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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day2】学習の日(1)午前:討論、講義、説諭
48/95

【day2】(1)-[5]-(1)


 その後は「講義」なのだから、少々声色がシャープに、真面目なものになる。

「しかし、〈火〉について――と云っても、君達にも分かるよね? 市長の()()()は、〈火〉の術式によるものと思うには、あまりに不自然だ。()()()()と思うような死に様を、どうして〈火〉の術式で作らなきゃならない?」

 アサギがリオンに顔を向けて、「そうだよね」と小さな声で云った。リオンもアサギに大きく頷いた後で、

「どう考えたって、〈火〉の魔術士が()()()()んなら、『燃やす』のが一番簡単だよ。〈火〉に関してだけは、ド素人だってそう思うさ――CFCの大統領と党幹事長も、無意識のうちに〈火〉の術士だけは()()()から外してんじゃないかなあ」

 イムファルに向かってそう云った。イムファルも少し口元を緩め、「そうかもしれないね」と頷く。

「かと云って、考察を止めてしまうのは大公(ラルナーラ)が仰ったように()()()であるし、怠惰でもあるから、続けよう。――先ほど姫様がアサギ君へ教授なさったように、〈火〉の術式は〈水〉の術式と対称的であるが、同時に、より密な相関関係にある」

 ――それが「一番楽な喋り方」ということなのか、全く意識してのことでなく、イムファルは彼女と直接会話している訳ではない今も、ルナールを「大公」「姫」と呼んだ。フーコーがルナールに顔を向けて、微かにからかうような笑みを見せている。ルナールは苦笑して小さく肩を竦めた。

「アサギ君には既に、具体的な『技術』も含めて――自分に出来るかどうかは置いといて技の『理論』としては――、想像がついているだろうね。ラルナーラが仰った『凍結』の術を逆方向に行えば、理論上、〈火〉の術で『真っ二つ』にすることは不可能じゃない」

「はい……そういうことになりますね」

 アサギが大きく頷き、リオンも「その理屈は分かる」と云うふうに頷いた。が、アサギは異議を唱えるというよりも確認をするような声色で、首を傾げながら続けた。

「しかし、『凍結』であれば〈水〉以外の要素――細胞そのものを形成する物質も凍らせることで、衝撃で『割る』ことが可能だと思いますが、〈火〉でそれは可能でしょうか――細胞を形成する『水』の()()は可能だと思うのですけど、骨に限らず……例えば皮膚が、すっぱりと『斬れた』ようには、ならないのでは」

 イムファルは「その疑問はもっともだ」と云うふうに頷いた。

「それはやはり、サンハル隊長のように〈マスター〉格の方でなくては無理だろう、かなりの経験や修行を積んだ方による極めて高度な術となるのじゃないかな。――〈水〉の凍結は、『細く一直線』という部分さえ置いておけば初歩者でも何とかなる術ということだが、〈火〉はそうじゃない」

「――」

「細胞の水分を『沸騰』というよりも()()()()()させて――それ()()で『乾燥』させることで細胞の構成要素をまるで砂のように脆いものにすれば、『割れる』ように真っ二つになるかもしれない、が……それは、かなり高度で、恐らく、〈風の糸〉と同様『理屈では可能』という程度の方法論じゃないかと思う。本来なら〈火〉から見て〈水〉は()()()()()()であるから、〈火〉の術式中、『熱量の操作』だけで〈水〉の成分を征服するのは容易じゃない筈なんだ。――私は実践については何も云えない立場だが、多分、相当の時間が掛かるか、それとも術士の体力を相当消耗するか……というより、術士の体力はそれを実現するまで『保たない』というくらいに非現実的じゃないかと」

「……はあ…」

「よって、現実的には、外部からも直接の〈火〉、『炎』も同時に操ることで『真っ二つ』を再現することになるのではないか。即ち、細胞の水分を『蒸発』させつつ、炎によって『焼く』ということだね。あるいは、細胞の熱量を操作というのでなく、外部の空気の温度を上げる、()()()()()()を利用――『摩擦』を激化する、等々の方法を用いて、そちらの熱量を操作することで、『凶器』とする」

「えっ、凶器……、〈火〉で? 直接、『点火』するってんじゃなく?」

 今度はリオンが不思議そうに首を傾げた。イムファルが「そう」と頷く。

「〈火〉には、〈水〉や〈風〉にあるような〈刃〉と名の付く術は、正式には無いんだが、強いて云うなら『熱の刃』とでも云える()()がある。これは、リオン君の方が『技師』としてピンと来るかもしれないな、簡単に云えば、〝レーザー〟に似たものだ」

「……ああ!」

 ぽん、とリオンが膝を叩いて「ナルホド」と大げさに頷く。が、直ぐに「え、でも……」と眉を寄せて首を傾げた。アサギも、戸惑ったような顔をリオンに、その後イムファルに向けた。

 二人の疑問が既に伝わっているのか、イムファルは再び「そうだ」と頷いて続けた。

「しかし、それでは状況に矛盾がある。煙たくなっている訳でもなく、嫌な匂いが立ちこめていた訳でもないのだろう、大統領と幹事長は〈火〉の術者を無意識に容疑者から外しているのかもしれないくらいに、『党首室には何の異状も無い』と云い張った。――()()()()()()()()()()()のに、だ」

「……」

「それに――私が自信を持って云うことは出来ないから、嘘を云ったと思われても困るので後でサンハル隊長やチョウ君などに確認をして貰いたいんだが――、『熱の刃』を使うとすれば、〈凍結〉と同様、距離と位置が問題にもなると思う。〈凍結〉ほど近くはなくて大丈夫だろうけども、やはり、この室内で云えば扉の位置くらいからでないと正確に『真っ二つ』とはいかないんじゃないだろうか。また、位置は確実に対象の真正面でなくてはならないだろう。しかしそれにしたって、机や椅子が無傷というのは、これもおかしい」

 イムファルが溜息をつき、ゆるゆると首を振った。

「最初に戻るけど、〈火〉の術士が『真っ二つ』にする()()()は、()()()()()無いのだしね。そんなことするくらいなら、それこそ『点火』すればいいのさ。炎を出したくない、という動機が仮にあるとしたら、『熱量の操作』の方で云えば、『血液を沸騰させる』という()()()もある――多分、〈水〉の〈氷結〉で全身を凍結させるのと同様、そちらの方が『簡単』でもあるだろう。〈火〉の術士が何かしたんなら、市長の()()()は、明らかに不自然だ」

 だよなあ、とリオンも呆れた溜息をついた。

 イムファルはそこで、少し迷うような目を見せ、ちらっとタオが見下ろしている書類へ視線を向けた。それから、「やはり云っておくべきか」と判断したらしく、若者へ云う。

「――グロテスクな話だから、控えていたけども……。『明らかに不自然である』と断定するための状況を、一つ、君達にも云っておこう」

「な、何スか?」

 イムファルの重々しい口調に、リオンがたじろぎ、アサギはゴクッと唾を飲んだ。

「ボウガンは、例えば窓の外からちらっと室内を覗いたくらいじゃ、ないようなんだ。――恐らく、大統領や幹事長よりも余程『検屍』に近い()()をしている。どういうことかって、『真っ二つ』になっていた、()()がね」

「……」

 うっ、とリオンも息を飲み、アサギは口元に手を当てた。そりゃ――いくら諜報員のように精神の強靱さを求められる者であっても……、その不可解な()()も併せてみれば、弱音を吐きたくもなるだろう…。ルナールとフーコーも、平静は装っているが、表情が固い。

「明らかに()()()()断面ではない……皮膚に焦げた箇所も無い。というか、ボウガンがそう報告してきた訳ではないんだ、()()()()()()()()()()()()、真っ二つに『切断』されているようだと云ってきたのだな。もしそうした痕跡があれば、『〈火〉によって何かが為された可能性』の方を云ってきた筈だ。ボウガンは、魔術士の目で見てもこの状況は不可解だと思ったからこそ、()()()()()()()()のだろう」

 そうか――と若者二人も神妙な顔つきで頷き合う。

 一通り、自分に出来る〈火〉の()()は終わった、ということなのか、イムファルは一つ大きく息を吐いてから領主へ顔を向けた。最後の〈地〉、〈土〉は、当然、〈土〉のマスターたるタオから……と思ったのだろう。


 タオはその視線に気付いて顔をあげはしたが、ニッと笑っただけだった。イムファルを指さし、若者の方へ振った。そして直ぐにまた顔を俯かせ、ボウガンからの書類に目を向けた――君が続けなさい、という仕草だったらしい。タオは既にペンを手にして書類に何やら書き付けたりもしながら、己の思索に耽っている。

 フーコーとルナールも苦笑してイムファルに目を向ける。イムファルが再び溜息をついた。

「――タオ様には今、講義をする気が全く無いようなので、続けて私が〈地〉、〈土〉についても云わせて頂くよ」

 若人二人にそう云った後、イムファルは微かだが恨めしそうな声色でタオへ、

「この場にいらっしゃるんですから、私が何か間違ったことを云ったら、流石に訂正くらいはしてくださいますね、タオ様」

 そう云った。タオは再びちらっと顔を上げる。

「流石に、『間違い』を若者に吹き込むわけにはいかないから、『訂正』は直ぐにするよ。でも、()()()()()()()()()『追補』みたいなことはしないよ、()()()

「……心得ました」

 タオが何だか含みのある笑みを浮かべていたので、イムファルは不審げに軽く目を細めたが、追求はせず頷いただけで、再び若人に向き直る。

「〈土〉の術式について具体的に解説する前に、まず『概論』――『体系論』や『理念』の部分について簡単に()()しておくよ。まず、〈水〉〈土〉は、陰と陽の考え方をした時に陰、静と動では静の側に区分される。そして、〈土〉の象徴する言葉――概念やモノ・コトとは、〝守護〟〝防御〟、〝誕生〟〝育成〟、〝安定〟〝不動〟、〝理性〟〝冷静〟――そうしたものであるから、本来、〈土〉は直接的な〈攻撃〉の術、魔法術式を余り持っていない」

 指を折りつつイムファルがそう云うと、若者二人はきらきらとした目を見開き、身を乗り出した。イムファルからすると大げさに見える反応だったので、「えっ、どうしたね」と少々たじろぐ。

「そうした『象徴』のお話、『概論』については、僕、初めて聞きます!」

「俺も! そういうの、知らなかった!」

「……」

 「確認」のつもりでさらりと云ったのに、「初耳」とは――。イムファルが二人には分からない程度微かに、呆れたように瞬きをした後で、ちらっとフーコーに目を向けた。フーコーは苦笑する。

「……実践の術士は、そういうことを体で実感していくものなのよ、先に言葉があると、理屈(あたま)が邪魔をしがちだからね。サヴァナやフリュスには、サウザーにあるような『研究機関』『研究者の養成機関』が無いから……。そうやって、冷静ながらあっさりと『言葉』に出来て()()()()()()()のは、『研究者』を極めるイムファルさんだからだわ」

 ルナールも微苦笑を浮かべてイムファルに小さく頷いてみせた。イムファルは「そういうものなのですか」と戸惑った後、今度はルナールへ、

「では、若者の将来のためには、ここで止めておいた方が良いのでしょうか」

 少々申し訳なさそうな声色で云った。ルナールは首を振り、

「いえ、リオン君とアサギ君なら、もう大丈夫でしょう。既に感覚としてはそれが大体分かっている筈ですから、『言葉で確認』が出来ることは、マイナスにならないと思います」

 イムファルは大公の言葉に「ほ」と小さく息を吐き、「ならば良かった」と呟く。

 身を乗り出していたリオンが、「ねえ、イムファルさん」と声をかけた。

「じゃあ、〈風〉は、どういう象徴なの?」

 ……好奇心に満ちているのが顕わな声だ。イムファルは小さく苦笑を見せた後で、若者に答えを返した。

「陰と陽では陽、静と動では動、〈風〉と〈火〉がそちらで区分されるね。概念、モノ・コトでは、〝攻撃〟〝破壊〟〝消滅〟〝流動〟〝浮遊〟〝情熱〟〝熱狂〟……そういう感じだな」

 するとリオンが、今度は情けなく眉を下げる。

「陽と云いつつ、何だかネガティヴだなあ……」

 溜息をつきながらそんなことを云ったリオンに、イムファルは再び苦笑して首を振った。

「陰と陽は、所謂『否定・悲観(ネガティヴ)』や『肯定・楽観(ポジティヴ)』と同様の意味で受け取るものではないよ。風火水土それぞれで程度の差もある。――君が云ったのだから敢えて、『ネガティヴ』と『ポジティヴ』に()()()()()()()()()()()()()()()()事象を例に出すならね……」

「はい?」

「――光と闇については研究者の間でも、それをどう扱うべきなのか見解がまだ統一はされていないのだが――今のところでは、『闇』は〈土〉が受け持つとされているし、生と死なら、『死』は、〈土〉の象とされているのだよ?」

「えっ――」

 これにはアサギも驚いたように目を見開いた後、リオンと顔を見合わせて首を傾げあった。


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