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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day2】学習の日(1)午前:討論、講義、説諭
51/93

【day2】(1)-[5]-(4)

「そう云うと、ただの感傷になってしまうな。私個人としては『それは無いだろう』と思っているが、断言は今、してはいけない、というか」

「じゃあ、他と同様、『理屈としては』くらいでも、『出来なくはない』――可能性はあると?」

 アサギもそう云って首を傾げた。

 イムファルは、「そっちをハッキリ云うことも、私自身には出来ないけどね」と苦笑した。

「私は実践者ではないから――タオ様には今、それを説明する気が無いようだし――」

 ちらりとタオに目線を向けてから、イムファルが続ける。

「しかし私にも、――〈土〉の術式に『攻撃系』のものが全く無い訳ではない、とは云える。だからこそ、今の段階で〈土〉の術士を『容疑者』から外すのは()()()だ、とも云わなきゃいけない」

 イムファルは、ギュッと拳を作ってから、何かを摘む動作をしてみせた――先ほどルナールが〈氷の礫〉を作ってみせたのと同様の仕草だが、そこに「小石」は無い。

「先の例に出した『礫』だって、別に『攻撃に使ってはいけない』という禁忌(ルール)になっている訳でもない。何度も云うが、攻撃に使うことを前提とする()()では〈土〉の術士としての存在が危うい――のかもしれない――ということだけでね」

「……そんなことは()()()()思い浮かばず、『とっさに砂を掴んで投げつける』方が、〈土〉の()()()としては余程『正しい』って……ことなんスね?」

 確認するようにリオンが云うと、イムファルが「そうだ」と大きく頷く。

「だからこそ、〈土〉の術士に、『礫を攻撃に使うな』という禁忌(ルール)()()()()必要無い。しかし、ルールが無いんだから、別に使()()()()()()()()のはそうなんだ。ついでに云っておけば『罰』も無い。これは、人が作る『法律』の意味ではないよ、勿論」

「『礫』の術を攻撃に使ったからと云って、〈地精〉が()()()()()()訳ではない――魔術士でなくなる訳ではない、そういう意味(こと)ですか?」

 今度はアサギが確認し、再びイムファルが「そう」と頷く。

「砂を石にする――その術自体が初歩的なものだとしても、それを『不殺』という志の下、しかし『攻撃』に使おうとするならば、ここで――操作や制御(コントロール)の力量が問われることになる。仮に〈軍〉司令官が、『微調整(コントロール)』のまだ危うい魔術士隊員へ、『礫』を攻撃に使うよう命じることがあっては、『術士には殺すつもりがなかったのに敵を死なせてしまった』、そんなことが起きる危険性がある。それは、いくら〈地精〉がそっぽを向くことが無いとしても、術士本人には相当の精神的な衝撃(ショック)であり、生涯のトラウマとなりかねない」

「――」

「この場合――術士の将来をも潰してしまうという点で、力量を把握していなかった・量れなかった()()()()重大なミスだ。サウザーではそう判断される――よって、〈土〉の術士を使()()立場にある者も、『〈土〉の術士を如何に攻撃に参加()()()()ようにするか』という心積もりを、基本(ベース)に持っていなくてはならないのだが――」

 コインを指で弾く仕草で架空の石を何処かに飛ばしてから、イムファルは表情を引き締めた。

「――それでいて、〈土〉の術式のうち、明確、正式に『攻撃術式』とされているものも確かに存在する。つまりそれは、〈土〉の『攻撃術式』を行使するのならば()()()()()()が求められる、ということだ。同時に、『不殺』が基本(ベーシック)であるはずの〈土〉の術士が、それを覆さなくてはならないほどの『攻撃性』を求められる状況に立つなら、()()()()()も必要とされる」

「――〈土〉の術士が『市長を殺した』のだとすれば、それは……確実に〈マスター〉格の者、と……?」

 アサギが、恐る恐るという声でそう云うと、イムファルは一つ、大きく息を吐いた後で、「そう云っていいだろうと思う」と答えた。

「市長の死に様――即ち、『真っ二つ』という状態を〈土〉の術で()()()とするなら、候補は一つだけ挙がる――私にはそれしか思い浮かばない、ということなんだけどね」

「あることは、あるんだ……」

 リオンが息を吐きながら呟くと、イムファルがこくりと頷く。が、それを教えるより先に前置きをした。

「しかし、二人とも大体想像はついていると思うけども、今云っていた()()()()()()を作ることが本当に『可能』なのか――『それは果たして?』、というところだ。もう先に納得しておいてくれ」

 イムファルが肩を竦めると、アサギとリオンも苦笑を浮かべた。けふん、と咳払いをして声色を真面目なものにし、イムファルが続きを話し始める。

「〈土〉の術にも、〈風〉や〈水〉と同様、『刃』と名に付く術が正式に存在する。〈金剛石の刃〉――と云う」

「金剛石――ダイヤモンド?」

 リオンが目を見開いて疑問調の声を発したが、イムファルはそれに対して返答をせず、

「〈刃〉とハッキリ云っているのだから、当然『斬る』ことを主に目的とする術だ。だから、『真っ二つ』という()()()()()ことだけなら――可能、と云っても良いだろう。〈火〉よりは余程に()()()()

 そう云った。アサギが首を傾げて真面目な――如何にも教室で生徒が先生に質問するような――声で問う。

「〈水〉の〈凍結〉で『割る』方法や、〈火〉の――『細胞の水を蒸発させる』というような、実際斬った訳では無いけど結果的にそう見える、っていう感じの方法は、〈土〉には無い。そう思っても良いのですか?」

「そうだね。術式の体系論や総目録をさっきから思い出してみているんだが、〈土〉では、そうした――間接的な方法というのは、無い……と思う」

「〝肉体〟を象徴ってんなら、ダイレクトに細胞をどうにかする方法もありそうなもんだけど……」

 今度はリオンが小首を傾げて呟いた。イムファルは苦笑して、それには軽く首を振る。

「それは、『概念』が〈術〉に、ダイレクトに反映されてる訳では無いからさ。『細胞をどうにかする術』っていうのは、存在しないね。ただ、()()()()()()〈術〉で細胞をどうにかする〝方法〟――『応用』となると()()()()()()のかもしれないが、それは術士でない私には本当に思いつかない訳で……」

 そこでイムファルが恨めしげな視線をタオに向けると――タオは、それに気付いて顔を上げ、苦笑を見せた。

「流石に俺が云った方が良いのか? この流れだと」

 タオがそう云うと、イムファルよりもリオンが口を尖らせつつ「そうだよ」と返した。

「イムファルさんは余計なプレッシャー感じてるだろうし、俺達も何か、もやもやしちゃうよ」

「……。()()()()()、今の話の流れで云うなら、〈金剛石の刃〉より他に無いと()()()()()

 タオはやはり苦笑を浮かべたまま、何だか煮え切らないことを云った。またリオンが「ぶう」と口を尖らせ、イムファルも、

「私の言葉に足りないところがあり、それが若者に『間違い』を吹き込むことになるのならば、タオ様から解説をお願い致したいのですが」

 そう云った。――だが、タオはやはり手を振って、「いや、今のところはそれで良い」と云う。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()解説や講義だと思ったら、イムファル、君の言葉に不足も誤りも無いから続けてくれ。――君自身が、()()()()()()()()()()()()()、どんな半端なところであろうと止めれば良い」

「――。分かりました」

 「続けてくれ」とは依頼――イムファルからすれば軽い()()である。溜息混じりに彼は頷いた。傍らでフーコーやルナールも「やれやれ」と肩を竦めたり小首を傾げたりしている。

 タオは、薄く笑っていた顔を再び、書類に向けた――。

「〈金剛石の刃〉は、同じ()()が付いているが〈水〉〈風〉の『刃』と違い――かなりの力量を持った者にだけ使える術だ。アサギ君が云ったように、〈マスター〉格である方にしか、そもそも会得できない、と断言して良い。また、会得出来てもそれを使()()には、技術の研鑽が必要であるし相当の精神力や経験も必要だ」

「それこそ、タオみたいに……」

 リオンが独り言のように呟き、自然と執務机の方へ目を向ける。イムファルは「うむ」と厳かに頷く。

「CFCが此方を疑っていることを鑑み、()()()()()()()を根拠として敢えて、サウザー領内で『容疑者』を挙げるとすれば――片手の指で足りる」

「……。まず、タオと?」

「シンキ王国の前国王陛下――タオ様の師匠のお一人だよ。それと、中部アルクス・タウンの元町長――サウザー領全土の金工職人組合長をやったこともある人だ、君と気が合うかもしれないな、リオン君」

 リオンが「へえー」と感嘆の声を出す。イムファルはそこで、「ええと…」と迷うような声を出して目頭を摘んだ。「もう一人、女性で居られた筈だが…」と呟き、記憶を探っているらしいイムファルに――フーコーが何故か苦々しい声で、

「――もしかして、私の大伯母ではなくて? イムファルさん」

 と云った。ふん、と鼻を鳴らしながらの言葉に、イムファルが苦笑して「失礼、そうでした」と云い、ルナールも黙ってはいるが苦笑いを浮かべている。――アサギとリオンは「大伯母さんと仲が悪いのかな…」と小さな声で囁き合った。

「……その四名だ。私が把握している内で〈マスター〉というだけなら他にも居られるが、『経験』や『精神力』の点で――()()()()()()()()()のには無理があるんじゃないかと思われる。そりゃ――私が知らない、情報が古いだけで、既にその能力をお持ちの〈マスター〉が他にも居られて可笑しくはないんだけどね」

「――でも、『能力の点で挙げるとすれば』、なんですよね」

 今度はアサギが訊ねる。()()()容疑者を挙げるとすれば、の話だ。本題、この先の話は()()()()()()()()ことにある。アサギの声には何だか「懇願」するような響きが混じっていた。

 イムファルは「そう」と力強く肯んじた。

「〈金剛石の刃〉という()からアプローチしてみると……――実際のところ、本当に人一人を『真っ二つ』に出来るのか、それも密室の外から行うことは出来るのか、それは、()()君達に講義出来ることではない。が、タオ様に意見を仰がずとも、私にも解る範囲で――()()()()()()には、決定的な矛盾がある」

「というと?」

()()()()()だ」

 首を傾げたアサギに、イムファルはキッパリとそう云った。

「フーコー女史が真っ先に声を上げたのは、()()の点で最も可能性が高い――最も()()()()()()()()()()のが〈風〉だと思ったからだろう。〈風〉の〈糸〉〈刃〉は、()()()()()、何も『証拠』を残さずに『斬る』ことが可能だから。次点として、〈火〉の『蒸発』、〈水〉の『凍結後の衝撃』が来るね。『党首室に何の異状も無い』という証言に誤りや嘘が無いのならば、――そこまでが具体的な〈術〉を、考慮して良い範囲だと思う」

 イムファルが一度大きく息を吐き、それから、ゆるゆると首を振った。

「〈水〉――〈氷の刃〉なら溶けた水が残り、〈火〉による『熱の刃(レーザー)』なら匂いや煙に加え、傷そのものに痕跡が残る――それは、()()()()()()()()()()ものだから、『異状』――()()()()()()()()として認知されなくては可笑しい。が――〈金剛石の刃〉は()()()()()()()()()、もっと確実に『容疑者』を特定する手がかりになる」

「それって……、確実に凶器――〈刃〉が、市長の傍に()()()()()()()()()()()ってことッスか?」

 リオンが、少々呆れたような声色でそう云って、目を見開いた。イムファルはコクンと頷く。それから、ピッと右の人差し指を立てた。

「『概念』、象徴についてもう一つ云っておくと、〝有〟と〝無〟だと、〈土〉は〝有〟の極みだ。存在と非存在、そう云い替えるなら、〝存在〟を象徴する。それは『術』にも明確に出ていてね――。大公が二人にお見せした〈氷の礫〉は()()()()()()()()()出てきたように見えただろうが、実際には空気中に()()する、目には見えない『水』を凍らせた。アサギ君には『術』として明瞭に解ってるね」

「はい」

 アサギがこっくりと頷く。

「そして〈昇華〉によって、また空気中に()()()()()()()として戻した訳だが――基本は〈土〉でも同様だけども、もっと即物的――と云うと何だな、『目に見えて物質的』なんだよ。『〝無〟から〝有〟は生まれない』、この次元(せかい)に於けるその大原則は、〈土〉に於いて最も顕著なのだ。――つまり、〈金剛石の()〉と呼べるほどの『物体』を生じさせる――()()()()()()ならば、それとほぼ同量の体積、または同質量の、『何か』が『何処か』で()()()()()()()()()()()()()()のだ」

「……」

「砂漠の話を思い出してくれ。〈土〉の術士が『礫』を仮に作ったら、それと同じくらいの『砂』『塵』はその周辺の何処かで無くなってる筈なんだよ」

 アサギとリオンが顔を見合わせた後、アサギが一度、自分の右手を見下ろしてキュッと拳を作った。それからイムファルに訊ねる。


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