「そうですね――。もし、それが『やるべきじゃなかったこと』だと後から分かった時に、どう()()()()()()()、それは――本当に、為政者として、志を固めておくべきことなんですよね…」

 アサギは、真摯な口調でそう云って、「うん」と自らに云い聞かせるように頷いた。リオンが無言で微笑を浮かべる。だが直ぐに、何か思い出した顔をした後ふと、唇を引き締めた。

「でも……。――『過程』を傍聴する機会すら放棄するのは、市民の『信頼』じゃなくて『甘え』だと、タオは云うのかもしれなくてもさ……」

「はい?」

「昨日――、チョウさんだけじゃなくて、その前。跳ね橋でパニックになりかけたときに、タオ、やっぱり『やるべきことをやれ』って云ったろう」

「――はい」

 リオンがアサギの方へ顔を向けて沈めた声で云うと、アサギも表情を引き締めて頷いた。

「俺――、あのとき、正直『酷なことを云うなあ』って思ってたんだ。励ましたり、『落ち着け』って直接叱責するんでもなく、ただ『やるべきことをやれ』なんて。でも、『やるべきことが思いつかないならそれでもいい、それは〝何もしないこと〟がやるべきことなんだ』とも云った……あれって――『何もしなくても良い』って、云ったのと、同じだよな」

「……」

 リオンの言葉に、アサギは困ったふうに小さく首を傾げた。

「先生は、そうは云ってないと思うんですけど――」

「ああ、うん。タオ本人は『ちゃんと考えた上で、〝それでも〟やるべきことが思いつかないのなら』って意味で云ったんだろうと思うよ。そんで、多分、彼処に居た沢山の人も、それをちゃんと受け止めた――サウザーの人達はそういう人だから、()()()()()()んだろうなって、感心した。――だけどさ、『自分のやるべきこと』を()()()()()、『ああそうか、何もしなくてもいいのか』って()()しちまう人間が居ても、それも当たり前なんじゃないか?」

 ――アサギは神妙な顔つきで「そうですね…」と頷いた。

「安心してしまったせいで『やるべきこと』よりも『やりたいこと』の方に行って、その上それが『やってはいけないこと』だったら……、その時『何もしないこと』こそが『やってはいけないこと』だったかもしれないのに自分でそれを判断すらしないままだったら……、最悪のことが起きたかもしれないんだよな。――それが多分、本当に、タオが云った『甘え』なんだ。〝領主(タオ)がああ云ったから()()()()()()()のに、良くないことが起きた〟という逃げ口上が可能なんだから」

「……」

 ――実際には、サウザーの民衆は自分達のやるべきことが、少なくともあの瞬間には「城の職員の指示に従って落ち着いて避難すること」だと、ちゃんと理解出来たのだろうし、サウザーの領民はそんな「甘え」を持っていないと、それはタオが持ってる民衆への「信頼」だったのかもしれないが……。

「でも、タオは多分――、そんな『甘え』すら、きっと、受け止めるんじゃないかと……思った」

 溜息混じりにリオンがそう云った。

「タオは、『きっと守るから安心しろ』とは云わなかったけど、『邪魔をせず大人しくしていろ』っていう()()もしなかった。勿論、『そうじゃないと何が起きても知らない』とも云わなかった――領主の自分がやるべきことをやる、領民もやるべきことをやれ、ただ結果はついてくるだけだ――って、それだけだ。何だか、突き放してるようにも聞こえるけど、その()()を、タオ自身は、誰を責めることもなく淡々と受け止めるんじゃないだろうか」

 アサギも「ああ…」と溜息をつき、再び頷いた。

「リオン君の云ってること、解ってきました…。きっと、タオ先生は――『その結果次第で、()()()()()()()()()()()が決まるだけ』と、そういう意識で……何が起きてもただ全てを受け止めて――受け入れると」

「――そういうところが、フーコーさん曰く『前へグイグイ進んでいく』だと思えば、『〈土〉の割りに』落ち着いてない、ってのは関係無いのかもしれないけどな」

 一度、くすりとリオンが笑い、アサギも「成る程」と応じた。

「昨日のチョウさんみたいに『それは良くない』と直ぐに指摘出来るならしないと、()()()()()()次にやるべきことを間違う可能性があるから、叱ったりもするんだろうけど――そういや、さっきの『説諭』は結局何だったんだろうな――、そんな叱責を、ちゃんと聞いた人間がそれでも失敗したとしても、無視した人間のせいで良くないことが起きても、()()()()()()()()()()()()次に進む――そっちが、タオの『やるべきこと』であって……それ以上叱ったり、責任を追及したりは、しないんじゃないだろうか」

「――そうですね……それは、『次に自分のやるべきこと』だと、タオ先生は思わない……。もう既に『叱責』や『説諭』はした、その後どうなるかは、()()()()()()()()()()()()であって、結果だけを共有する、そんな感じでしょうか」

「いや、『共有』っていうよりさ。タオじゃない人間(ほう)はその結果を受け入れられなくて『自分以外の誰かのせいだ』と考えたとしても――『誰』じゃなくて『領主(タオ)のせいだ』と考えたとしても、()()()()()全部受け入れるんじゃないかってことだよ。それも()()()()()()()()()()()()()()()だっていうふうに」

「ああ……」

 アサギが、何かに感動したときのような溜息を漏らした。

 リオンは真剣なまなざしを前に向け、いつのまにか拳を握り締めていた。

「〈土〉が〝死〟を象徴するというなら、それが一人の人間の――絶対逃げられない、どんなに逃れたくても必ずやってきて受け入れざるを得ない()()()()だと解っているから……、生きている間に起きる無数の『結果』は、『()()結果でどうとでもなる』と、全部、受け入れられるってことなんだろうか――?」

「……」

「でも、タオ自身はいつも『次に自分がやるべきこと』を考えて先に進んでいくけど、皆が皆、そうやってられる訳じゃない……」

 ちゃんと考えても失敗が怖くて迷ったり立ち止まったり、それが「やっていいこと」なのかどうか判断を間違うことだってある、「やってはいけないことをやりたい」誘惑だってある、そして何より、やるべきことを()()()()()()()を放棄する「甘え」が、いくら叱責されたとしても生じて可笑しくないのが――人間ってものだ。

「そうやって立ち止まる人間を、()()()()()ことはせずに自分(タオ)は――突き放しているようにも見えるほど淡々と――先に進む。だけど、誰かが立ち止まったために起きた結果(こと)を、責めたり後悔したりもしない。『誰かが立ち止まっているのに待たなかったタオのせいだ』って云い出す人間がもし出てきて、誰が見てもそれが領主(タオ)の責任でなくても、タオはタオで『自分がやるべきことをやった結果』だと()()()()()()()()。……それが――タオの、領主としての責任、矜持……ってことになるのかな。俺には――信じられないくらいに、()()()()()()()()()ようにすら思えるよ」

 アサギがこくんと唾を飲んでから、

「それが、〈土〉であるが故に出てくる性質なのか、それは関係無くタオ先生個人の性質なのか、僕には判らない――けど。タオ先生自身はあんなこと云ってましたけど――『残酷』だっていうのもそれはそうなのかもしれないけど、『慈愛深い』ってのも、絶対、否定するようなことじゃないですよね」

 そう云った。リオンはその言葉にこくっと頷き、

「そうだよ。俺は、そう思う」

 と力強く応じた。

 こんな若者の会話をタオ本人が聞いていたら、「買い被りすぎだ」と苦笑でもしていたのかもしれない。何故なら、タオ本人は、冷静に考えることが不可能になって「やってはならないこと」をやってしまうくらいなら、「何もしなくて良い」と()()してしまう方が、当時、余程に()()()()()()訳であるから……。しかし、前途ある若者は、そんなふうには受け取らなかった――。

 リオンは、自分は「為政者」ではないけれど、そんな「懐」を持つ男になりたいものだ、なれるだろうか――なろうとするのが、俺の「やるべきこと」だ、と決意を新たにしていたし、アサギはアサギで――。

 現在の「フリュス当主」は長兄であり自分はそうではない。だが、――甘えず・迷わず・悔やまず、「フリュス家」の者として当主の支えとなり、「村の幹部」として村民のためにあるべく、タオやサウザーから学ぶべきことはもっともっと学びたい……そんな向上心が、改めて胸に湧き出していた。

 と、ふと――遠くの方で、「わあ」「おぉ」と、突然、複数の人間の声が聞こえてきた。二人はそちらに顔を向ける。続けて

「まもなく開会致します。開会まで、中継用画面では出席者のお名前を表示しております」

 という声が聞こえた。

 アサギとリオンは顔を見合わせて、首を傾げ合った。恐らく()()()()()の前に集まっていた民衆だろう、そのざわめきがここまで届いたらしいが、それは「感嘆」や「歓喜」の声に聞こえた。一体、そんな()()が上がるような何が、画面に現れたのだろうか。出席者の名前を見ただけで何故?

 リオンは苦笑して、

「……本当に、何かの()()()()()みたいなノリなのかなあ。……サウザーの国のお偉いさんって、支持者っていうより『ファン』が居るのか?」

「――ルナールさんやフーコーさんみたいに、一般の方にも地元を離れてこの本部管轄地で暮らしている人が居られるのでしょうし、そういう人は懐かしさとかもあるんじゃないですか?」

 アサギも笑みを浮かべてそう云った。

 「じゃあ……」と再びアサギが紙を見つめ、

「どちらに向かいますか? 僕は――サンハルさんが仰ってたみたいに、市民の皆さんがどういう反応しているのか、それを見てみたいんですけど」

「おっ、あんたの方から希望云った」

 まずリオンがそんなことを笑いながら云って、「うん、俺も」と頷いた。

「避難所――は、避けた方が良いですね。一般の人達からしたら、僕らは部外者ですし……」

「そうだな。正面のロビィの方が、まだ目立たないかもな」

 じゃあそうしよう、と頷き合って、アサギとリオンは城の正面ロビィに設えられた「中継モニタ」に向かった。


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