【day2】(1)-[3]-(1)
――現在サウザーが「戦争」をしている「CFC」とは、狭義の意味で「国家」ではない。国としての範囲で云えば、ユニオン・オブ・チューズン・フロリア・シティズンという連邦国家が存在しており、今話題にしている「CFC」とは、正確にはCCFC……UCFCの中の一都市である。UCFCの首都と云って良いだろう。
しかし……、国家的に存在しているのは、UCFCの中のCCFCだけなのだ。CCFCがCFCなのである。
CCFCの周辺に存在する他の都市・州は実質的な自治権を持たされていない。全ての権力はCCFCに集中しており、他自治体はCCFCの判断と決定、その通達に従うのみである。よって――一応UCFCという「連邦」に大統領――内閣、議会、司法組織が、CCFC以外の都市・州に行政府である庁舎、議会、地方警察が存在しても、それは世界的な体面上のこと、実質はCCFCの裁量だけでUCFC全土の行く末も決まる。
サウザーとの「戦争」はUCFC全土の土地・人材・資源全てを投入して行われているが、また〈軍〉についても名称こそ「CFC連邦軍」と付いているが、周辺都市・州では「徴兵」「徴用」「接収」だけが行われ、組織の運営はCCFCによってのみ行われる――よってサウザーの側が〈敵国〉とみなしているのはCCFCであり――宣戦布告をしてきたのがCCFCであり〈軍〉組織がCCFCによって動かされているのだから当然のこと――、CCFCを指してCFCと呼んでいるのだ。
端的に云うと――当のCFCは「外国」からそれを云われると相当気を悪くするのだが――UCFC内のCCFCを除いた州・都市・自治体等は、CCFCの「植民地」「属国・属州」に近い。
そんなCFCの政の最終責任者――立法・行政・司法三権の執行権と〈軍〉総司令官の任を持つ最高権力者が、CCFC市長なのである――死亡が本当なら「だった」と云うべきだろうが――。
そして、野党などあって無きがごとし――恐らく「民主主義国家」を標榜するための既成事実を必要とするが故に、党と云うより「サークル」とでも呼ぶべきような零細政党だけが存在を許されている――CFCに於いて、ゲオルグ・プルマン市長は与党「アスール新民党」の党首でもあった。
そんなCFCで――名ばかりのUCFC大統領と、党の幹事長が、通信の張本人?
ルナールは眉を寄せて、「そうですか……」と溜息をつきながら頷きを見せた。
「ユイ・モニエ大公様、それがどうか?」
イムファルが首を傾げる――サウザー城内における上下関係・地位に於いてはさして変わりがないのだが、イムファルはルナール公国の出身であったので、彼女を「公」や「姫」付きで呼ぶことが多い――。
「……市長は本当に死んでいるのだろうか、と思ったんですよ。――いえ、アエラさんとイムファルさんが芝居を見抜けなかったって意味ではなくてね――、通信して来た者は、本当に惨い死体を見たが故に、本気で取り乱していた……のかと」
「ユイちゃん……どういうことよ?」
フーコーが首を傾げた。
「――発見された遺体が本当に市長だったのか、という意味です。何らかの策略――こちらを担ぐために、影武者なりを殺害して……それを知らない誰かを発見者にし、真に迫った罵りと市長死亡の『偽情報』をこちらに寄越した、とか……。本当は市長は生きている」
「……。そうなると、もう、CFCの真意を読もうとするのは不毛だわね、お手上げだわ。向こうの出方を待つしか無い、ってなっちゃう」
フーコーが肩を竦める。ルナールも「ええ、迂闊に身動き取らない方がいい、って結論になりますよね」と頷いた後で、次には首を振った。
「でも、通信してきたのがUCFCの大統領と幹事長ってことですから……、想像が外れました」
何らかの計略のために「市長を死んだことにする」のは、市長一人では無理だ――自国民をも一度は騙すために本当に死体を作ってまでそれをやるのなら、計画へ荷担している者が僅かでも居る筈だ。ではそれは誰か、と考えた場合――UCFC大統領とアスール新民党幹事長以外とは考え難い。
「大統領と幹事長は、市長の側近中の側近です。その二人が何らかの計略を全く知らされないということは無いでしょうし、芝居とは思えない取り乱し方で罵倒してきたということは、――恐らく、市長は本当に死んでるんでしょう。遺体を発見したのもどちらかなのかもしれませんね…」
「でも、それにしたってさあ」
ルナールが首を傾げながら持論の撤回を呟く。その後に被さるように、リオンがまた頭に手をやったまま、ふて腐れた声を出した――恐らく「訳分かんない」「意味分かんない」ことに、やり場の無い不満、気持ち悪さがジワジワと降り積もっているのだろう――。
「腐っても『セージカ』がさ、特別策も裏も無く、ただ罵りたいって感情だけで『敵に総大将の死亡を報告する』なんて、あり得ねえし。どんだけべったりの市長シンパが最初どんなに取り乱しても、そこは堪えて『今後のこと』を考えてから行動するもんじゃないの? 俺、良く知らねえんだけど、UCFCの大統領とアスールの幹事長って、そんなにバカ?」
リオンの率直な物言いに、フーコーが思わず吹き出し、イムファルとルナールは俯いて肩を震わせた。
「あ、それともその大統領と幹事長って、女なん? 市長のコレ?」
リオンが小指を立てた。ルナールが苦笑して「いいえ、両方とも男性ですよ」と首を振った。
「じゃあ、こっち?」
と今度は親指を立てる。――サヴァナは同性愛や両性愛に対して禁忌や制限を設けていない、リオンは当たり前のように、ただ確認のつもりでその仕草を見せた。
今度はイムファルが苦笑して、フーコーとルナールにも顔を向け、
「そういう話は聞きませんねえ」
と云った。リオンはまたふて腐れた声で「なーんだ」と云った。
「だったら分かるって思ったのに。『自分のオトコが殺された』ってんなら、セージカでも、戦時下だとか今後のことがどうとか吹っ飛ぶくらい取り乱して、その犯人――だと思った奴――に食って掛かるコトもあるかなって。――親子兄弟とかってんでもないんだ?」
「そうね……」
今度はしみじみと、ルナールが息を吐きながら頷いた。
リオンの云う通りだ。――彼は思ったことを素直にさらりと口にしただけだろうが……、だったら分かる。
CFCとサウザー両方に――いや、世界中に、どんな崇高な政治理念をも吹き飛ばす罵詈雑言、それだけを〈敵〉に投げつけてやりたい者が相当数居る筈だ……。
「仮に、市長の奥方から同じ罵倒が来ていたら、濡れ衣ではありますけど、納得は出来ていたでしょうね」
イムファルも神妙な顔つきでそう云った。フーコーも「そうね」と云って頷く。が、直ぐにぶるっと――感傷を振り払うためか――首を振って、「でも」と張りのある声を出した。
「そうじゃないのよ。家族でもなければ情人でもない。強いて云えば、極端なまでのイエスマン。市長にべったりの腰巾着ってことだけは確か。私としてはもう、リオン君の単純な一言に一票を投じたいわ、そこまでバカだったのかって。云ったでしょ、『そんな知恵が回ってるようには思わなかった』」
「それじゃないか?」
薄笑いを浮かべて若者と部下の議論をただ聞いていたタオが、不意に口を開き、ピッと人差し指でフーコーを指した。
リオンに振り向いていたフーコーが、「え?」と領主を再び振り返る。相変わらずタオは薄く笑っていた。
「それって、――何が?」
「『イエスマン』。それだよ。――意外と、それが大正解かもしれないぞ」
「……」
戸惑いや不審の色が滲む目線を幹部は三人で交錯させて、最後には領主へ向けた。
「俺は実際にその通信を聞いていないから、口調や声色、息づかい、そういった判断材料が無いわけだけども……」
タオはイムファルとフーコーの二人をそれぞれ見つめて云い、次を続けた。
「今まで君達の議論を聞きながら、自分でも色々と考えてみて――、俺には、怒りに満ちた罵りというより、助けを求める悲鳴にも聞こえた」
独り言のような口調で云った領主に、フーコーが「はあ?」と呆れた声を出した。
「助けを求めるですって、何それ。捜査要請どころか、救助要請だって云うの?」
タオは相変わらず、仄かに笑っている。
「君が云った『極端なイエスマン』を念頭に置いてみると、UCFC大統領とアスール党幹事長の行動の意味――辻褄が、何となく見えてくる気がするんだけどねえ」
「……」
「前置きとして、遺体を発見したのが大統領か幹事長と仮定しよう。で、遺体を発見する――。リオン曰く『腐っても為政者』だ。今後のことをどうするか、と一応は思っただろう。で、そこで出た答えが、取りあえず『市長の死亡をまだ公表しない』。何故なら公表した後のことがその場では思いつかなかった、どうしていいか分からなかったからだ。――その段階で世論がどっちに動くか想像しようともしただろう。だが、どっちに動いたにせよ、どうしていいのか分からない。もしかすると、どっちに世論が傾くというより、大混乱になるかもしれない、その時どうすれば良いのか? ――だから、ここは公表せずに居よう。つまり、『先延ばし』を選んだのではないか。――公表しないとなれば当然警察等の捜査員も現場に呼ばない」
「……それで?」
「これまた前置きとして、本当に党首室が遺体発見現場であり殺人現場でもあったらしいと仮定する――というか、俺が例に出したような状況、党首室に居た筈の市長が転落死していたとか首だけ外に落ちてたとかだと、他の目撃者がどうしたって出て来る、公表しない訳にはいかない巡り合わせになるはずだから、現場は党首室と思っていいんじゃないかな。――状況を見る限り、侵入者があったようには思われず、しかも、常人には考えつかないし実行出来ないような惨い死に方をしている。大統領と幹事長は『魔術士の仕業だ』と思う」
「濡れ衣ですけどね」
ふん、とフーコーが鼻を鳴らす。
「そこで『おのれサウザーの魔術士か、そうでなければサヴァナかフリュスか』と怒り心頭。だが、ここで此方に通信をしたのならば、本当にバカだからだ。無論、それが事実だとしたらこっちにとっても一番楽ではある、分かりやすいから」
「そうではないと? 私はそう思いますけどね」
「俺もそう思っていい気がしてきてるけどなあ」
フーコーが云うと、後ろでリオンも乗っかった。するとタオが意地悪くニッと笑う。
「だったら君達もバカだ。そこで止まっていいんなら、何を議論してたんだ、今。『まさかそんな筈はあるまい』と思ってたから、一体CFCの通信にはどんな意味が隠されているのか、わざわざ議論してたんだろう」
――二人ともが、うっ、とたじろぐ。
「『怒り心頭』の意味を問題にしてたんだよ、今。――市長が『尊敬・崇拝を集めていたオンリーワンの名君』だったとしたら、家族や情人を殺された者と同様、その段階で……純粋な怒りのみで『犯人』に食ってかかる気になっても、まあ、可笑しくはない。それなら分かるとは君達も考えた訳だよな。俺も理解出来る。だが、フーコー、君自身が『それは無い』って否定したじゃないか?」
「え――ええ……まあ」
「もし、その純粋な怒りのみが理由だとしても、普通の為政者なら、一度怒鳴れば自分がどんな『愚行』をやったのか理解出来る筈さ、二度目は無い筈だ。いくら罵倒する対象を犯人だと思い込んでるにせよ、戦時下『総大将の死亡を敵国に真っ先に報告』なんて真似をついやってしまうなど、『腐ってもせーじか』として、そりゃもうあってはならないことだ。どれだけ憤懣やるかたなくても、二度目以降は堪えるだろう、普通。一人が堪えられなくても二人目が止めていいじゃないか――云ったろう、仮に俺が暗殺されてアエラが罵倒以前に一人でリヴェンジに向かおうとしても誰か止めろよ、って。それと同じことだ――。むしろ、機器の異常なんか無くても異常と云い張って、こちらからの返答を向こうが遮断するのが本来自然なんだよ。それで『そんなこと云ったっけ?』て恍ける方がまだしもだ――後ろでアエラがどんなにキレて暴れてても、イムファルやルナールが『存じません、何のことですか』と恍けてなきゃ駄目だよ?」
「分かりましたから、もう、そこまで私を引き合いに出さないで頂戴」
むっつりとフーコーが口を尖らせる。タオがフッと笑って「なのに」と続けた。
「――夜通し、もしかすると交代でやってたって――ずっと取り乱したまま、交代までして、こっちは聞いてないただの罵りの言葉を投げ続けてた……投げ続けるテンションを保ってたってことになるんだぜ? それで繋がらないのを『こっちのせいにする』って。ねえ?」
「……」




