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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day2】学習の日(1)午前:討論、講義、説諭
56/93

【day2】(1)-[6]-(4)

「無論、それでも『アリバイ』の点で、君達――アエラ、ルナール、イムファルが例に挙げた偉大なる〈土〉のマスター達、そして俺は、()()()()()()。が、それ以外に犯罪が可能だった『魔術士』は――ごまんと、とは云わないが、()()()()()()()()

「――」

「……自分(サウザー)とその同盟の『濡れ衣』を晴らしたいがためだけに、()()()()()を容疑から外しちまっちゃ()()()()()()るし、向こうに外させるのも()()()なんだからな。――魔術士に出来るんなら『常人』にも出来た筈だ、『常人』に出来ないんなら魔術士にも出来ない。現段階で疑わしきは『常人』も魔術士も一対一、どっちかが零ならどっちも零。小学校からやり直して〈魔術〉の造詣深めて貰う必要は無いのさ、CFCに悟って貰わなきゃならんのは、そっちだ」

 やれやれ、と云うふうにタオは首を振った。

()()()、『密室殺人――と自分がそう思っただけの状況――を、いきなり魔術のせいにする』ような思考回路(あたま)の人間とは議論出来ん、俺はそう云った。俺の中でそれは結局、たった今まで、全く変化せんかったよ」

 イムファルとルナールが神妙に頷いている。フーコーは、ふて腐れた顔で口を尖らせながら「そうね」と返答したが――ふと、訝しげに目を細めた。タオは立ったまま、机に置いていたボウガンからの報告書を手に取り、それを眺めていた。その横顔に、何だか……妙な笑みが横切った気がする、何か思い出したような、あるいは思いついたような。

 タオが顔を上げて三人の方へ向く。

「よって――もし本当にCFCへ返答するつもりならば、先に云った二つを、そのまま云え。――くれぐれも口を滑らすなよ。ボウガンからの報告書にあることは、『捜査組織が敢えて非公開にしている現場の状況』と同じなんだから」

「……もう完全に無視してた方が良いかもね、イムファルさん」

 フーコーが首を伸ばしてルナール越しに云うと、そうですね、とイムファルも頷いた。

「万が一にも『語るに落ちる』ようなことになっては、話がややこしくなってしまいます」

 ふっとタオは笑い、執務椅子に再び戻った。

 ――「説諭」する位置として座っていた場所(ソファ)から、本来の執務椅子に戻ったことで「これで終わり」と云いたげに見えた。が、ルナールが少し迷うような顔を見せた後で「タオ師」と声を掛けた。

「なんだい」

「あの……、では、先ほどアサギ君から云われましたけど、この『説諭』に関しては……、あの二人にも伝えておくべきですか? 若手への講義と思ったらあれで構わないと仰せでしたが、今のお話は――」

「ああ……」

 タオは髭を扱きながら何か考える顔をした後で、曖昧な首の傾げ方をした。

()()()には……、市長と党首室、CFCとの関わりについてはわざわざ云う必要は無いよ。彼らへの()()――、あれは、『本当に党首室が完全なる密室であった場合』に、魔術士に何が出来て何が出来ないか、彼らがまだ知らなかったことを知ることが出来た、そういう意味でつくづく有意義だったからな、ちょっと順番が違っただけ」

「はあ……」

「しかし、()()()()、そういう順番間違いをしてはいけない、順番を間違ったせいで大事なところを飛ばしてしまう、そうした()()()()()()()()()()()()()()()()()からな――少し『大局的な心得』としては教えてやった方が良いかもしらんね。特にアサギは『フリュスの者』としての自覚が、あるようだから」

 ――地元に帰れば「フリュスというお家」の一員として「フリュス村の幹部」で()()()()()()()()()アサギだ。その自覚が、若くても、また自信はなさげでも、ちゃんとある。ならば、

「君達が今()()()()ような間違いを、彼がしてはいけないからね」とタオは云った。

 恥ずかしげに目を伏せた後で、ルナールは「分かりました」と頷いた。

「他に何か質問は? ――よし、じゃあ今度こそ終了だ。それぞれ持ち場に戻りなさい。それか少し休憩するんだな、午後からはまた『イベント』があるぞ」

 おどけた声で領主が云って、部下は苦笑しつつ立ち上がり、ペコリと頭を下げた。

 「申し訳ありませんでした」「ありがとうございます」「失礼します」「それでは後ほど会議で」そう云いながらイムファルとルナールが扉を出て行った――が、フーコーだけは、何だか渋い顔をして残った。

 再び書類に目を通し始めたタオの顔、額辺りを、正面から見下ろしている。



「……どうした、アエラ?」

 うん?と顔を上げて、タオが首を傾げた。

「君も会議には出席するだろう、準備と、昼飯を済ませなきゃ。――まだ『ケンカ』したいネタがあんのか?」

「タオさん。――さっき、何だか、気になったんだけど」

 軽口を無視し、腕を組んで、フーコーは首を傾げて見せた。表情は何だか――やはり険しい。

「さっき、何か――思いついたような顔、しなかった?」

「はん?」

「『良いこと思いついた』って――子供が悪戯をする前のような顔、したでしょう。本気でニヤニヤしてるだけじゃなく――少し緊張が混じってる笑い方」

 タオは、ハッキリそれと解る苦笑を見せた後で、ごしごしと頬を擦った。

「そんな顔してたか? というか、そういう表情は多分、自覚して出るようなものじゃないだろ、訊かれても分からん」

「学生時代――、『呪文構造論スペル・ストラクチャー』の討論型試験で教授を完膚無きまでに論破した時――その前の、控え室でそういう顔してたのよ。何を思いついたの? 誰にも考えつかないような、突飛な『市長の殺害方法』でも思いついたんじゃないの?」

「また自分じゃ思い出せないような懐かしい話を出すもんだな。それに、俺はそんな物騒な『方法』なんか考えたことないよ」

 タオは肩を竦めた。()()()()()()ように見えるタオへフーコーは目を細め、――苛立った小言口調ではなく、真摯に問うた。

「じゃ、もう少し具体的に質問するわね。これは〈魔術士〉として、『先輩』に個人的に訊いてみたいの。タオさん――〈常人〉と〈魔術士〉の疑わしきが一対一、それは良いとして、よ。どっちかが零ならどっちも零――()()()()()()()()()()、どういうことになるの?」

「――」

 ()()の質問に、まずタオは――にッと口角を上げた。

「偉いな、アエラ。そこに気付いた。イムファルとルナールは、気付いてないのかな、気付いてても訊こうとしなかったのかな?」

「――私が『遠慮知らず』って仰ってるんなら、『ええ、そうですよ』と開き直るわ。どうなの。まさか、『ならば〝犯人は居ない〟と考えるのが合理的』――なんて、仰らないわよね。明らかにそれは考えられないから、わざわざアサギ君とリオン君にも確認しなかったのよ――どう()()()()考えても『自殺』や『事故』ではあり得ない、それだけは、今の段階で既に()()()()()でしょう?」

「……そうか?」

 タオは口角を上げたまま、とぼけた声を出してフーコーに首を傾げてみせた。フーコーが目を細める。

「まさか、本当に〝犯人が居ない〟なんて、思ってらっしゃらないわよね?」

「繰り返すけどな、アエラ」

 笑みを苦笑に変えてタオが軽く首を振る。

「イムファルとルナールの前では省略したけども。()()()()()()()()()()()()が行われていない以上、それだってまだ『否定』はしちゃいかんのだよ?」

「……?」

「リオンとアサギには純粋に〈術〉の解説をしていた訳だが、その中で君らも云っただろ。『死んでから斬る』のならば、まだあり得る、というふうなことをさ。――今の段階では、それを否定しきれないから、そう、()()()()()()()()()かもしれない。違うか?」

 タオの言葉に、そういうことかとフーコーは溜息をつき、ゆるゆると首を振った。

「つまり、市長の死因自体は、例えば心筋梗塞なり脳溢血なりの『病死』……もしや『自殺』もあり得なくはない、居るのは、その後『斬った者』だけなのかもしれないと? 居るとすれば、殺人でなく遺体損壊の『犯人』かも、って?」

「そういうことだ。そのどちらなのかを証明出来る者――『検屍』の()()()が遺体を見てはいないんだから、それもやはり合理的説明がなされていない状態ってことだよ。UCFC大統領、アスール幹事長、そしてボウガンはその専門家じゃない」

 タオの言葉にフーコーは肩を竦めた。少しばかり嫌味な口調で、「グイグイ先に行くかと思えば、たまに相当慎重なんですからね」と云った後で、表情を引き締めた。

 そして机に載せた手、腕に一層力を込め、身を乗り出す。

「じゃあ、それはそれでも良いわ、タオさん。まだ生きてるうちだったのか死んでからだったのかは()()()()()()、『斬った犯人』のことを私は云ってるんですから。これ以上、()()()()()()()()()

「――」

「……もしかしてタオさんは、――想像してるんじゃないの、一般人でも魔術士でもない『犯人』」

 タオが薄笑いを浮かべたまま、身を乗り出し、顔を近づけてくるフーコーへ小首を傾げてみせた。

「そこまで云うんなら、君もある程度、想像してるんじゃないのか?」

「――()()()から出てきた化け物がやった……、その可能性を――考えてる?」

 フーコーが頷いて、囁くような声で云う。

 するとタオはからかうような笑みを見せ、

「君、『この世の理屈で何とかなる話をしに来た』って最初に云わなかったか」

 そんなことを云った。フーコーは軽く眉を寄せる。

「さっきは、あくまで『職務上』で云ったんじゃないの。今は魔術士でもある()が『個人的(パイセン)』に訊いてるのよ。――どうなの、タオさん。あなた――もしかしてその可能性を一番考えてるのじゃありませんこと?」

 タオは是とも否とも云わず、真意の計り知れない笑みを浮かべている。ただ、やはりさっきまでと同様に、フーコーへ釘を刺す内容の言葉を発した。

「アエラ。――それも今のところ、比重としては『同じ』だ」

「えっ……?」

 身を乗り出していたフーコーが、不意を突かれたように背を伸ばす。

「『犯人』の可能性は数値(わりあい)として同じ。一般人対魔術士、対()()()、その疑わしさは一対一対一。『一般人対魔術士が零対零だから、化け物が犯人』って理屈にはならないんだよ。いいか、アエラ、俺が云いたいのは()()()それだ――『化け物の仕業と思いたい』、そんな気持ちがあるなら、それは必ず消せ」

「……」

「今自分が『分からないこと』の原因を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のは、『魔術士の仕業』にしたがってるCFCと変わらん。自分の理解が及ばない『良いこと』の原因は『神』の一言で、悪いことなら『悪魔』の一言で終わらせるイー・ルとも変わらん。解らないなら()()()()()()を受け入れるだけで良い。それが嫌なら解るまで追求すれば良い。ただそれだけの話なのに、最初からその努力を諦めた者、とりわけ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そんなのと()()()()に立つんじゃない」

「――ええ」

 フーコーは力強く頷き、キュッと唇を引き締めた。そんな彼女に、タオが軽く肩を竦めてみせた。

「それになあ、アエラ。――市長を()()()()犯人が『誰なのか』を追求する必要性は、全く無いんだぞ? サウザー(こちら)としては今んとこ、それが誰だろうが()()()()()()()()()んだから。比率が一対一対一っていうのも、そもそも忘れて一向に構わんのだよ?」

「あ……ああ、はい。それは、そうなのよね――」

 タオは、「()()()()()()()と思う必要は無い、それが『無駄』なのだ」と云っている。「先輩」から、「集中するあまり脱線する」悪い癖を再び指摘されたように思い、フーコーは軽く頭を掻いた。

「俺は、会議の後、『俺が知る理』に無いのかもしれない謎に取り組みたい。そこで市長を斬った犯人が誰なのかも、もしや分かるのかもしれないが、今は――君達には、『この次元の理』だけで何とかなる仕事を預けておきたいんだから、そのつもりで働いてくれよ。同じ土俵に立つことは無いが、『〈魔術士〉にしか解らない理』でCFCの相手もしないよう気をつけろ。そういうのって結局、()()が一番()()()()()()から、ケンカ売ってくるんだ」

「分かりました」

 フーコーは苦笑を浮かべて頷き、やっと「それでは」と頭を下げて執務室を出て行った。

 扉が閉まるのを見届けて、タオはまた、ボウガンの「検屍」報告に目を向けた。――薄笑いはもう完全に消えた。だが、目の光はやたらとキラキラしている。


【day2】 学習の日

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