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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day2】学習の日(1)午前:討論、講義、説諭
53/97

【day2】(1)-[6]-(1)


 イムファルが慌てた声を出す。ルナールとフーコーも、困った顔をしたり、執務机に手を乗せて領主の方へ身を乗り出したりした。

「何か、間違いがありましたか、ご指摘くだされば良いのに――」

「どういうことよ、何か問題があった? タオさん」

「……いいや、()()()()()()()()()()()()だと思ったら、問題は無い。――リオン、アサギ。なかなか濃密な臨時講義だったろう、特にイムファルの『象徴論』は、君達に随分新鮮だったようだな。勉強になったか?」

「それは……まあ……」

 意地の悪い笑みを見せたまま、タオはイムファルとフーコーにあっさりとした口調で云い、それから大げさに首を伸ばして、若者二人の方へ顔を向けた。リオンとアサギは「うん」と頷きつつも、戸惑った顔を見合わせている。

「そうだ、リオン。前後したが、()()()()()()()それを行う理由として出した『手見せ』の発想も、()()()()()()()ぞ。そういう発想は君だからこそ出てきたのだろうな、サウザーの魔術士にはなかなか出てこない、素晴らしい。――彼の発想を引き出したという点でも、有意義であり充実した()()()()だった」

 ――褒められても、直ぐに喜べない。リオンは「そりゃどうも…」と云いつつも戸惑っていたし、幹部達も顔を見合わせて首を傾げ合う。

「じゃあ、私たち、何を『説諭』されるのよ」

 フーコーがふて腐れた口調で問い詰めると、タオは相変わらず薄笑いを浮かべている。

「魔術士の先達、あるいは魔術の研究者が若手魔術士へ教授する内容としては、今ので構わんかった。が、俺の部下、サウザー領の幹部が『今の本題』の考察、整理をしていると思ったら、大きな穴が空いていた。……本当ならボウガン君にも同じ説教するべきだが――ただでさえ危険な諜報活動で、ここまで突っ込んだ『検屍』までやってくれた上、勇気を持って泣き言を云ってきたんだから……それは酷というものだろうな」

「……」

 薄笑いを浮かべたまま、タオは書類を見下ろして云った。三人の幹部は困った顔を見合わせる。

 と、そこで執務室のドアが「こんこん」と音を立て、その後

「俺だ」

 とサンハルの声がした。タオが「どうぞ」と云うと、直ぐにドアが開く。当然のことながらサンハルが姿を見せ、

「何だ! 全員ここに居るじゃないか!」

 呆れたような声でそんなことを云った。

 サンハルは室内に入って執務机に近づく。ソファの横を通ったので、アサギとリオンがぺこっと軽く頭を下げた。

「一体、何やってるんだ? 道すがら、おまえらそれぞれを見なかったかって、何人も訊かれたぞ。ちなみに俺が此処に来た最初の理由は、アサギ君とリオン君を探して、なんだが」

 イムファルとフーコー、ルナールを一人ずつ指さし、最後にサンハルはソファの二人を振り返った。

 アサギとリオンが慌てて立ち上がり、「何でしょう」「何スか」と同時に声を出す。

「……。フリュスとサヴァナから〈通信〉が入った。――まあ、折り返しでも良いとのことだから、そんなに急ぎではなさそうだが……」

 急に緊張を見せた二人に、サンハルが苦笑してそう云った。今、執務室に漂っている雰囲気からして、どうも「直ぐに戻れ」とは云い難かった。タオも肩を竦め、

「結局、君達からの用件を聞かないままだったな。どうするね、()()したいか? それとも、君達の用件が実は一言で終わるものだったんなら、今聞いておこうかな」と首を傾げてみせる。

 アサギとリオンは戸惑いの表情を見合わせてから

「一言でっていうか……、あの、この後が立て込むのでしょうから、それはまた後で結構です、けど…」

「何かその……俺らに色々教えてくれたせいで、お三方が何か怒られると思ったら、居なきゃいけない気がすんだけど……」

 普段ならハキハキと思ったことを云うリオンすらも、口ごもって困ったように頭を掻いている。

 「お三方」は三名とも苦笑し、首を振ったり手を振ったりした。

「君達が気にすることは無い、タオ様は、()()()()()()()()()()問題が無かったと仰ったんだから」

「そうよ。私たちの『講義』を、貴方方が『有意義だった』と思ってくれたのなら、それだけで良いわ」

 イムファルとルナールがそう云うと、フーコーが最後に、

「これからは『大人の時間』ってことだわね」

 そんなことをおどけた口調で云って、アサギとリオンを促すように、手を扉の方へ差し出した。

 リオンがそこで笑みを見せ、

「まだ陽が高いよ、フーコーさん」

 そんなことをからかう口調で云う。

 アサギは少し申し訳なさそうな口調で、

「あの……、それじゃあ、宜しければ、後でお話を聞かせて貰えますか? 『幹部として』ってことなら、僕も……『フリュス』の者として、その辺りも、学ぶべきことがあるので……、もしかして、今何かを誤解してるとマズイし…」

 三人の内誰にともなくそう云った。ルナールが代表して「ええ、必要でしたらね」と頷いてみせる。

 それじゃあ失礼します、と若者二人が執務室を出て行く。

 扉が閉まるのを見届けてからサンハルが、

「一体何事だ、雁首揃えて領主室に閉じこもって。――おい、もしやソレ、朝飯のワゴンか」

 首を傾げた後、執務机の脇にあるワゴンを指した。

「何してたから、まだ朝飯の皿も片付けてないんだ」

「まあ色々と。――で、今から私たちは説諭されるらしいの、サンハルさん」

 呆れた声で云ったサンハルにフーコーが肩を竦めてみせると、当然のことながらサンハルが「説諭だと?」と驚きの声を出し、イムファルとルナールにも視線を向けた。

 最終的にサンハルはタオに目を向け、

「おいおい……。一体何があった」

()()()()()。議論が深まった末のことだから、君が今から混じるとまたややこしい。説明を求めないでくれ」

 タオがフーコーの台詞を飄々と繰り返すと、サンハルは再び呆れた顔をして大げさに溜息をついた。

「……会議があるのは分かってるんだろうな、ルナールとフーコーも出席するんだぞ。その後じゃいかんのか、子供じゃないんだから、()()()()()()()()()()()解らないってことも無いだろうに」

「イカンのじゃないかなあ。俺は会議終了次第、()()()に出来る限り集中したいんだよな。君達はどうだい、後でお説教が待ってると思いながら職務や会議に集中出来るか?」

 タオが三人に視線を巡らせる。三人とも小首を傾げて、是とも非とも云いがたい顔だ――いや、フーコーだけは何だかふて腐れて「いいえ」と直ぐに首を振った。

「タオさんが何を云いたいのかちゃんと聞いておかないと、私、()()()()()()()()もの。きっと、会議中イライラしてソワソワしてしまうわ。そして出席したユピタ=バルムの大使か誰かから『何だあの態度は』って云われるのよ――いえ、違うわね、中継見てた大伯母から、お説教が飛んでくるんだわ。だったら今のうちにタオさんからの『説諭』を受け入れる方が望むところよ」

「……。()()()は、説諭を受けると云うより、君と『ケンカ』したいみたいだな」

 サンハルがタオに苦笑いを見せ、フーコーはふて腐れて口を尖らせた。

 サンハルは笑みを直ぐに消して情報部長へ、

「イムファル、君は午後からマッシオと交替する筈じゃなかったのか。引継は良いのか?」

「……情報室内での業務引継という意味でしたら、グロウとやって貰った方が良いでしょう。――私は本当に、ずっとここに居りましたので――。宜しければ、サンハル隊長、マッシオに直接現況報告をするよう、グロウへ伝言をお願い出来ますか。私も、交替と云いますか、後ほど報告書に目を通しますので」

 イムファルが恐縮そうにサンハルへ云うと、タオが苦笑し、「結局、君の休憩を遅らせる流れになったようだな」などと呟いた。

 サンハルは「まあ、それは構わんが……」とイムファルに云ってから、ルナールへ目を向ける。彼女は頬に手を当てて首を傾げ、

「実は――、わたくし、執務室(こちら)へ伺った本題がまだなんです。それは会議の前に、タオ師へ確認させて頂きたかったことなので……」

 そんなことを云う。サンハルは呆れて、大げさに「はあ?」と口を開けた。タオが「ああ、そういやそうだったなあ」と悪びれることも無く呟く。

 はああ、と大きな溜息をついて、サンハルはワゴンに手を伸ばした。

「おまえら、昼飯のことは、さては考えてないな……。配膳に来る職員も気詰まりになるだろう、おまえ達の昼食は云われてから準備すればいいと、俺が云っといても構わないな?」

 サンハルが随分と丁寧に、云って含めるような声を出すと、全員がコクリと頷いた。

 再びサンハルは息を吐き、

「会議にだけは遅れるなよ、タオ、君自身が招集したんだからな」

 からからとワゴンを引き寄せつつ、そう釘を刺して扉に近寄った。「分かってるよ」と笑ってタオは手を振った。



 ――扉が閉まってから、タオが「さて」とまずルナールを見上げる。

「今云っていた、君の本題を先に聞こうか。時間が掛かるか?」

()()()()()()()、より詳細に詰めたかったのですけど」

 ルナールも少々恨めしげな声を出してそう云った。タオが「そうかい」と軽く応じ、

()()()()()()済ませようか、なんだい」

「……。――会議のことですが」

 ルナールもサンハルのように溜息をついてから続けた。

「昨日の報告と、今後の方針をタオ様が述べるため――と仰ってましたが、それはどの程度のところまで」

「はん?」

 タオが首を傾げると、ルナールは淡々と「幹部」としての表情、声色で云った。

「――私を領主代理に指名するということも正式に仰るつもりなのでしょうが、他に――政務全般について、細かいことはタオ様が仰せになるんでしょうか。もし、詳細はまた後で……ということでしたら、私から引き続き、会議を続けるようにしても宜しいでしょうか、あるいは、後日また、議会を招集しても、構いませんか?」

「ええと、どういう意味かな」

「政務の具体的な部分です。領民の避難形態については昨夜の広報で仰っていましたが、それ以外――タオ様が領主の職からある程度離れて、『黒い筋』の研究に集中すると仰るのならば、それはそれで……領内の政の比重も変わってきますでしょう? 領本部(しろ)で行うべきことと、各国自治に任せることと――」

「比重が変わるって……そんな大きな変化をさせるつもりじゃ困るぞ?」

 タオが眉を顰めると、ルナールが首を振る。

「私が領主としての職務、本部の役割担当を()()したいって云ってる訳じゃございません、タオ師。じゃあ、はっきり申しますよ。『黒い筋』の解明に集中するにあたり、()()()()貴方様が、魔術士隊詰め所や研究機関へ入り浸ったり、魔術士と会議を繰り返したりするようになる()()じゃ、ありませんよね?」

「……」

「実際に『黒い筋』が顕れた場所へ観察や偵察に行くこともありましょうし、そのために魔術士を選抜して派遣したりもなさるんじゃないですか? まさか貴方お一人が巡回なさったりしませんわよね――幾らタオ師がそのつもりでも流石に幹部と職員が一致団結して許しませんわ、護衛数名は付けて貰いませんと――。となれば、〈軍〉の隊編成も修正が必要ですし、それはサンハル隊長や元帥各位にお任せするとしても、――内政としては()()()()()()()、『予算編成が必要ですよね』?」

「あ、ああ……」

 ルナールが執務机に手をついて、若干身を乗り出しつつ云う。――小言口調になりがちなフーコーに対し、ルナールはあくまで淡々と詰め寄る。「そういうことは考えていらっしゃらなかったのでは?」という非難が裏にうっすら見えるので、後ろめたくて、タオは「そうだね」と身を引きながら頷いた。

「タオ師が『黒い筋』の解明に際して、各国・各自治体の協力もお求めになるのでしたら、そのための、法的整合性についても議論が必要でしょう? ――ですから、そうした具体的な会議を、タオ師の所信表明の後、引き続き行っても良いものかを伺いたかったんです。タオ様は各首長やその代理を招集されましたから、本来のサウザー領議会議員が揃っているとは限りませんので――後日、改めての方が宜しいでしょうか?」

「……。昨日は随分自信がなさそうだったのに、なかなか切り替わりが良いな、ラルナーラ。その調子だ」

 タオが苦笑して頷きを見せる。それから

「そうだね、ちゃんとした会議の場を設けなくてはなるまい。が、今日の会議から引き続きってのは、……性急かもしれんな、第一、時間の都合と、体力が保たないだろう、皆。張り切ってそのまま会議して構わんってのも、人によっちゃあ居るだろうがなあ……。今のところは、『そういう感じ』になるからってことで、一旦、各国各自治体へ案件を持ち帰ってもらい、それぞれの決議を持ち寄って領の方針を決めていくことにしようか…。――それは、俺が云うよ、君が云わなくても。総議会の日程は事務局で調整して貰おう」

「――畏まりました」

 ルナールは大きく頷き、背を伸ばして、スカートの前で手を重ねた。――彼女の「本題」は終わったようだ。

 タオがニッと笑って、三人に、

「じゃ、こっちの本題に入ろうか。覚悟は良いか?」

 そう云うと、イムファルとルナールはグッと息を飲み、フーコーは眉を寄せて口をへの字にした。

「立ちっぱなしもなんだ、三人ともかけなさい」

 タオは執務椅子から立ち上がって、先ほどアサギとリオンが使っていたソファを指した。


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