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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day2】学習の日(2)午後:会議、傍聴(見学)
58/94

【day2】(2)-[1]-(2)

 サンハルはアサギからまず

「フリュス家のご三男ですよ。アサギ君です」

 と手の平で指した。アサギが「初めまして」と頭を下げると、年配の男性は「ほうほう」と頷く。

「――こちらは、サヴァナのリオン・エアロ君」

 サンハルがそう云うと、男性はやはり、しかしアサギの時よりも少し声を高くして、「ほう!」と云った。

 やっとサンハルが年配の男性の方を指し、

「こちらは、サウザー金工職人組合と技師連合会の元会頭で中部アルクス町長をやったこともある、ショート・バーナードさんだよ」

 そう云うと、二人は目を見開き、リオンが

「あっ、この人が!?」

 と思わず声に出した。サンハルが首を傾げ、バーナード本人は軽く笑った。

「何だ、何処かで噂されてたのかな。こんな若いお客人にまで口伝されるような華々しいエピソードは、持っておらんつもりだったが」

 サンハルもそれを肯定することは出来ないながら、アサギとリオンがバーナードのことを何処で知ったのか、不思議で首を傾げていた。

 だが、生憎そんなことを訊ねている時間は無い。年長者二人も情報の出所にそこまで強い興味があるわけでも無いらしく、バーナードが「宜しく」と二人に握手を求めてきた。

「前の司祭様だった、君のお母上とは何度かお会いしたことがあるですよ。――お会いする機会は無かったが今の司祭様……上のお兄さんは達者かね、今は色々大変だからね」

「あっ、はい、特に体調を崩すこと無く、精一杯務めております。僕も支えになれるよう頑張ります――」

 サンハルに険しい顔で詰め寄った時とは打って変わり、柔和な笑みと声と共に、バーナードはアサギの手を力強く握った。アサギは軽く頭を下げつつ、握り返す。

 それからバーナードは、もっと破顔してリオンの手を取った。

「そうか、サヴァナの子かあ。道理で何だか懐かしい、他人のような気がしなかった。私は若い頃、サヴァナ・ギルドで修行をしたことがあるんだよ」

「えっ、そうなんスか! ……俺も何か、初めて会ったような気がしないっていうか」

 リオンも手を握り返しながら笑みを浮かべた。バーナードはリオンの二の腕を軽く叩きながら続ける。

「そういや、『エアロ』と云ったですね、君、『ギーチ』さんの身寄りですか。何となく似ているし」

「かなり遠いっすけど。血縁はあります」

「ギーチさん、お元気ですかね、もう米寿か卒寿くらいなりゃせんかな? 流石に引退なさったかな」

「元気過ぎるくらいッス。『職人には引退も定年も無い』って、まだ口癖です。――でも、筆頭(リーダー)はだいぶ前に退いてますけど」

「ああ、そうか、そりゃそうですなあ。じゃあ、タックは――いや、タ……タキョ…シュ」

「『タケヨシ』親方ッスか」

 バーナードには発音がし辛いらしい名前を、リオンは察して訊ねてみる。バーナードは「ああ、そうだよ」と頷いた。

「彼も達者かい? 私は彼と同期――って云ったら妙だが、実際、職人修行が始まったのが同じ年なのでねえ、気があったですよ、サヴァナでは良くしてもらった」

「元気です。ってか、今『筆頭』、(おさ)です。タケ親方(さん)から云われて、傍聴に来たんです」

「おお、そうか! そりゃ、何とも嬉しい巡り合わせでしたわ、会えて嬉しい」

 うんうんと頷きながら、バーナードはまた気安くリオンの二の腕を軽く叩く。

 ――単に「サヴァナ・アルチザン・ギルド」を共通項とする者が顔を合わせただけで、いきなり「親近感」が湧くというものでもないだろう。それよりも恐らく……両者の「直感」に響いたのは、お互いが「職人」であることなのではないだろうか。多分、バーナードがサヴァナで修行を()()()()()()()、リオンが特に気になっていたのかもしれない。

 サンハルとアサギは傍から見ていて、思わず微笑を浮かべた。

 バーナードが再び、「ところで…」とリオンに何か云いかけたところで、サンハルの背後からまた、

「サンハル隊長――あの、バーナードさん、どうかなされましたか。もうそろそろ……」

 と、戸惑った様子の総務職員の声が聞こえた。

 サンハルとバーナードが慌てた顔をして振り返り、職員に「すまん」と声を掛けた。

 名残惜しそうなバーナードであったが、「では、失礼」と若者二人に手を振り、「また機会があれば話をしたいね」とリオンに云った。

 サンハルもアサギとリオンに、

「三階の傍聴席入り口に行ってみれば、中継モニタのある箇所を詳しく教えて貰えると思うよ」

 と教えて、バーナードと共に奥へ去って行った。

 リオンが軽く「バイバイ」と云うふうに軽く手を振り、アサギに向き直る。――彼が微笑を浮かべていたので、

「どうしたの」

 と、まず問うた。それから「取りあえず三階に行ってみようか」と階段の方向へ顔を向けた。

 歩きながらアサギへ「何で笑ってんの」とリオンが再び訊ねると、

「〝職人〟気質って、当人には直ぐに解るものなんですね。サヴァナが共通点っていうより、そっちでピンと来てたんじゃないですか? ――なんか、そういうのって、良いなあ……って。漠然と、思って」

 先ほど感じていたことをアサギが云うと、リオンが「あ~」と声を出した。

「そうなのかなあ…? ――でも、サンハルさんは兎も角、あんた、緊張はしなかったの? イムファルさん曰く、すんごい力量の〈土〉の()()()()なんだろ、あの人。怖くなかった?」

 自分がサンハルを目の前にすると意味も無く緊張するように、〈水〉のアサギは、〈土〉だというバーナードを目の前にして緊張はしなかったのだろうか?

 アサギは目をぱちくりとさせ、「そういえばそうですね」と小首を傾げた。

「僕も、初対面の意識はあるけど、そこまで緊張はしなかった…ですね。タオ先生とそんなに雰囲気が違わなかったからかな? 〈土〉の〈マスター〉って、そういう性質(ところ)があるのかな…?」

 先ほどの時間と感覚を思い出して、アサギが独り言の口調で云う。

「僕は、どっちか云うと〈土〉の〈友〉の人のほうが、少し、苦手意識出てくる感覚があります、〈マスター〉のほうが――それが薄いような。威厳は伝わってるけど、威圧感は無いっていうか……畏敬は感じても、恐怖は無い、っていうか。勿論、それが〈敵〉だったら、どうなのか判らない……けど」

「――えっ、そうなんだ」

 リオンが少し驚いたふうに目を見開いた。自分はサンハルに対して、どんなに親しくなって馴染んでも、なかなか拭えない「緊張感」がある。それが「畏敬の念」「威厳」から来るものだとは分かっているけれども――〈水〉のアサギが、〈土〉のマスターに対して「威圧感」「恐れ」を感じないというのは、意外なことだった。

 アサギが何か思いついた顔をした。

「あ――イムファルさんが仰ってましたが、〈土〉が、極まった『静』『安定』というのが、其処に顕れるのかもしれませんね。〈友〉の人はまだ、その域に至っていないから、僕は苦手意識が出てくるっていうことかも……」

「……ああ、成る程」

 納得、というふうにリオンが手を叩き、大きく頷いた。

「そう云われてみれば、俺も――、タオに、それにさっきのバーナードさんに、ほんの少しでも『優越感』みたいなのは感じなかったんだよな。今までは、余りに()()()()()〈マスター〉だからかと思ってたけど、それだけじゃないのかもって気がしてきた」

 ()()()()()()()()〈マスター〉だから、という理由だけなら、「でもまだ負けている訳ではない」という――「対抗心」くらいは湧いてきても良いのだが、タオやバーナードには、それすら感じなかった。

 タオが「凄い力量のマスターである」ことは解っているから、それに対して「挑みたくなる」感覚はある。しかし、実のところ、()()()()()()()()()()()()()()()()、あくまで自己満足のためだけに挑んでいる――というか……。

 イムファルは〝有と無〟で云えば〈土〉は〝有〟の極みだと云っていたのに、まるで――、()()()()()()()かのように「手応えが無い」という感覚だろうか。何と云えば良いだろう……此方がどんな敵意をぶつけようが全く動じない、全て()()()()()()()()()()()()()かのような。「まだ負けていない」という感覚すら湧いてこないのは、()()()()()()()そのものが、意味の無いものに思えてくるから……か?

「極まった静――安定……か」

 リオンが呟くと、アサギも小さく頷きながら、そのまま足下を眺めて、彼と同じように呟く口調で云った。

「自分が今立っている〝地〟の、〈マスター〉なんですものね。理屈の上での〝相克〟や、敵味方とか勝負とか、そういうものを超越した部分で、『敵う訳が無い』――と、無意識に脱帽しているのかもしれません」

「……かもな」

 アサギの言葉に、リオンは素直に頷いた。だが、軽く首を振って、「でも」と云った。

「俺は、〈風〉だから――、()()()()すると、先が無いんだよな」

「え?」

 リオンがニッとアサギに笑いかける。

「星――〝地〟そのもののマスターであるタオとかバーナードさん本人に、勝ちたいって気分がある訳じゃあないんだけど、空――〈風〉は、それを()()()()()、やはり無くてはならない大気だから……、『敵う訳が無い』と完全に思ってしまう訳にはいかないんだよな。――なんか、燃えてきたぞ、俺」

 グッと握り拳を作って、リオンがそんなことを云った。

「〈マスター〉のフーコーさんは、タオに結構グイグイ行くもんな。俺も、無意識に脱帽はしてても、『対等』にはなれるのかもしれない。タオとかバーナードさんと〝ガチ〟でケンカ出来るくらいの〈風〉の〈マスター〉になれたら――『タケさん』みたいな親方になれたら、今度はどんな気分がするんだろうな」

 わくわくとした声でほぼ独り言を云うリオンに、アサギがにっこりと笑みを浮かべた。


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