【day2】(1)-[3]-(2)
「それも『本当にバカだから』で終われたら楽な話ではあるが、楽な方に流れると結局こっちもバカになるからな、もう少し突っ込んでみよう。――だから、大統領と幹事長の行動、その動機は、多分そこで止まってない、と考えてみる」
「それがどうして『助けを求める悲鳴』になるんです?」
イムファルが首を傾げる。タオが再び口角を上げて、ピッと指を立てた。
「そこが『極端なイエスマン』。おのれ忌々しい魔術士どもめ、と思った後、さあ、どうしたか。――そうだとして、どうするのか。自分たちはどうしたらいいのか」
「……。市長の云うことを聞くしか出来ない張り子の為政者や部下は完全に途方に暮れた、そういうことですか?」
ルナールが呆れた声を出すと、タオは薄笑いだけを浮かべていた。「さあ、どうだろうね?」という表情に見えるが、三人の幹部は「あり得なくはない」と呆れつつも納得しかけていた。
「じゃあ、仮に途方に暮れたとして、どうしたか。……サウザーの仕業だと思い込んでるとして、――俺には、『よくもやってくれたなサウザーめ、覚えてろよ』という罵りではなく、『何をやってくれたんだ、おまえ達のせいなんだから何とかしろ』『市長の死が公になるまえにどうにかしてくれ』、そう聞こえてきた。――『覚えてろよ』ならまだいいよな、『市長亡き後、己達が必ずおまえ達に復讐してやる』って信念が見える。そうじゃなくて、『己達はどうすればいいのだ』って云ってる……何だか、そう解釈しても良いような気がする。俺はそう云いたいのさ」
「――」
タオ以外の全てが、はあ、と呆れた溜息をついた。
「――総大将の死亡を報告、なんて愚行を夜通し繰り返した上、返答を要求するというのも、そうした意図の顕れと解釈出来る。そういうことでしょうか……?」
「強引か? 意識的に――本当にサウザーに対して『どうすればいいか教えて下さい』って意味でやってるのか、無意識――それがどんな意味であれ、良いか悪いかも分からずに取り乱してやってるのか、それはどっちなのか分からんが、俺はそう考えたら、何か、繋がりそうな気がしてきたんだがねえ……。――少なくとも、サウザーが暗殺を認めてくれさえすれば、安心して公表が出来る。そして世論や他の為政者に判断を委ねることが出来る。……そうした考えが、フーコー曰くのあの二人に『無い』とは云えないな、俺は」
イムファルが云うと、タオは薄笑いのままで首を傾げてみせた。
フーコーが天井に顔を向けて「はー」と息を吐いた。呆れた様子が見える。だが、納得している様子も見えた。
その後ろから「何だよそれー」と不満げなリオンの声が聞こえた。
「それじゃ、ちょーバカじゃんよ。タオ、あんた今、だったら俺らもバカだつったけど、俺、そんなバカと一緒にされたくねえよ」
「『亡くしたくない者を亡くした悲しみと怒り』に任せて『腐っても為政者』がただの罵りを投げてきたというなら、それを納得して終わるなら、バカだって云ったんだ。でもそれは『純粋なバカ』であって、『バカだけど純粋』とも云い替えられるからマシ。――『亡くしたくない者を亡くした悲しみと怒り』は、人として当たり前だからな。理性や知性で制御出来ない」
「……」
「後のは『駄目なバカ』。腐っても為政者、じゃなくて、腐ってる為政者」
ふて腐れた顔のリオンに、特に云い聞かせる訳でも無くタオはさらりと云った。リオンは「フォローされた気がしない」と云った後で、むっつりと口を噤んだ。
「ただ、本人には自分が『腐ってる為政者』なんて自覚は当然無いし、羞恥心や後ろめたさも無いんじゃないだろうか。意外と、『現状においてCFCの為政者として当然のことをやっている』と自信を持っているかもしれないな。簡単に云うと、CFCはサウザーを支配下に置きたくてケンカふっかけてきた訳だろ。子供にも分かりやすいように云えば、『云うこと聞かせたい』んだ。性根としては、俺らと『対等』にあろうとはしていない、向こうは命令する立場、こっちは命令を聞くべき立場だと思っている。ある意味、一貫してるじゃないか、『云うこと聞け』って要求してるんだから。彼らの思考回路と行動に矛盾は無いんだ」
「しかし、それにしても……、総大将の死亡を敵国に知らせるなんて、どんなに危険なことかも分かっていないんでしょうか。まさか既にサウザーを敵だと認識していないなんてところまでは行っていないでしょうし、我々がCFCを敵だと思ってないなんて認識もしてないでしょう――していたら本当に『バカ』です――。リオン君が云った通り、それは普通、裏切りかスパイ行為ですよ。もし、こちらの方が最終決戦の好機と考えたらどうするのか……」
ルナールが首を傾げながら云うと、フーコーが「だから駄目な為政者なのよ」と彼女に云った。
「『危険』の感じ方が、為政者として腐ってるんでしょうよ。こちら側がCFCの攻略、占領作戦を始めたとしても、幹部には逃げる時間があるじゃない? 前線には居ないんだもん。市長から云われる通りに『せーじか』やってただけで『せーじ』やってたつもりないでしょ、あの二人に」
「――」
「タオさんが云った、『市長亡き後、己達がどうすればいいのか』と、こっちに助けを求めてるってのがマジなら、この愚行は、云い替えたら『保身』のためだけに行われている。その『保身』の『身』が何なのかもそういう連中を理解するときには重要よね。――今までは『身』が権力で、権力者っていうのは大体、普段は誰かから特別守られてるでしょ、そのせいで生命の危険には意外と暢気なのよ、特に軍人じゃない者は。駄目な権力者ほど『どうして特別守られるのか』を意識しないまま、ただ自分は死なないと思ってるの。でも、市長が居なくなって権力が怪しくなったら、今度は『命』、本当の意味で『身』よ。民衆はさておいて真っ先に逃げることだって、あの二人なら平気で出来るわ。――それに、そういう連中って『保身』のための勘や行動は鋭いから、もしかすると、『この死亡情報を向こうに入れても、サウザーは占領作戦など執らない』と信用してくれてるのかもしれないわね。そうでなけりゃ本当に、単純に上から目線で『教えてやったんだから自分たちのことは助けろ』ってつもりもあるのかもしれないわ」
ふん……とフーコーが鼻を鳴らした。ルナールは「気分が悪い」と云うふうに顔をしかめる。
タオが苦笑いを浮かべて、「じゃあ、次」と云った。
「次?」
フーコーが首を傾げる。タオは苦笑いを浮かべたまま「やれやれ」というふうに軽く首を振った。
「ほら、アエラ……。君はちょっと、一度納得出来ると直ぐそれだけで理解を深めた気になってしまう、良くない癖がある。アエラだけじゃなくて、君達、『大統領と幹事長がバカだ』ってのを『結論』にして安心しかけてるだろう」
フーコーだけでなく、イムファルやルナール、若者達にもタオが視線を巡らせる。
図星、故に反省、というふうにルナールとアサギは小さく顔を俯かせ、イムファルはバツが悪いという表情を隠すためか、頬を擦った。フーコーとリオンは「それじゃ駄目なのか」というふうに顔を見合わせてから、タオに向かって首を傾げてみせた。
「自分で『大正解』って云ったのに……、他の可能性もまだ考えるのか?」
リオンが口を尖らせながらそう云うと、タオは「かもしれないって云ったろ?」と返した。
「――大統領と幹事長がバカじゃなかったらどうするんだ。悲劇がこっちで起きるぞ?」
「……それはそうだけど…。あの二人は元々バカですよ、タオさん」
「周到なキャラ付けだったらどうする」
随分身も蓋もないさっぱりとした声でフーコーが云い、タオが苦笑のまま訊くと、彼女は「ええー? そんなことあるかしら」と口を尖らせた。
「そうだったらどうする、っていう可能性の話だ。本当のとこどうだかは、どうだって良いんだよ。最初から、こっちが今後に備えるために、可能性を炙り出してるだけなんだからさ。……今の情報と状況から考えられる可能性が他にもあるのに、一つの結論に安心してたら、結果的に『こっちがバカ』ってことになるぞ、フーコー」
今度こそバツが悪そうに、もじもじとフーコーは肩を揺らした。
「第一、その『イエスマン、故にバカ』の可能性も、前提としている部分に穴というか、突っ込み所はあるんだからな」
髭を扱きつつ全員に視線を巡らせてタオが云う。「誰か意見は無いか」というような目線だ。……いつのまにか、全員に「試験」が始まっているんだろうか。
困った顔の誰からも発言が無いので、タオは肩を竦め、
「――振り出しに戻るようだから、まあ、仕方ないか」
と苦笑混じりに独りごち、それから続けた。
「市長が死んでいない可能性」
「でも、それは……、もう考えなくても良いのじゃありません?」
ルナールはその可能性を自分の中で潰している。大統領と幹事長が取り乱した通信をしてきたのは、市長が死んだから、と素直に考えて良いと思われる。フーコーも頷き、
「本当に振り出しに戻る、だわ。市長を死んだことにした上で何らかの計略があるのなら、大統領と幹事長はそれに噛んでる筈だもの…」
「それを考え出したら、もうこちらは何も出来ません。向こうの出方を待つより他……」
「ソレで良いじゃないか」
戸惑ったような声でフーコーとルナールが云った言葉にタオがニッと笑い、ルナールを指さして云った。きょとんとした顔をフーコーとルナールは見合わせる。
「だから、市長は本当に死んでいるのか、その疑いを持っている方が、こっち側の身の振り方は一番簡単だろ。『迂闊に動かない』。『本来なら総大将の死亡を敵国に真っ先に教えるなんてあり得ない』、そう、その通り。すると? 『じゃあ市長は死んでないのかもしれない』と考える方が自然になる。――さっきの『イエスマン故にバカ』の仮定と合わせて考えてみなさい。総大将の死亡を知ったこっちが、好機と考えて制圧作戦に出たとする。しかし、CFCはそれを返り討ちにするための準備が済んでいる、なんてことだったら、どうする?」
「……」
「まあ、それは本当に市長が死んでるかどうかは問わない話で――もしかしたら『思ったよりバカじゃない』可能性、ってことでもあるかな」
「あの……」
アサギが怖ず怖ずと手を挙げて声を出した。タオがにっこり笑って、「なんだい」とアサギに云った。
「大統領と幹事長が市長の側近とさっき仰ってましたが、その二人より他には、居ないんですか?」
アサギの質問に対し、「君が答えて」と云うふうにタオがイムファルへ視線を向けた。イムファルはタオに頷いた後でアサギに向かい、
「為政者としての側近と云うか……、政治活動に於いての『重要な味方』――良くない言葉を使えば『手駒』『手下』という意味では、その二人が何より、と思って良いでしょうね。〈軍〉に特化した場合であれば、陸軍幕僚長が側近と云えるかもしれませんが、そちらは『どこまでも命令に忠実』という意味の『駒』、イエスマンであって――何らかの計画を実行することはあっても、計画の段階では荷担しないと思われます。市長の政策や意向に異議を唱えない、という意味のイエスマンである大統領や幹事長とは、ちょっと趣が異なりますね。まあ、何にせよ『CFCの幹部』でもある側近はその三名が何よりでしょう。――ただ、他にも、有能な秘書が居るらしいことは把握してます。もしかすると、『信頼』という点に於いては秘書の方が、その三名より上回っているかもしれません。確か、私生活の方で、家内の執事でもあったかと」
「だったら……」
アサギが何か考える顔をした後で一度眉を寄せ、次にはとても申し訳なさそうな顔をして手を振りながら、
「済みません、あの、物凄く突飛で、空想に近いようなことだと思いますから、そこまで深く考えてくださらなくてもいいんですけど」
と前置きをした。タオ以下、幹部達が苦笑して、「構わないから、どうぞ」とルナールが代表して手を差し出した。――苦笑を浮かべていた年長者達は、タオ以外直ぐに真剣な顔になる。




