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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day2】学習の日(1)午前:討論、講義、説諭
37/93

【day2】(1)-[3]-(2)

「それも『本当にバカだから』で終われたら楽な話ではあるが、楽な方に流れると結局こっちもバカになるからな、もう少し突っ込んでみよう。――だから、大統領と幹事長の行動、その動機は、多分そこで止まってない、と考えてみる」

「それがどうして『助けを求める悲鳴』になるんです?」

 イムファルが首を傾げる。タオが再び口角を上げて、ピッと指を立てた。

「そこが『極端なイエスマン』。おのれ忌々しい魔術士どもめ、と思った後、さあ、どうしたか。――そうだとして、どうするのか。()()()()()どうしたらいいのか」

「……。市長の云うことを聞くしか出来ない張り子の為政者や部下は()()()()()()()()()、そういうことですか?」

 ルナールが呆れた声を出すと、タオは薄笑いだけを浮かべていた。「さあ、どうだろうね?」という表情に見えるが、三人の幹部は「あり得なくはない」と呆れつつも納得しかけていた。

「じゃあ、仮に途方に暮れたとして、どうしたか。……サウザー(こっち)の仕業だと思い込んでるとして、――俺には、『よくもやってくれたなサウザーめ、()()()()()』という罵りではなく、『何をやってくれたんだ、()()()()()()()()()()()()()()()()()』『市長の死が公になるまえに()()()()()()()()』、そう聞こえてきた。――『覚えてろよ』ならまだいいよな、『市長亡き後、己達が必ずおまえ達に復讐してやる』って()()が見える。そうじゃなくて、『己達はどうすればいいのだ』って云ってる……何だか、そう解釈しても良いような気がする。俺はそう云いたいのさ」

「――」

 タオ以外の全てが、はあ、と呆れた溜息をついた。

「――総大将の死亡を報告、なんて愚行を()()()()()()()()()()()()()()するというのも、そうした意図の顕れと解釈出来る。そういうことでしょうか……?」

「強引か? 意識的に――本当にサウザー(こちら)に対して『どうすればいいか教えて下さい』って意味でやってるのか、無意識――それがどんな意味であれ、良いか悪いかも分からずに取り乱してやってるのか、それはどっちなのか分からんが、俺はそう考えたら、何か、繋がりそうな気がしてきたんだがねえ……。――少なくとも、サウザー(こっち)が暗殺を認めてくれさえすれば、()()()()公表が出来る。そして世論や他の為政者に()()()()()()ことが出来る。……そうした考えが、フーコー曰くの()()()()に『無い』とは云えないな、俺は」

 イムファルが云うと、タオは薄笑いのままで首を傾げてみせた。

 フーコーが天井に顔を向けて「はー」と息を吐いた。呆れた様子が見える。だが、()()している様子も見えた。

 その後ろから「何だよそれー」と不満げなリオンの声が聞こえた。

「それじゃ、()()()バカじゃんよ。タオ、あんた今、だったら俺らもバカだつったけど、俺、そんなバカと一緒にされたくねえよ」

「『亡くしたくない者を亡くした悲しみと怒り』に任せて『腐っても為政者』がただの罵りを投げてきたというなら、それを納得して終わるなら、バカだって云ったんだ。でもそれは『純粋なバカ』であって、『バカ()()()純粋』とも云い替えられるからマシ。――『亡くしたくない者を亡くした悲しみと怒り』は、()()()()当たり前だからな。理性や知性で制御出来ない」

「……」

「後のは『駄目なバカ』。腐っても為政者、じゃなくて、腐ってる為政者」

 ふて腐れた顔のリオンに、特に云い聞かせる訳でも無くタオはさらりと云った。リオンは「フォローされた気がしない」と云った後で、むっつりと口を噤んだ。

「ただ、本人には自分が『腐ってる為政者』なんて自覚は当然無いし、羞恥心や後ろめたさも無いんじゃないだろうか。意外と、『現状においてCFCの為政者として当然のことをやっている』と自信を持っているかもしれないな。簡単に云うと、CFCはサウザーを支配下に置きたくてケンカふっかけてきた訳だろ。()()()()()()()()()()()()()()()()、『云うこと聞かせたい』んだ。性根としては、俺らと『対等』にあろうとはしていない、向こうは命令する立場、こっちは命令を聞くべき立場だと思っている。ある意味、一貫してるじゃないか、『云うこと聞け』って要求してるんだから。彼らの()()()()()()()に矛盾は無いんだ」

「しかし、それにしても……、総大将の死亡を敵国に知らせるなんて、どんなに危険なことかも分かっていないんでしょうか。まさか既にサウザー(われわれ)()()()()()()()()()()なんてところまでは行っていないでしょうし、我々がCFCを敵だと思ってないなんて認識もしてないでしょう――していたら本当に『バカ』です――。リオン君が云った通り、それは普通、裏切りかスパイ行為ですよ。もし、こちらの方が最終決戦の好機と考えたらどうするのか……」

 ルナールが首を傾げながら云うと、フーコーが「だから駄目な為政者なのよ」と彼女に云った。

「『危険』の感じ方が、()()()()()()()()()()んでしょうよ。こちら側がCFCの攻略、占領作戦を始めたとしても、幹部には()()()()()()()()じゃない? 前線には居ないんだもん。市長から云われる通りに『せーじか』やってただけで『せーじ』やってたつもりないでしょ、()()二人に」

「――」

「タオさんが云った、『市長亡き後、己達がどうすればいいのか』と、()()()()()()()()()()()ってのがマジなら、この愚行は、云い替えたら『保身』のためだけに行われている。その『保身』の『身』が何なのかもそういう連中を理解するときには重要よね。――今までは『身』が()()で、権力者っていうのは大体、普段は誰かから特別守られてるでしょ、そのせいで生命の危険には意外と暢気なのよ、特に軍人じゃない者は。駄目な権力者ほど『どうして特別守られるのか』を意識しないまま、ただ()()()死なないと思ってるの。でも、市長が居なくなって権力が怪しくなったら、今度は『命』、本当の意味で『身』よ。民衆はさておいて真っ先に逃げることだって、()()()()なら平気で出来るわ。――それに、そういう連中って『保身』のための勘や行動は鋭いから、もしかすると、『この死亡情報を向こうに入れても、サウザーは占領作戦など執らない』と()()()()()()()()のかもしれないわね。そうでなけりゃ本当に、単純に上から目線で『教えてやったんだから自分たちのことは助けろ』ってつもりもあるのかもしれないわ」

 ふん……とフーコーが鼻を鳴らした。ルナールは「気分が悪い」と云うふうに顔をしかめる。

 タオが苦笑いを浮かべて、「じゃあ、次」と云った。

「次?」

 フーコーが首を傾げる。タオは苦笑いを浮かべたまま「やれやれ」というふうに軽く首を振った。

「ほら、()()()……。君はちょっと、一度納得出来ると直ぐそれだけで理解を深めた気になってしまう、良くない癖がある。アエラだけじゃなくて、君達、『大統領と幹事長がバカだ』ってのを『結論』にして()()しかけてるだろう」

 フーコーだけでなく、イムファルやルナール、若者達にもタオが視線を巡らせる。

 図星、故に反省、というふうにルナールとアサギは小さく顔を俯かせ、イムファルはバツが悪いという表情を隠すためか、頬を擦った。フーコーとリオンは「それじゃ駄目なのか」というふうに顔を見合わせてから、タオに向かって首を傾げてみせた。

「自分で『大正解』って云ったのに……、他の可能性もまだ考えるのか?」

 リオンが口を尖らせながらそう云うと、タオは「かもしれないって云ったろ?」と返した。

「――大統領と幹事長がバカじゃなかったらどうするんだ。悲劇がこっちで起きるぞ?」

「……それはそうだけど…。あの二人は元々バカですよ、タオさん」

「周到なキャラ付けだったらどうする」

 随分身も蓋もないさっぱりとした声でフーコーが云い、タオが苦笑のまま訊くと、彼女は「ええー? そんなことあるかしら」と口を尖らせた。

「そうだったらどうする、っていう可能性の話だ。本当のとこどうだかは、どうだって良いんだよ。最初から、()()()()今後に備えるために、可能性を炙り出してるだけなんだからさ。……今の情報と状況から考えられる可能性が()()()()()のに、一つの結論に安心してたら、結果的に『こっちがバカ』ってことになるぞ、フーコー」

 今度こそバツが悪そうに、もじもじとフーコーは肩を揺らした。

「第一、その『イエスマン、故にバカ』の可能性も、前提としている部分に穴というか、突っ込み所はあるんだからな」

 髭を扱きつつ全員に視線を巡らせてタオが云う。「誰か意見は無いか」というような目線だ。……いつのまにか、全員に「試験」が始まっているんだろうか。

 困った顔の誰からも発言が無いので、タオは肩を竦め、

「――振り出しに戻るようだから、まあ、仕方ないか」

 と苦笑混じりに独りごち、それから続けた。

「市長が死んでいない可能性」

「でも、それは……、もう考えなくても良いのじゃありません?」

 ルナールはその可能性を自分の中で潰している。大統領と幹事長が取り乱した通信をしてきたのは、市長が死んだから、と素直に考えて良いと思われる。フーコーも頷き、

「本当に振り出しに戻る、だわ。市長を死んだことにした上で何らかの計略があるのなら、大統領と幹事長はそれに噛んでる筈だもの…」

「それを考え出したら、もうこちらは何も出来ません。向こうの出方を待つより他……」

「ソレで良いじゃないか」

 戸惑ったような声でフーコーとルナールが云った言葉にタオがニッと笑い、ルナールを指さして云った。きょとんとした顔をフーコーとルナールは見合わせる。

「だから、市長は本当に死んでいるのか、その疑いを持っている方が、()()()()()身の振り方は一番簡単だろ。『迂闊に動かない』。『本来なら総大将の死亡を敵国に真っ先に教えるなんてあり得ない』、そう、その通り。すると? 『じゃあ市長は死んでないのかもしれない』と考える方が自然になる。――さっきの『イエスマン故にバカ』の仮定と合わせて考えてみなさい。総大将の死亡を知ったこっちが、好機と考えて制圧作戦に出たとする。しかし、CFCはそれを返り討ちにするための準備が済んでいる、なんてことだったら、どうする?」

「……」

「まあ、それは本当に市長が死んでるかどうかは問わない話で――もしかしたら『思ったよりバカじゃない』可能性、ってことでもあるかな」

「あの……」

 アサギが怖ず怖ずと手を挙げて声を出した。タオがにっこり笑って、「なんだい」とアサギに云った。

「大統領と幹事長が市長の側近とさっき仰ってましたが、その二人より他には、居ないんですか?」

 アサギの質問に対し、「君が答えて」と云うふうにタオがイムファルへ視線を向けた。イムファルはタオに頷いた後でアサギに向かい、

「為政者としての側近と云うか……、政治活動に於いての『重要な味方』――良くない言葉を使えば『手駒』『手下』という意味では、その二人が何より、と思って良いでしょうね。〈軍〉に特化した場合であれば、陸軍幕僚長が側近と云えるかもしれませんが、そちらは『どこまでも命令に忠実』という意味の『駒』、イエスマンであって――何らかの計画を実行することはあっても、計画の段階では荷担しないと思われます。市長の政策や意向に異議を唱えない、という意味のイエスマンである大統領や幹事長とは、ちょっと趣が異なりますね。まあ、何にせよ『CFCの幹部』でもある側近はその三名が何よりでしょう。――ただ、他にも、有能な秘書が居るらしいことは把握してます。もしかすると、『信頼』という点に於いては秘書の方が、その三名より上回っているかもしれません。確か、私生活の方で、家内の執事でもあったかと」

「だったら……」

 アサギが何か考える顔をした後で一度眉を寄せ、次にはとても申し訳なさそうな顔をして手を振りながら、

「済みません、あの、物凄く突飛で、空想に近いようなことだと思いますから、そこまで深く考えてくださらなくてもいいんですけど」

 と前置きをした。タオ以下、幹部達が苦笑して、「構わないから、どうぞ」とルナールが代表して手を差し出した。――苦笑を浮かべていた年長者達は、タオ以外直ぐに真剣な顔になる。


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